2017年6月号
心房細動と診断されたら -カテーテルアブレーションによる治療-
健診の心電図検査で、よく要精密検査や要治療の判定となる所見の一つに心房細動があります。心房細動は不整脈の一種ですが、その診断・治療が重要視される理由は、脳梗塞を引き起こす原因となるからです。
心臓は心房から心室にかけて、規則正しく電気信号が流れることによって、心臓の筋肉が収縮し、血液を送り出しています。心房細動では、その名の通り心房が細かく震えるような状況となり、収縮が不規則になってしまいます。血液は滞ると固まりやすくなるため、心房細動により不規則な動きとなった心房に血栓が生じ、それが剥がれて飛び脳の血管に詰まることで脳梗塞が発症します。
心房細動が発生する背景としては心臓弁膜症や心肥大など基礎心疾患が存在する場合もありますが、特に心疾患がない方に突然発生することもあります。発生からの期間により図1のように分類されますが、心房細動では症状がある場合と無い場合があり、症状が無い場合には心房細動になっていても気が付かず、健診の心電図で初めて指摘されるということも多く経験されます。
図1 心房細動の分類
(心房細動治療(薬物)ガイドライン 2013改訂版)
治療に際しては、心房細動の脳梗塞発症率が平均5%/年であり、正常な脈の方に比べて、2~7倍高い確率であることから、脳梗塞の予防が最重要課題であり、リスクに応じて抗血栓療法を行うことが一般的となっています。
さらに、心房細動により乱れたリズムを正常なリズム(洞調律)に戻すこともあり得ますが、その治療には主に薬物による方法が用いられて来ました。しかし、長期間心房細動が続いている持続性心房細動では効果がない場合も多く、また発作性心房細動では一度は洞調律に戻せることが多いものの、長い年月にわたって維持するためには長期間の抗不整脈投与が必要であり、また最終的には永続性心房細動へ移行することも多く経験されるのが現実です。
しかし最近、心房細動を根治させる方法としてカテーテルアブレーションと呼ばれる治療法が目覚ましい進歩をとげ、心房細動の管理・治療方針を大きく変えつつあるのでご紹介します。
アブレーション(ablation)には、切除とか焼灼という意味がありますが、カテーテルアブレーションでは血管を通じて心臓内部に機器を運び、不整脈の原因となっている部位やその周囲を焼灼することによって不要な電気信号を遮断する方法です。
心房細動の場合、心房の中にその原因となる部位があると考えられていましたが、1998年に肺静脈という肺から血液を心房へ届ける静脈に、発生の主たる原因となる部位があることが報告されました。それ以来、肺静脈を心房から電気的に隔離することによるアブレーション治療(肺静脈隔離術)が飛躍的に進展をとげました。
肺静脈からの異常な電気的興奮が心房細動発生の原因となることから、肺静脈隔離術によるアブレーション治療は、特に心房細動の初期段階ともいえる発作性心房細動の症例に効果が高いことがいくつかの研究で明らかとなっています。発作性心房細動は、心房細動が発作と停止を繰り返し生ずる状態で、心房細動の持続時間は長くとも1週間です。発作性心房細動の方は、動悸や胸部不快などの症状を感じる方も多いのですが、まったく気が付かない方もいます。この発作性心房細動の患者さんにおいて、アブレーション治療と従来の薬物治療を比較したA4 studyという研究では、治療後一年間で再発しない確率が、アブレーション治療群で89%、薬物治療群で23%と有意にアブレーション治療による再発率が低いことが示されました。それだけでなく、症状、運動対応能、QOLの改善といった項目でもアブレーション治療のほうが優れていることがわかりました。
そして最近ではこのアブレーション治療の手法にも新しい技術が開発されています。元来カテーテルアブレーションでは、高周波を用い組織を加熱する方法が用いられてきましたが、最近は組織を冷却するクライオバルーンカテーテルと呼ばれる機器を用いた方法も選択されるようになってきました。このクライオバルーンカテーテルはEUでは2005年、米国では2010年に承認されていますが、日本では第二世代のクライオバルーンカテーテルが2014年7月から使用できるようになっています。
クライオバルーンカテーテルはMedtronic社製のArctic Front AdvanceTM 冷凍アブレーションカテーテルというもので、カテーテルの先端が図2のように膨らむようになっています。ここに冷却剤を供給することで組織を凍結し、電気回路を遮断します。高周波を用いたアブレーションよりも簡便で治療時間も短く、患者さんへの負担が少ないことが特徴です。また、発作性心房細動への治療成績も高周波と同等もしくはそれ以上の結果が報告されており、使用する機会が増えてきています。
図2 クライオバルーンカテーテル
アブレーション治療全体の課題の一つに、持続性心房細動や永続性(慢性)心房細動で効果が低いことがあげられます。2年を超えて持続するような心房細動では、肺静脈隔離術のみで成功する確率は30~40%と低いため、症例に応じた対応が必要となります。一方、健診で定期的に心電図検査を行っている方が、健診で初めて心房細動を指摘されたような場合には、まだ発作性心房細動の状態である可能性も高く、持続性だとしても期間が短いことが考えられます。
現在アブレーション治療の適応は表1のように、動悸等の症状がある場合が基本になりますので、普段から症状があったかどうかが重要な要素となります。また、たとえアブレーション治療の適応にならなくても、脳梗塞予防のための抗血栓療法を行うかどうかの判断も大変重要です。症状があった時はもちろんのこと、定期的な健診の機会に心電図の検査を行い、もし心房細動の所見が認められた場合には必ず循環器内科を受診することが大切です。
(カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン 2012)
- クラス Ⅰ
-
- 高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動で、年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合
- クラス Ⅱa
-
- 薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
- パイロットや公共交通機関の運転手など職業上制限となる場合
- 薬物治療が有効であるが心房細動アブレーション治療を希望する場合
- クラス Ⅱb
-
- 高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認める薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
- 無症状あるいはQOLの著しい低下を伴わない発作性および持続性心房細動
- クラス Ⅲ
-
- 左房内血栓が疑われる場合
- 抗凝固療法が禁忌の場合
*クラス分類について
- クラスⅠ:
- 評価法、治療が有用、有効であることについて証明されているか、あるいは見解が広く一致している。
- クラスⅡa:
- データ、見解から有用、有効である可能性が高い
- クラスⅡb:
- 見解により有用性、有効性がそれほど確立されていない。
- クラスⅢ:
- 評価法、治療が有用でなく、時に有害となる可能性が証明されているか、あるいは有害との見解が広く一致している。
参考文献:
- 心房細動治療(薬物)ガイドライン2013 日本循環器学会
- 脳卒中治療ガイドライン2015 日本脳卒中学会
- カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン 2012 日本循環器学会
- Haïssaguerre M, et al. N Engl J Med 339:656-666, 1998.
- Jaïs P, et al. Circulation 118: 2498-2505, 2008
- Packer DL, et al. J Am Coll Cardiol 61: 1713-1723, 2013
- Di Giovanni G, et al. J Cardiovasc Electrophysiol 25:834-839, 2014/li>
同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)
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- 高LDL-C血症(俗にいう悪玉コレステロール)について
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- お薬手帳利用していますか?
- 「座りっぱなし」をなくしましょう!
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- 乳がん検診を受けましょう!
- コレステロールの摂取制限について
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- うつ病について
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- 進歩する内視鏡検査
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- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
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- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
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- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
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食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!