同友会メディカルニュース

2016年10月号
乳房超音波検査で乳がん発見率の向上を

昨年末、日本発の乳房超音波を用いた乳がん検診の研究結果が、世界的な医学雑誌のLancet誌で発表されました。この研究はJ-START(Japan Strategic Anti-cancer Randmized Trial)と呼ばれるランダム化比較試験で、40歳代の女性を対象にマンモグラフィと視触診に加えて乳房超音波検査を追加することで、早期乳がんの発見率が約1.5倍にとなったことが示されました。

[ 図1 ]
年齢階級別 罹患率(全国推計値)
2012年(女性)

年齢階級別 罹患率(全国推計値)

年齢階級別 死亡率
2014年(女性)

年齢階級別 死亡率

図1にあるように、乳がんは40歳代から急速に罹患(かかる)率が上昇し、それに伴い死亡率も上昇していきます。従って、いかに40歳代で早期に発見するかが重要になりますが、現在対策型検診として推奨されているのは40歳以上でのマンモグラフィ検査になります。しかし近年40歳代でのマンモグラフィ検診の効果について、様々な見解があり、米国でも最近米国がん協会(ACS)がマンモグラフィ検診開始を45歳に引き上げるガイドラインの改訂を行いました。理由としては偽陽性や過剰診断などの不利益とのバランスがあげられますが、40歳代では50歳以上に比べてマンモグラフィ検診の有効性が十分ではないともいえます。

その背景の一つに若年女性における高濃度乳腺の問題があげられます。同友会メディカルニュース2015年8月号でもとりあげていますが、若年女性では乳腺が発達しているため、マンモグラフィ検査ではがんと同様に乳腺組織も白く映り、がんを見分けることが難しくなる問題があります。それに比べて、超音波では乳腺組織が発達していてもがんの描出が可能であるため、罹患率が高いにもかかわらずマンモグラフィによる検診の効果がやや弱いと考えられる40歳代での有用性が以前より指摘されていました。

[ 表1 ] 初回検診結果  (非ランダム化群を除く)
  介入群
(マンモグラフィ +
乳房超音波)
コントロール群
(マンモグラフィのみ)
合計 備考
ランダム化割付数 36,859 36,139 72,998 不適格症例、
同意撤回症例を除外
適格症例数 36,841 36,122 72,963
解析症例数 36,752 35,965 72,717
要精検数
(要精検率)
4,647
(12.6%)
3,153
(8.8%)
7,800
(10.7%)
がん発見数
(発見率)
184
(0.50%)
117
(0.33%)
301
(0.41%)
中間期癌 18 35 53
感度 91.1% 77.0% -
特異度 87.7% 91.4% -

(2012年度のマンモグラフィ併用検診での全国平均乳がん発見率:0.31%)

J-STARTでは全国で76,196人の参加登録のもと、通常のマンモグラフィ及び視触診による検診のグループとこれに超音波検査を追加するグループに振り分け、検診の感度・特異度・発見率や発見時のステージ分類を主要評価項目として分析しました。結果としては表1にあるように、超音波検査を追加することで感度が91.1%とコントロールグループの77.0%に比べて有意に上昇し、乳がんの発見率も0.32%から0.5%と約1.5倍と有意に高値となりました。一方で、超音波検査を追加することによって要精密検査となる確率が増加し、それに伴い追加で検査を行うことが多くなる不利益もありますのでその点は注意が必要です。

[ 表2 ] 検診方法別の乳がん発見率
発見契機
介入群
(マンモグラフィ+乳房超音波)
36,752例中の割合 (%)
コントロール群
(マンモグラフィのみ)
35,965例中の割合 (%)
マンモグラフィ 陽性 117 0.32% 109 0.30%
マンモグラフィ 単独陽性 34 0.09% 72 0.20%
乳房超音波 陽性 143 0.39% -  
乳房超音波 単独陽性 61 0.17% -  
視触診陽性 46 0.13% 45 0.13%
視触診単独陽性 0 0% 8 0.02%
検診結果陰性
(中間期がん)
18 0.05% 35 0.10%
検診発見がん数 184 0.50% 117 0.33%
全乳がん数 202   152  

表2では各検査の乳がん発見症例数があげられていますが、注目すべきは視触診単独で乳がんを発見している症例についてです。両グループともに視触診を実施していますが、マンモグラフィのグループでは8人の方が視触診のみで異常を指摘され、マンモグラフィでは陰性でした。一方、超音波検査を追加したグループでは視触診単独で陽性だった症例は0人でした。乳房視触診の結果は超音波検査でそのまま確認できますが、マンモグラフィでは指摘できないこともあるといわれていますので、今回の研究でも少数例ながらそのような症例が存在することが示されているともいえましょう。また、超音波検査追加グループでは、マンモグラフィ単独よりも超音波単独での発見数のほうが多くなっており、この年代での超音波検査の優位性がうかがえます。

そのような中、2016年2月に厚生労働省は対策型検診の指針となる「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正しました。この中で乳がん検診の項目変更として、視触診は推奨しないこととなりましたが、乳房超音波はこれまで通り推奨項目には入っていません。この指針策定のもとになった、「がん検診のあり方検討会」における報告では、「超音波検査については、特に高濃度乳腺の者に対して、マンモグラフィと併用した場合、マンモグラフィ単独検査に比べて感度及びがん発見率が優れているという研究結果が得られており、将来的に対策型検診として導入される可能性がある。しかしながら、死亡率減少効果や検診の実施体制、特異度が低下するといった不利益を最小化するための対策等について、引き続き検証していく必要がある。」とされています。「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン」でも、超音波検査は任意型検診として、個人の判断で実施可となっていますので、しばらくはこの状態が続くと思われます。

実は胃内視鏡検査が対策型の胃がん検診として推奨されることになったのも今年の改正からです。これまでも、検診や臨床の現場では内視鏡検診が有用であると考えられていましたが、死亡率減少効果の証拠がないということで、ながらくこの指針には盛り込まれてきませんでした。乳房超音波についても、臨床や検診の現場における状況や発見率等の結果からみて、検診の効果があることは高い確度で推測されますが、死亡率減少効果の結果を示す研究発表が行われるまではかなり長い時間を必要とするため、その間は任意検診として自主的に選択しなければなりません。

ちなみに、現在厚労省の指針ではマンモグラフィ検診の間隔は2年に1回とされていますが、例えば米国がん協会(ACS)では45~54歳では年1回の検診を推奨するなど、年齢や頻度についても絶対正しいという指標はありません。

乳がんの早期発見は死亡率減少ということもさることながら、より早期に発見出来るかによって、手術で乳房温存につなげることが出来る可能性が高まるなど、その後の治療負担においても様々な影響をおよぼします。対策型検診の指針を参考にしながらも、超音波検査の有用性や特性を理解し、超音波検査の併用を進めていくことが重要と考えます。

参考文献:

  • 超音波検査による乳がん検診のランダム化比較試験(J−START) ‐若い女性への乳がん検診の標準化と普及へ向けて‐
    東北大学大学院医学系研究科、日本医療研究開発機構
    https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20151105_01web.pdf
  • Lancet. 2016 Jan 23; 387: 341-8

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