同友会メディカルニュース

2024年6月号
注意すべき肺炎 ―加湿器肺(過敏性肺炎)―

はじめに

過敏性肺炎とは、抗原を吸い込むことによって生じるアレルギー性の肺炎で、細気管支(細い気管支)から肺胞(肺にある小さな袋)の中や壁に炎症が起こります(図1)。その結果、咳や息切れ、発熱などの症状が現れます。軽度であれば抗原を回避することで回復しますが、重症の場合には薬物療法や酸素療法、人工呼吸器管理が必要になることがあります。その抗原は、カビの仲間である真菌、細菌、動物由来の異種蛋白(鳥の糞、羽に含まれる)、環境中の低分子化学物質など、多岐にわたります。本邦では、湿度の高い気候と木造建築が多い環境からトリコスポロンという真菌(Trichosporon asahii)を原因とする夏型過敏性肺炎の頻度が高く、全過敏性肺炎中の約70%を占めると言われています(参考文献1、2)。

加湿器肺の肺生検組織所見

近年、COVID-19感染症の流行により、家庭用超音波型加湿器の普及が加速し、加湿器内の汚染水の吸入により惹起される加湿器肺の報告が多く見られるようになりました。最初、1959年Pestalozziにより加湿器熱として報告され、1970年にBanaszakらにより過敏性肺炎として報告されています(参考文献3)。その後、Monday sickness、 加湿器肺などの呼称で報告されています(参考文献4、5)。本疾患は主治医が鑑別疾患として加湿器肺を想定し、問診をしない限りは診断に至らない疾患であり、肺炎患者の診察において加湿器の使用歴と病状経過の詳細な問診が診断過程において極めて重要です。

病因

加湿器肺は細菌、真菌、抗酸菌、(細菌の毒素である)エンドトキシンなどで汚染された加湿器の水を反復吸入することでアレルギー反応の一種である感作が成立し、さらなる汚染水の吸入で発症します。本症発症のメカニズムとして4種類のアレルギー反応の中でもⅢ型及びⅣ型アレルギー反応によるとの見解が有力でありますが、十分には解明されておりません。原因抗原としては、細菌(Thermophilic actionomycetes, Thermoactinomyces vulgaris, Thermoactinomyces candidus, Flavobacterim meningocepticumなど)、真菌(Candida albicans, Cephalosporium acremonium, Trichoderma viridae, Aspergillus fumigatusなど)、アメーバ(Naegleria gruberiなど)が報告されています。これらの報告のうち、好熱性微生物の関与が示唆された症例は加熱式の加湿器が使用されていますが、我が国はほとんどが、超音波型加湿器であり、好熱性微生物の関与した報告は少ない。細菌の中でグラム陰性桿菌が関与した症例に関しては、加湿器水や血液中のエンドトキシンの上昇のある症例の報告もあり、加湿器吸入後の発熱や血液検査における白血球増多などの症状にエンドトキシンによる免疫応答する体内物質である補体の活性化の関与も考えられています(参考文献6)(図2)。

図2 過敏性肺炎の発症機序仮説(加湿器肺と夏型過敏性肺炎)
画像をクリックすると大きな図が開きます

臨床症状

発症すると咳嗽、呼吸困難、発熱(高熱の場合もある)などがみられます。本邦では加湿器使用の頻度が高くなる冬場の乾燥する時期に多く発症します。身体所見では背部を聴診器で聴取すると捻髪音(バリバリ音)や水泡音(プツプツ音)を聴取します。これらの症状は加湿器使用を中止することで比較的急速に改善し1-2週間のうちに消失します。

発熱や咳嗽で医療機関を受診し、症状と胸部画像の陰影から肺炎と診断され、入院加療を行い抗菌薬治療を受け改善し退院するも(実際は抗原からの隔離が奏功)、退院後すぐに症状が悪化し入院するというエピソードは加湿器肺ではしばしばみられます。なお、診断に際し、吸入誘発試験後に重度の呼吸不全を呈した報告もあり、抗原からの隔離のみで改善の明らかな症例では環境誘発試験は必須ではありません(図3-A, 3-B)。

