同友会メディカルニュース

2018年5月号
動脈硬化を気にしていますか?

生活の質や生命に大きな影響を与える2大要因であるがんと動脈硬化性疾患、本格的な高齢化社会に突入し、ますますその対策が重要になってきました。今回は動脈硬化性疾患についてのお話です。

ヒトの血液は、心臓から送り出され動脈を流れて組織、臓器に達して、静脈を通って心臓に戻ってきます。この動脈の壁が硬く、厚くなり内腔が細くなり、脆くなる病気が動脈硬化症です。動脈硬化症により動脈の狭窄がかなり進行するまで症状はありません。ご自身の動脈硬化の進行を自覚することはありません。動脈が必要とされる血液が流れることができないほど細くなったり、詰まったり、破裂したりして症状を出します。心臓の血管(冠動脈)で起これば狭心症、心筋梗塞、脳の血管で起これば脳梗塞、脳出血、認知症の原因になります。このように全身のいろいろな臓器に動脈硬化による障害を起こす病気をまとめて動脈硬化性疾患と言います。ひとたび動脈硬化性疾患による症状が現れれば、生活の質や生命に重大な影響を与えることは間違いありません。動脈硬化性疾患による症状は、認知症のように緩徐に発症する場合もありますが、多くは突然起こります。症状が出るまでは、動脈硬化は年余をかけて徐々に進行してゆきます。動脈硬化の進行を止め、あるいは遅らせることで動脈硬化症による症状の出現を予防することは、重要でありかつ可能なのです。動脈硬化のリスクは、脂質異常症、喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、加齢、男性、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)の家族歴、冠動脈疾患既往、非心原性(不整脈などによる血栓性塞栓によらない)脳梗塞、末梢動脈疾患、腹部大動脈瘤、高尿酸血症、睡眠時無呼吸症候群、内臓脂肪蓄積、メタボリックシンドロームなどです。これらのリスクをいかに少なくして、動脈硬化性疾患を予防するかが重要です。ご自身に思い当たるリスクはありませんか?ご自身の動脈硬化の有無を確認したことはありますか?

日本動脈硬化学会から、“動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版”が2017年6月に出版されました。日本動脈硬化学会では2007年から5年毎に動脈硬化性疾患ガイドラインの改定を行い、当会メディカルニュースでも2012年11月号に“動脈硬化疾患予防ガイドラインについて”として動脈硬化性疾患ガイドライン2012をご紹介させていただきました。動脈硬化症のうち、突然生命に危険を及ぼす冠動脈疾患について、重要な危険因子である脂質異常症を中心に取り扱われています。今回のガイドライン改定では、吹田スコアというモデルを用いて、脂質異常症を中心とした動脈硬化症リスクから、冠動脈疾患発症のリスクを推定し、リスクに応じた脂質異常症の管理目標値を設定して、危険因子を加療・コントロールすることが採用されました。冠動脈疾患の既往がある場合は、二次予防(重症化の防止)としてより厳重な危険因子のコントロールを行います。冠動脈疾患の既往がなければ、次に糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患の有無を確認し、これらがある場合は高リスクとなります(図1)。これらがない場合は、吹田スコアによるリスク分類を行います。吹田スコアは、年齢、性別、喫煙、血圧、HDLコレステロール、LDLコレステロール、耐糖能異常、冠動脈疾患の家族歴からそれぞれを点数化して合計し、点数により10年以内の冠動脈疾患の発症確率を推定し、その発症確率に基づいて、低、中、高リスクを判定します(図2)。リスクに応じて脂質の管理目標値が設定されています(表1)。今回のガイドライン改定から医療従事者向けのアプリが公開されています(もちろん無料です)。

(URL:http://www.j-athero.org/publications/gl2017_app.html)。一般の方向けのアプリは準備中です。脂質の採血結果といくつかの質問に答えることで、自分の今後10年以内の冠動脈疾患の発症確率と脂質の管理目標を簡単に知ることができます。ご自身の10年以内の狭心症や心筋梗塞の発症確率に興味はありませんか?そしてよりリスクを下げるために、ご自身の脂質はどのくらいにコントロールすれば良いのか興味はありませんか?興味のある方はかかりつけ医にご相談か、一般の方向けアプリが公開されるのを待ってチェックしてみてはいかがでしょうか。脂質異常についてリスクに応じた数値目標を設定して、明確な目標を持って食事や運動など生活習慣の改善、薬物治療を行うことは、発症するまで症状の乏しい動脈硬化性疾患の治療に有効です。

現在の動脈硬化の進行度を画像として知る検査法として、頚動脈超音波検査があります。超音波で首の動脈(頚動脈)を観察することで、動脈硬化を起こす動脈壁の厚さ(IMT:Intima Media Thickness、内膜中膜複合体厚)を測定します。このIMTは動脈硬化の進行程度とよく相関することがわかっています。1.1mm未満が正常です。春日クリニックでも検査できます。検査に特に食事など制限はありません。当日申し込みでも対応可能な場合が多いです。動脈硬化症のリスクに思い当たることのある方はご検討ください。

高齢化社会、人生100年時代をより快適に過ごすため、自分の動脈を健康に保つことは、がんの予防、早期発見とともに非常に重要です。動脈硬化気にしてみませんか?

<図1>

1)日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 東京2017.

<図2>吹田スコアによる冠動脈疾患発症予測モデル

吹田スコアによる冠動脈疾患発症予測モデル

<表1>リスク区分別脂質管理目標値

リスク区分別脂質管理目標値

参考文献:

  • 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 東京2017.

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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