同友会メディカルニュース

2025年4月号
新型コロナウイルス(COVID-19)
― 罹患後症状について ―

はじめに

COVID-19はオミクロン株の登場によって弱毒化し、我が国では2023年5月8日に5類感染症に移行となり定点医療機関を通じて新規患者数のサーベイランスが行われるようになりました。しかし、未だに罹患数は減少せず今後も後遺症(罹患後症状:longCOVID)を有する症例は増加する可能性があります。近年、その一端を持続感染が担っていることが明らかになり治療の可能性として抗ウイルス薬とワクチン接種の同時併用の有用性が注目されています。

罹患後症状とは?

COVID-19罹患後の一部の患者に急性期症状の持続や新たな症状の出現、症状の再燃を認めることがあり、WHOは罹患後症状を「COVID-19に罹患した人にみられ少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの」と定義しています。また、「通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にもみられる」としています。代表的な罹患後症状の経時的変化を図1に示します1)

図1
画像をクリックすると大きな図が開きます

罹患者における疫学研究

日本の研究報告では2020年1月〜2021年2月にCOVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査で図1に示した症状などの頻度について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3カ月、6カ月、12カ月で検討されています1)。性別は男性679例(64%)、女性387例(36%)で、入院中の重症度が評価可能であった985例においては無症状4%、軽症21%、中等症I42%、中等症II23%、重症10%でした。診断後12カ月時点でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向が認められました。診断後12カ月時点で5%以上残存していた症状(頻度)は疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下・集中力低下(8%)、睡眠障害・記憶障害(7%)、関節痛・筋肉痛(6%)、咳嗽・喀痰・脱毛・頭痛・味覚障害・嗅覚障害(5%)でした。次に診断24カ月後の調査で診断後3カ月時点で認められた罹患後症状に限定して集計を行ったところ、718人中189人(26%)に症状が残存しており、呼吸器症状(咳嗽,息切れ)が7%、神経症状(疲労感・倦怠感、記憶障害、集中力低下、味覚障害、嗅覚障害、筋力低下、頭痛、睡眠障害)が19%でした。性別では診断後3カ月~12カ月のいずれの時点でも罹患後症状を有する割合は女性に多かったですが、時間の経過とともに男女差は縮まりました。また診断後3カ月時点で認められた症状に限定して集計すると、診断後24カ月時点での罹患後症状の頻度は男性26%、女性27%であり、ほぼ同一でありました。さらに年齢別では罹患後症状を1つでも有する割合はいずれも中年者で高く、診断後12カ月時点では、若年者で感覚過敏、脱毛、頭痛、集中力低下、味覚障害、嗅覚障害が多く、中年者と高齢者では咳嗽、喀痰、関節痛、筋肉痛、眼科症状が多く認められました。

持続感染

海外の研究では「ウイルスの持続感染」がCOVID-19の後遺症リスクを上昇させることが示されました。最近の93,927人のウイルス配列を解析した報告によると2)、少なくとも30日間持続する高力価の新型コロナウイルスを有する381人のうち、54人が60日間以上、2人が180日間以上持続するウイルスRNAを有して、体内でウイルスの複製が持続していることが確認されました。感染者全体で推定すると0.7~3.5%が30日以上、0.1~0.5%が60日以上持続感染する事が判り、持続感染がCOVID-19の後遺症リスクを増加させていることは間違いないようです。しかし、持続感染だけで後遺症の全てが説明できるのではなく、インターフェロンγ(炎症性タンパク)が長らく体内でつくられることも影響しているという結果も最近報告されています3)。この研究では、罹患後症状患者の末梢血単核細胞から持続的に高レベルのインターフェロンγを検出し、症状の回復がインターフェロンγ産生のベースラインレベルの減少と相関していることが示されました(図2,図3)3)。さらに、ワクチン接種後のインターフェロンγの有意な減少が症状の解消と相関していることが示され、感染後のワクチン接種にも一定の意義があることが示唆されました(図4)。