吸入誘発試験(加湿器肺)陽性例。 A)吸入6時間後には発熱、酸素飽和度低下が認められる。

吸入誘発試験(加湿器肺)陽性例 B)誘発後、炎症所見増加、発熱と共に画像ではすりガラス陰影が増加し、その後速やかに改善した。なお、加湿器水中のエンドトキシン、β―Dグルカン、クレブシエラが検出された。

検査所見

血液検査では白血球数やCRP等の炎症指標の上昇が認められます。間質性肺炎の活動性指標であるKL-6は典型的な夏型過敏性肺炎と異なり、上昇しない症例が多く、胸部画像所見では両肺のすりガラス陰影もしくは浸潤影や斑状影を認めることが多い。浸潤影を呈する場合は肺炎との鑑別が難しく、専門医受診前に肺炎として加療されている例も多い(図4-A、4-B)。表1に加湿器肺と夏型過敏性肺炎の検査所見の相違点を示します。自験18例の加湿器肺と典型的な夏型過敏性肺炎との比較検討の結果は参考文献7をご参照ください。

加湿器肺のHRCT画像

加湿器肺のHRCT画像

治療と予後

加湿器肺は抗原隔離が容易であり、隔離のみで多くの症例が1-2週間程度で速やかに改善します。診断時に呼吸不全を伴う重症例ではステロイド薬が使用され、急速に呼吸不全が進行する症例や気管内挿管等が必要な重症例においては、大量ステロイドを投与するパルス療法なども行われます。CT画像上広範な病変を呈し、呼吸不全を伴った重症例であっても比較的ステロイド薬の反応は良好で治癒することが多いようです。夏型過敏性肺炎と異なり、加湿器肺においては加湿器の使用中止が徹底されていれば、再発が少ないのも特徴であります。

おわりに

本疾患は主治医が疾患を想起しないと診断できない疾患であり、重症化する場合もあり注意が必要です。

春日クリニック 本間 栄

参考文献

  • 過敏性肺炎診療指針2022:日本呼吸器学会過敏性肺炎診療指針2022作成委員会編 東京、克誠堂出版2022.
  • Ando M, Konishi K, Yoneda R, Tamura M. Difference in the Phenotypes of Bronchoalveolar Lavage Lymphocytes in Patients with Summer-Type Hypersensitivity Pneumonitis, Farmer's Lung, Ventilation Pneumonitis, and Bird Fancier's Lung: Report of a Nationwide Epidemiologic Study in Japan. J Allergy Clin Immunol 1991; 87: 1002- 1009.
  • Banaszak, E.F., Thiede, W.H. & Fink, J.N.: Hypersensitivity pneumonitis due to contamination of an air conditioner. N. Engl. J. Med 1970, 283: 271-276.
  • Burke GW, Carrington CB, Strauss R, Fink JN, Gaensler EA. Allergic alveolitis caused by home humidifiers. JAMA 1977; 238: 2705-2708.
  • Suda T, Sato A, Ida M, Gemma H, Hayakawa H, Chida K: Hypersensitivity pneumonitis associated with home ultrasonic humidifiers. Chest 1995; 107: 711-717.
  • Rylander R, Haglind P. Airborne endotoxins and humidifier disease. Clin Allergy 1984; 14: 109-112.
  • Sakamoto S, Furukawa M, Shimizu H, Sekiya M, Miyoshi S, Nakamura Y, Urabe N, Isshiki T, Usui Y, Isobe K, Takai Y, Kurosaki A, Kishi K, Homma S. Clinical and radiological characteristics of ultrasonic humidifier lung and summer-type hypersensitivity pneumonitis. Respir Med 2020;174:106196

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