2024年11月号
エナジードリンクは適量を
繁華街でエナジードリンクを片手にたむろする若者をよく見ることがあり、若者の間でエナジードリンクが愛飲されていることが伺えます。今回はエナジードリンクの影響について解説します。
1.エナジードリンクの歴史
日本では1959年発売のユンケルスーパー内服液(佐藤製薬)、1962年発売のリポビタンD(大正製薬)、1963年発売のエスカップ(エスエス製薬)などが栄養ドリンクとして広く愛飲されていました。これらは医薬品または医薬部外品であり、疲労回復や栄養補給、滋養強壮などの効能が表示でき、服用量も定められています。それに対し、味を良くするために炭酸を加えたオロナミンC(大塚製薬)は当時の厚生省に医薬品としての発売が許可されず、炭酸入り清涼飲料水として1965年に発売されました。医薬品・医薬部外品は当時は薬局でしか買うことができませんでしたが、オロナミンCは食料用品店で販売することになり、手軽に購入できるため大ヒットとなりました。
その後、オロナミンCにヒントを得て1987年に発売されたレッドブル・エナジードリンク(豪レッドブル)の他、1998年にシャーク(泰オソスパ)、2001年にロックスター・エナジードリンク(米ロックスター)、2002年にモンスターエナジー(米モンスタービバレッジ)、2004年にマッドクロック(芬マッドクロック)など次々と発売されました。今や数百種類も販売されていますが、実はエナジードリンクの正確な定義はありません。カフェインやエネルギー源としての糖類または甘味料、栄養成分としてのビタミンなども含まれている飲料水のことをエナジードリンクと呼んでいる国が多く、オロナミンCは世界初のエナジードリンクとも言われています。
2.カフェイン問題
海外のエナジードリンクのメーカーはスポーツイベントや音楽フェスティバルのスポンサー活動、メディア企業とのタイアップを積極的に展開し、購買層に青少年を取り込むことに成功しました。ところが、米国で2011年にエナジードリンクを1.4Lも飲んだ14歳の女性がカフェインの過剰摂取による不整脈で死亡。また2012年までにエナジードリンクを飲用後に5人が死亡していることが報道され、社会問題となりました。
日本でも2015年に深夜勤務の多かった20代前半の男性がエナジードリンク飲用後に死亡し、大きく報道されました。この例では日頃から眠気覚ましのエナジードリンク、カフェイン製剤を愛飲しており、解剖の結果、カフェイン中毒死と診断されました。カフェインは血中濃度が80μg/mLでも死亡した報告がありますが、この例では182μg/mLと高い数値を示しました。
カフェインは中枢神経興奮作用を有する物質で、コーヒー豆、緑茶、紅茶、カカオ等に含まれています(図1)。
食品名 | カフェイン量 |
---|---|
コーヒー | 60mg |
玉露 | 160mg |
紅茶 | 30mg |
煎茶 | 20mg |
ウーロン茶 | 20mg |
コーラ | 10mg |
エナジードリンク | 32~300mg |
気分を高揚させる作用のほか、疲労感軽減、集中力増強、強心作用、利尿作用、胃酸分泌、片頭痛の緩和などの効能があり、風邪薬や消炎鎮痛剤などにも含まれています。一方、過剰に摂取するとめまい、頻脈、興奮、不安、震え、不眠、下痢、吐気などの症状が生じます。また、アルコールやニコチン(タバコ)よりは弱いとされていますが依存性もあり、カフェイン摂取をやめたり減量した1~2日後に頭痛や著しい疲労感、眠気、不快気分、抑うつ気分、怒りっぽさ、集中困難などの離脱症状を呈することがあります。よく「エナジードリンクは元気の先取り」と言われることがありますが、飲用して効果が切れてだるくなったらまた追加で飲用し、を繰り返して、飲用量が増えてしまう可能性があります。
3.適切なカフェイン摂取量は
カフェインに対する感受性は個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価することは難しく、カフェインの1日摂取許容量は設定されていません。内閣府の食品安全委員会は、食品中のカフェインに関するファクトシートで、健康に影響のないカフェイン摂取量の目安として健康な成人で1日あたり400mgを紹介しています(図2)。
悪影響のない一日あたりの最大摂取量 | 飲料換算 | 機関名 | |
---|---|---|---|
健康な成人 | 400mg (1回当たり 3mg/kg 体重) |
欧州食品安全機関 (EFSA) | |
400mg | コーヒーマグカップ 3杯 (237ml/杯) |
カナダ保健省 | |
健康な子ども 及び 青少年 |
3mg/kg 体重 | 欧州食品安全機関 (EFSA) | |
2.5mg/kg 体重 | ・コーラ1缶 (355ml) 当たりのカフェイン含有量 36~46mg ・エナジードリンク1缶(250ml) 当たりのカフェイン含有量 約80mg |
カナダ保健省 | |
子ども (4~6歳):45mg | |||
子ども (7~9歳):62.5mg | |||
子ども (10~12歳):85mg | |||
13歳以上の青少年:2.5mg/kg 体重 | |||
妊婦 | 300mg | 世界保健機関 (WHO) | |
200mg | 欧州食品安全機関 (EFSA) | ||
300mg | コーヒーマグカップ 2杯 (237ml/杯) |
カナダ保健省 | |
授乳中の女性 | 200mg | 欧州食品安全機関 (EFSA) |