図2

図3

図4

後遺症治療の可能性

感染前のワクチン接種と発症時に投与される抗ウイルス薬は、急性期のウイルス量を減らすことができます。しかし、持続感染の予防には有益な効果は示されていません。岡山大学のSumiらは細胞免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを用いて、ワクチン並びに抗ウイルス薬による新型コロナ後遺症の予防効果を明らかにするとともに、ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用が後遺症の回復に有効である可能性を報告しました(図5)4)。また、ワクチン追加接種の間隔が2年以上離れると、ワクチンによって誘導される免疫応答に必要な宿主内抗体量が不十分になり、追加接種による十分な抗体産生が見込めない可能性が、シミュレーション実験により示されました。本研究成果は、ワクチン接種計画を立てる際に参考となる知見であり、既存のワクチンおよび抗ウイルス薬の同時併用は、罹患後症状の治療法として利用することが可能で、新型コロナ感染症の予後改善に貢献することが期待されます。

図5

2024年度からの定期の予防接種について

2024年度のCOVID-19ワクチン接種については、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、個人の重症化予防により重症者を減らすことを目的とし、COVID-19を予防接種法のB類疾病に位置づけた上で対象者はインフルエンザワクチンにおける接種の対象者と同様(65歳以上の高齢者及び一定の基礎疾患等のある60歳から64歳までの者)とすることとされました5)。定期接種のスケジュールについてはCOVID-19の疫学的状況、ワクチンの有効性に関する科学的知見等を踏まえ、年1回の接種を行うこととし接種のタイミングは秋冬とされています。

今回、紹介しました研究結果と罹患後症状治療の観点からもワクチン追加接種の間隔は1年以内が妥当であると考えられます。

Figure Legends

  • 図1:代表的な罹患後症状の経時的変化(文献1)より引用)。
  • 図2: Long Covid患者では発症後180日を超えても末梢血単核細胞由来のインターフェロンγレベルは高値で持続した(左:陰性対照、中央:陽性対照、右:Long Covid)(文献3)より引用)。
  • 図3:A)Long Covidでない症例はインターフェロンγレベルは症状改善に伴い減少するB)Long Covid症例では減少傾向は乏しい(文献3)より引用)。
  • 図4:ワクチン接種後に症状改善したLong Covid症例ではインターフェロンγレベルは有意に低下した(文献3)より引用)。
  • 図5:ウイルス持続感染を伴うCOVID-19患者に対する抗ウイルス薬(3CLPI)投与およびワクチン接種による影響(文献4)より引用)。
    A)感染発症後180日に抗ウイルス薬を通常投与した場合のウイルス量の変化(青線)、治療
    無し(赤線)、通常の5倍量の抗ウイルス薬投与(水色線)。抗ウイルス薬は一時的なウイルス量の減少を導くが、効果は限定的で治療前の元のウイルス共存平衡に速やかに戻る。
    B)感染発症後180日にワクチンのみ接種(黒線)、ワクチン接種と通常量の抗ウイルス薬投与(青線)、ワクチン接種+通常の5倍量の抗ウイルス薬投与(水色線)、治療無し(赤線)におけるウイルス量の変化。ワクチンのみを接種すると急激なウイルス量の一時的増加を来した後、治療前のウイルス共存平衡のウイルス量を大きく下回り、その減少効果は一年以上継続する。ワクチン接種と抗ウイルス薬の同時併用はワクチン接種のみの場合のウイルス量増加を十分抑制し、長期にわたるウイルス量減少を認める。

文献

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・別冊 罹患後症状のマネジメント第3.0 版、2023.編集協力:令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究
  • Ghafari M, Hall M, et al. Prevalence of persistent SARS-CoV-2 in a large community surveillance study. Nature Vol 626 29 February 2024.
  • Krishna BA, Lim EY, et al. Spontaneous, persistent, T cell–dependent IFN-γ release in patients who progress to Long Covid. Sci. Adv. 10, eadi9379 2024.
  • Sumi T, Harada K. Vaccine and antiviral drug promise for preventing postacute sequelae of COVID-19, and their combination for its treatment. Frontiers in Immunology. 2024 DOI 10.3389/fimmu.2024.1329162
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き第10.1 版、2024.4. 編集協力:令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究

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