動脈硬化について～脂質仮説を中心に～ | 同友会メディカルニュース

2025年3月号
動脈硬化について～脂質仮説を中心に～

はじめに

2022年の本邦における疾患別死亡割合ですが、全体の約15％を心疾患、約7%を脳血管疾患が占めています（参考までに悪性新生物（いわゆる、がん）の割合が一番多く25％を占めています。）。全体の22％を占める脳心血管疾患は、一部の先天性疾患等を除き、動脈硬化が主な原因です。動脈硬化は、食生活の乱れ、喫煙、運動不足、ストレス、加齢等から始まり、生活習慣病で代表とされる、高血圧、糖尿病、脂質異常症等により引き起こされます。生活習慣病の中でも脂質異常症が、動脈硬化の主原因と考えられています（諸説ありますが、脂質仮説ともいわれています）。今回は、脂質の中でも特に酸化LDLコレステロールに焦点をあてます。また、動脈硬化の有無を確認する検査や、脳心血管疾患の発症リスクを評価する検査についても触れてみたいと思います。

そもそも動脈硬化とは

我々人間には、手足の先まで全身に、血管が分布しており、その中に血液が流れています。動脈硬化とは言葉通りで、血管の壁が硬くなることをいいます。動脈硬化が進むと血管壁が硬くなるだけでなく、壁が分厚くなり（肥厚）、血管の内腔が狭くなります。

動脈硬化から脳心血管疾患はどのように発症するか

上述の動脈硬化が進展すると、血管障害部位ごとに病気が発症します。例えば、脳にある血管が閉塞すると脳梗塞、心臓にある血管が閉塞すると心筋梗塞になります（図1参照）。

動脈硬化の簡易イメージ

動脈硬化の機序、脂質（酸化LDLコレステロール）仮説

それでは、本題の動脈硬化の機序についてお話ししましょう。まず最初に、血液中のLDLコレステロールが、喫煙や糖尿病等（これらを専門的な言葉で言い換えると、「酸化ストレス因子」）により酸化LDLコレステロールに変わります。この酸化LDLコレステロールが、LOX-1という受け手（受容体）を介して血管壁に取り込まれます。そして、血管壁に血液中のマクロファージ（白血球の仲間）が酸化LDLコレステロールを取り込み、泡沫細胞を形成し、動脈硬化巣が形成されます。この泡沫細胞が多ければ多いほど、血管の壁の動脈硬化巣が大きくなります。近年は、LDLコレステロールが高いことに加え、酸化LDLコレステロールに変性した割合が多い程、動脈硬化の進展、そして、脳心血管病の発症リスクが高いといわれています。脂質（酸化LDLコレステロール）仮説で、一番のポイントは、マクロファージという細胞が酸化LDLコレステロールを取り込み（変性していないLDLコレステロールは取り込まれない）、泡沫細胞となり、そして血管壁に取り込まれることが、動脈硬化の始まりであることです（図2～図３）。

動脈硬化の脂質仮説、血管の梗塞イメージ

泡沫細胞～酸化LDL（Ox-LDL）を取り込むことが必要～

動脈硬化が起きているかを調べるには

簡便な検査として、頚動脈エコーや足関節上腕血圧比（ABI）検査が有用です。
頚動脈エコーは、心臓から頭につながる首の動脈の一部をエコーで検査するのですが、血管壁を含めた血管そのものを見ることが出来るため、動脈硬化により血管壁が分厚くなっていないか（言い換えると血管が狭窄していないか）を、視覚的に評価出来る検査です。
また、ABIは、上肢と下肢の血圧をそれぞれ測り、血圧の差を比較することにより、血管の固さ（動脈硬化の「硬化部分」）を評価出来る検査です。

動脈硬化を防ぐには

動脈硬化を防ぐには、以下二点が重要と考えます。LDLコレステロールが血液中に多ければ（高値であれば）、酸化LDLコレステロールに変わりやすくなります。そのため、➀血液検査でLDLコレステロール高値の状況であれば早期介入（食事・運動療法、必要に応じて投薬）が必要です。また、血液中のLDLコレステロールを酸化LDLコレステロールになるべくしないように、➁酸化ストレスを避けること（糖尿病にならないよう食事・運動療法を心がけること、糖尿病であれば必要に応じて投薬をすること、禁煙も心がける等）が必要です。LDLコレステロールは、基礎疾患（糖尿病や脳心血管疾患や腎疾患等）を持っているかにより、目標値は異なります。

脳心血管疾患のリスクがより高いかを調べる検査は

動脈硬化の脂質仮説において重要因子である酸化LDLコレステロールや酸化LDLが血管壁に取り込まれる際の受容体のLOX-1自体を測定することが、近年比較的容易に可能となりました。臨床現場において、これら二つを掛け合わせた値、LOX-index^®（ロックスインデックス）が高いと、脳心血管疾患（特に脳梗塞と心筋梗塞）を発症しやすいというデータがあります（図4参照）。個人差はありますが、LDLコレステロールは高値であるもののLOX-index^®が低値である方、逆に、LDLコレステロールは低値であるもののLOX-index^®が高値である方がおり、必ずしもLDLコレステロールの値はLOX-index^®の値と相関しません。

LOX-indexと脳梗塞・心筋梗塞の関連について

最後に

高齢化社会において、動脈硬化が原因である脳心血管疾患の患者は増加しています。健康寿命を延ばすためにも動脈硬化を防ぐことは重要で、その中でも筆者は酸化LDLが主な因子と考えています。繰り返しになりますが、酸化ストレスを防ぐために、運動や禁煙を行う等生活環境を改善すること、健康診断でLDLコレステロールが高値でないか確認し、必要に応じて脂質異常症の早期治療を行うことを検討してみてはいかがでしょうか。当会の人間ドック・施設健診では、動脈硬化が起きているかを確認するために、健康診断受診時に上述の頚動脈エコーやABI検査（血管年齢検査）の追加が可能ですし、脳心血管疾患が発症しやすいかを推測する血液検査でのLOX-index^®を測定することが可能です。読者の方々も、一度検討ください。

参考文献

そうだったんだ！脂質異常症　編集　伊藤浩　文光堂
粥状動脈硬化症　編集　戸田隆義　アトムス
ZqYan.Immun Reviews,2007
Yuya Desaki et al. “Fcα Receptor Type I and Its Association with Atherosclerosis Development.”Juntendo medical journal, 2023. 69(3), 231-239

資料提供：株式会社プリメディカ

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