同友会メディカルニュース

2018年3月号
心不全の予防とケアを推進しよう!

日本循環器学会と日本心不全学会は、心不全について国民がよりわかりやすく理解できるよう、心不全の定義について2017年10月31日に記者発表を行いました。その定義とは以下のようになります。「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」

さらに、日本循環器学会は心不全予防を推進するための心不全啓発プロジェクトを開始し、2017年11月19日に開催された市民公開講座「40~50歳代の心臓ケアが健康寿命を決める」においてその推進が発表されました。プロジェクトでは「忍者ハットリくん」が起用され、主人公「ハットリカンゾウ」の弟「ハットリシンゾウ」を啓発大使とし、心不全がライフスタイルの改善で予防可能な病気であることを今後3年間にわたり社会に啓発していく予定です。(http://www.j-circ.or.jp/topics/shinshin_prj.htm

専門学会がこのような啓発活動を推進する背景には、心不全による死亡者が増加しているにもかかわらず、その怖さや対応方法への認識が不十分であることがあげられます。心不全は心疾患の終末像で、心疾患の病類別に見た死亡者の割合では第一位です。近年、急性心筋梗塞による死亡者数は減少しているにもかかわらず、心不全の死亡者数は増加してきているのが現状です。(図1)

<図1>心疾患の病理別にみた死亡者数

心疾患の病類別に見た死亡者数の割合(2015年)

心不全および急性心筋梗塞による死亡者数の推移

また、心不全患者の約70%が75歳以上の高齢者で、高齢化に伴い患者数が増加することが予測されており、今後より広く理解を深める必要があります。図2は心不全の臨床経過イメージを示したものですが、心不全患者は心不全増悪による再入院を繰り返しながら身体機能が悪化してゆきます。実際に、心不全で入院した患者の約20~40%は1年以内に再入院し、難治性心不全では終末期としてのケアが必要になることがわかっています。

そのような中、厚生労働省は「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」を発足させ、2017年11月16日に第一回の会合を開催しました。会合では、循環器疾患の中でも、全ての心疾患の共通した終末的な病態であり、今後の増加が予想されるとして、心不全患者に対する緩和ケアを主に検討することが示されています。今後様々な角度から、心不全に対する緩和ケアのあり方が検討されていくものと思われます。

そして、将来の心不全を予防するうえでは、図2におけるStage Aの段階、まだ心機能は保たれ心不全の症状が無い段階でいかに対策を行うかが大切になります。我が国における心不全の多施設共同前向き研究であるJCARE-CARD研究では、心不全で入院した方の原因は、虚血性32.0%、高血圧性24.6%、弁膜症27.7%であったと報告されています。高血圧をどのようにコントロールするか、そして虚血性心疾患の元凶である動脈硬化の進展を予防するために、高血圧に加えて糖尿病や脂質異常症等の表1にあるような危険因子への対応をしっかり行っていくことが、将来の心不全発症を抑えることにつながります。

<表1>動脈硬化危険因子

  • ・加齢
  • ・メタボリックシンドローム
  • ・男性
  • ・睡眠時無呼吸症候群
  • ・喫煙
  • ・慢性腎臓病
  • ・高血圧
  • ・非心原性脳梗塞
  • ・糖尿病
  • ・末梢動脈疾患
  • ・脂質異常症
  • ・冠動脈疾患の既往・家族歴

<図2>心血管疾患から心不全への臨床経過のイメージ

図2.心血管疾患から心不全への臨床経過のイメージ

心不全の状態を採血で調べる検査としては、BNPやNT-proBNPという採血マーカーがあります。危険因子がある方はこの様な検査をすることで、心臓にどの程度負担がかかっているかをチェックすることも重要です。特に高血圧の方は症状が無い段階でも心肥大が進行していることも多くみられますので、一度は測定することをおすすめします。

また、心臓の機能を調べるためには超音波を用いた心臓超音波検査も有用です。この検査では直接心臓の動きを観察することができるため、心臓の大きさや収縮力、心肥大の程度、弁膜症の有無を体に負担をかけず調べることができます。

40代、50代の健康への取組で、心不全も含め様々な疾病を予防し健康寿命の延伸を目指しましょう。

参考文献:

  • 第1回循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ資料
  • 平成27年人口動態統計
  • Circulation Journal. 2006; 70(12): 1617-1623
  • Circulation Journal. 2005; 79(11): 2396-2407

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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