秋は日に日に陽が沈む時刻が早くなり、釣瓶落とし(つるべ落とし)と言われています。6月の夏至と12月の冬至では、日の出から日の入りまでの時間に4時間半以上(東京ではおよそ4時間40分)もの差があります。
陽の光は生体にさまざまな作用を及ぼしますが、私たちは光がなければ生きていくことは出来ません。
ところで、秋から冬の日照時間が短くなる季節に、何となく気分が優れない、調子が上がらないなどと感じることが少なからずあると思います。
その原因には、セロトニンの合成量の低下が大きく関係しています。
人は光の刺激を受けるとセロトニンという神経伝達物質が脳で合成され、集中力を高め、気分を明るくするなどメンタルにプラスの影響を与えます。
しかし、セロトニンが低下すると、気分の落ち込み、倦怠感、集中力や意欲の低下、朝なかなか起きられない、昼間の眠気などの症状が現れ、ひどくなると“季節性うつ病”(正式には季節性情動障害)と呼ばれる健康障害を起こすこともあります。
これらの症状は、本来のうつ病の症状と極めてよく似ています。
しかし、季節性うつ病では日照時間と病状に密接な関係があり、秋から冬にかけて症状が顕著となり、春を迎える3月頃には自然に消失してしまいます。
うつ病では食欲が低下するのに対して季節性うつ病では食欲が亢進し、特に甘いものや炭水化物を食べたくなる傾向があります。
秋から冬にかけて体調を崩さないためには、意識して陽の光を浴びることが基本です。先ず、毎朝決まった時刻に起きて、目が覚めたらカーテンや雨戸を開けて陽の光を取り入れましょう。
外出して日光を浴びること、散歩などを習慣化して身体を動かすことも重要です。
バランスの良い食事、特にタンパク質、ビタミンやミネラルを十分に摂りましょう。
なお、日照時間が短くなると体内でのビタミンD合成が低下しますが、このことも健康障害に関係していると考えられています。そのため、魚介類、卵、チーズ、キノコ類などビタミンDの多い食品を意識して食べることも大切です。
家族や友人と積極的にコミュニケーションを取るようにすることも、気分の落ち込みや辛い気持ちのため込み防止に繋がります。
居室や仕事場に陽の光が入りにくい場合は、照明を明るいものに交換し住環境を改善ことも健康保持に効果があります。
しかし、このような注意を行っても症状が改善しない場合は、メンタル疾患の可能性もありますので、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
産業医 佐藤 潤一