2022年2月号
超高齢化が進む日本における健康寿命延伸のために
1.はじめに
日本における65歳以上の人口は年々増加しており、昨年秋に総務省から発表された推計によると現在3640万人で、総人口に占める割合は29.1%となりました。そして2040年には35.3%を占めると予想されています。一方で、生産年齢人口(15-64歳)は年々減少しています。
政府は「生涯現役社会」を目指しており、今後は75歳頃までは働くのが一般的になっていきそうですが、日常生活に制限のない期間である健康寿命の平均は75歳に届いていないのが実情です。
2.平均寿命と健康寿命の推移
図1は日本における平均寿命と平均健康寿命の推移です。寿命延長に伴い、健康寿命は延びてきておりますが、その差である”日常生活に制限のある期間”はほぼ変化がないことがわかります。健康寿命を延ばすために寿命の延長がまず考えられますが、生物学的限界もあります。注目すべきは比較的長い”日常生活に制限のある期間”(平均で男性は約9年、女性は約12年)であり、これを短縮していく事が鍵になってきます。
3.健康寿命を損なう原因は
”日常生活に制限のある期間”を短縮するためには、その原因すなわち要支援・要介護原因に対する対策が必要となります。図2はその要支援・要介護原因を示したものです。循環器疾患(脳卒中と心疾患)、認知症、衰弱、骨折・転倒、関節疾患が多くを占めており、これらで原因の3/4を占めています。
よってこれらをいかに減らすかが重要となるわけですが、これらは遺伝的要因よりも後天的要因(生活習慣など)の方が圧倒的に大きいものばかりです。次からは各原因について述べていきます。
循環器疾患に対して
国循脳卒中データバンクによると、脳卒中になられた方の退院時に日常生活に制限がない確率は37.1%です。つまり、脳卒中になられますと6割以上の方が日常生活に制限がある状態になります。よって循環器疾患は発症を予防していく必要がありますが、そのためには米国心臓学会が推奨している心血管健康指標である、Life's Simple 7(LS7)を遵守することが重要です(図3)。
LS7につきましては2012年6月号でも説明しておりますので参考にして頂ければと思います。
個人的にはこの7項目に睡眠も含めた良好な生活リズムも加えたいところです(2011年8月号参照)。
認知症に対して
認知症につきましては2019年10月号で述べさせていただいております。内容を要約させて頂きますと、元来日本は認知症の方が非常に少なかったのですが、急激に増加したため今や認知症の有病率が世界一高い国です。一方で、他の先進国は認知症の有病率は減少しています。原因として中年期における生活習慣や生活習慣病が影響していると考えられています。言い換えれば、若い頃からLS7を遵守する事によって認知症は予防しうると思われます。米国の学会からも昨年、LS7遵守が脳の健康のためにも重要であると声明がでています1)。
虚弱、転倒・骨折、関節疾患に対して
これらの予防は体力や身体機能の低下を防ぐ事とほぼ同義であると考えます。若年~中年期の体力が高いと有利ですし、また運動習慣が重要である事は言うまでもないことですが、生活習慣病や肥満や食習慣なども大きく影響します。
参考として、生活習慣病などによる影響を調べた研究を紹介致します2)。図4は60歳男性の場合ですが、ある項目を有されていると身体機能が何歳分失われるかを表しています。例えば60歳で肥満と糖尿病があると5.7+6.4=12.1歳分、身体機能が低下している(72.1歳の身体機能レベル)という事になります。
また食事の質も影響します。健康的な食習慣の代表的な例として、2015年9月号に書かせて頂いた”地中海食”があります。複数の研究を統合解析したメタ解析にて、地中海食の遵守度が高いと体力低下が大幅に生じにくくなることが報告されています3)。また伝統的な日本食遵守(野菜・海藻・魚・緑茶の摂取が多く、肉類摂取が少ないなど)でも身体機能低下を抑える事が報告されています4)。またこの研究では動物性食品が多過ぎると身体機能低下が増加する事も合わせて示されています。
以上から、LS7を遵守する事は体力や身体機能の低下を防ぐ事にもつながる事が示唆されます。
4.最後に
健康寿命を損なう原因として、循環器疾患(脳卒中と心疾患)、認知症、衰弱、骨折・転倒、関節疾患が大半を占めます。これらを防止するためには、若い頃から良好な生活習慣を心がける事、並びに生活習慣病の予防や良好な管理の継続が極めて重要となる事をお話しいたしました。しかしながら、若年~中年期におけるこれらの健康管理が不十分となっている現実があり、この結果として長い”日常生活に制限のある期間”が存在しています。皆様におかれましては健康診断や人間ドック等を有効に活用して、これからの健康管理(LS7遵守項目を増やす)にお役立て頂ければと願っております。
参考文献
- Lazar RM, et al. A Primary Care Agenda for Brain Health A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke 2021;52:e295
- Stringhini, S et al. Socioeconomic status, non-communicable disease risk factors, and walking speed in older adults: multi-cohort population based study. BMJ 2018;360:k1046
- Kojima G, et al. Adherence to Mediterranean Diet Reduces Incident Frailty Risk: Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Geriatr Soc 2018;66:783
- Tomata Y, et al. Dietary Patterns and Incident Functional Disability in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2014;69:843
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- 「座りっぱなし」をなくしましょう!
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- 長時間労働は心・脳血管障害の大きなリスク
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- 慢性膵炎についてご存知ですか?
- 地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう
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- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
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- 進歩する内視鏡検査
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- 甘く見てはいけないインフルエンザ
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- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
- 睡眠時無呼吸症候群:いびきだけではない危険な病気
- 小腸カプセルとダブルバルーンの話
- 大動脈弁狭窄症の新しい治療法 -TAVI-
- 世界肝炎デーご存知ですか?
- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
- データヘルス計画が始まります
- 『胸やけ、げっぷ』ありませんか?
- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
- NEAT(非運動性活動熱発生)をご存知ですか?座っている時間を短くすることが健康の秘訣かもしれません
食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!