飲料に含まれるカフェイン量は、医薬品・医薬部外品である栄養ドリンク剤の場合は1日1本50mgまでと基準があります。一方、清涼飲料水であるエナジードリンクには基準がなく、1本(約500mL)当たり300mgを超えるカフェインが含まれているものもあります。
そこで、飲料メーカーが中心となった一般社団法人 全国清涼飲料連合会は「カフェインを多く添加した清涼飲料水(いわゆるエナジードリンクを含む)の表示に関するガイドライン」を定め、2019年4月1日以降に製造した100mlあたりのカフェイン量が21mg以上の製品については、①1本あたりのカフェイン量、適量の飲用を促す表示を行う ②小児ほかカフェインに敏感な方の飲用を控える旨の表示を行う ③酒類と一緒に飲用することを誘引・促進・想起させる表示を禁止する といった努力指針を示しています。
ここで注意しないといけないのは、エナジードリンクを毎日飲用していると、カフェインで得られていた効果はしだいに効かなくなってきて、他の薬品・薬物を併用しやすくなることです。前述の死亡例でも服用していましたが、眠気防止や倦怠感の除去を目的としたカフェイン製剤やサプリメントも市販されており、表示された用法・容量が1日あたり500mgにもなる製品もあります。徹夜で受験勉強をするためにコーヒーやエナジードリンクを何本も飲んだ上、カフェイン製剤も併用したら、中毒症状が出る濃度に簡単に達してしまうでしょう。
4.カフェインと注意欠如・多動症(ADHD)
アメリカの中学生1649人を対象にした調査で、エナジードリンクを毎日飲んでいる中学生は、まったく飲まない中学生に比べてADHDの傾向が66%高かったという2015年の報告は、日本でもセンセーショナルに報道されました。ADHDの診断が確定したわけではなく、またADHDの特徴として物質使用障害があり、もともとADHDだった子が短絡的にエナジードリンクに依存していただけの可能性があるので、データの解釈は慎重に行う必要がありますが、ADHDとエナジードリンクは親和性がある可能性があります。
5.おわりに
2008年に発売されたアルコール度数8%以上の缶チューハイ、いわゆる「ストロング系」もジュースのようにごくごくと飲めて、すぐに酔えることから大ヒットしましたが、やはり急性アルコール中毒が問題となりました。エナジードリンクはさらに未成年でも気軽に買うことができてしまうので、カフェイン中毒を防ぐために飲む量はしっかりとコントロールする必要があります。
カフェインにはメリットもたくさんあるので、正しい知識を持ったうえで、上手につきあっていくことが大切だと思われます。
参考文献
- 高山みお : カフェイン飲料・製剤の過剰摂取によるカフェイン中毒事故の1剖検例. 日本アルコール・薬物医学会雑誌, 51 : p228-233, 2016
- Schwartz DL, et al : Energy Drinks and Youth Self-Reported Hyperactivity/Inattention Symptoms. ADHD, 15 : p297-304, 2015
- 宇佐美政英 : 児童精神科医が伝えたい子供のメンタルヘルス 第30回 エナジードリンクは子どもにどんな影響を与える? 月間薬事, 64 : p1869-1873, 2022
- 野井真吾 : 10~18歳の子どもにおけるエナジードリンクの摂取実態と摂取者の身体症状・生活状況の特徴. 学校保健研究, 62 : p166-177, 2020
- 一般社団法人 全国清涼飲料連合会 : カフェインを多く添加した清涼飲料水(いわゆるエナジードリンクを含む)の表示に関するガイドライン. (https://j-sda.or.jp/guideline/regulations_and_guidelines/caffeine-guideline.php)
- 内閣府食品安全委員会ファクトシート「食品中のカフェイン」. (https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf)
- 厚生労働省 : 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A. (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html)
- 農林水産省 : カフェインの過剰摂取について. (https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html)
同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)
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- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
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- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
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- 『胸やけ、げっぷ』ありませんか?
- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
- NEAT(非運動性活動熱発生)をご存知ですか?座っている時間を短くすることが健康の秘訣かもしれません
食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!