同友会メディカルニュース

2021年12月号
「成人の食物アレルギー」

はじめに

2021年10月号では、外来抗原(アレルゲン)などの侵入により複数の臓器に全身性のアレルギー症状が惹起され、生命の危機を与え得る過敏反応である「アナフィラキシー」についてお伝えしました。また、前回の11月号では「花粉症とアレルギー性鼻炎」についてお伝えしました。そして、今回は「成人の食物アレルギー」で、3回目のアレルギー関連のお話です。「食物アレルギー」は小児の疾患と思われるかもしれませんが、成人の食物アレルギーには多彩な症状や疾患があり、まだまだ認知度が低いのが現状です。

食物アレルギーは、一般的に「即時型」といわれる典型的なタイプ(原因食物を摂取したあと、蕁麻疹、口腔の違和感、咽頭掻痒感、悪心、呼吸困難、血圧低下、意識障害などの様々な症状が出現する。機序はIgE 依存性です。)が最も頻度が多く、広く知られています。これに加え、成人の食物アレルギーでは、①食物依存性運動誘発アナフィラキシー FDEIA, food-dependent exercise-induced anaphylaxis と、②口腔アレルギー症候群 OAS, oral allergy syndrome の2つの「特殊な即時型症状をとるタイプ」がとても重要です。今回は、この2つの疾患を中心に解説していきます。

1.食物依存性運動誘発アナフィラキシー FDEIA, food-dependent exercise-induced anaphylaxis について

通常の食物アレルギーでは、原因食物を摂取すると安静時でもアレルギー症状を認めます。一方、FDEIA は、食事せずに運動をしても症状はなく、原因食物を摂取しても安静にしていれば症状はないのに、原因食物を摂取後に運動をするとアレルギー反応が起こり、アナフィラキシーをきたしうる疾患です。運動により症状が誘発される機序はまだ明らかではありませんが、運動によって腸管の透過性が亢進し、未消化の食物抗原が吸収され血管内に流入することが大きな要因と考えられています。また、非ステロイド性抗炎症薬 NSAIDs, non-steroidal anti-inflammatory drugs の服薬も腸管の透過性亢進をきたし、症状が誘発されやすくなることが知られています。運動、NSAIDs のほか、疲労、アルコール摂取、睡眠不足、感冒、ストレス、月経、気象変化なども関与していると考えられています。

FDEIAの原因食物としては、小麦、甲殻類(エビ、カニ、ロブスター)、果物などの頻度が多いことがわかっています。特に小麦によるFDEIA は頻度が多いため、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー WDEIA, wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis と呼ばれることもあります。小麦(パン、うどん、パスタ、菓子、小麦粉、ハンバーグ・唐揚げなどのつなぎ成分、など)を摂取した後の運動で、蕁麻疹などの軽いアレルギー症状から重篤なアナフィラキシーまで起こりえます。例えば、「朝から感冒症状があっても出勤しなければならず、感冒薬を内服して(NSAIDs)、急いでパンだけ食べて(小麦)、小走りに最寄り駅の上り階段を登ったところで(運動)、アナフィラキシーを起こし意識をなくして救急搬送された患者さん」などは典型的な症例です。また、「朝食にパンを食べて、子供を保育園に送ってから通勤途中の歩道橋で気を失ったお母さん」のように比較的軽い運動負荷でも発症することもあります。

FDEIAに対する対策・生活指導としては、原因食物摂取時は食後約2時間の運動回避、アルコール併用の回避、食事前後約2時間のNSAIDs 回避、エピペン®️(アドレナリン自己注射液)の携帯、などが重要です。運動だけする、原因食物を食べても安静を守れる、NSAIDsは内服しないでいられる場合は、日常生活は通常問題ありません。

(WDEIA の診断には、血液検査項目の小麦タンパク質(ω-5 グリアジン)特異的IgEが有効です。)

2.口腔アレルギー症候群 OAS, oral allergy syndrome について

OAS とは、口腔や咽頭の粘膜に限局した即時型アレルギー症状(食物摂取直後からの口の中や喉の痒み、ピリピリ感や、口唇の腫れ)です。症状が口腔や咽頭に限局する理由は、原因食物の抗原(アレルゲン)が消化酵素で容易に抗原性を失うためです。特に、花粉症の患者さんにみられるOAS を、花粉-食物アレルギー症候群 PFAS, pollen-food allergy syndrome と呼びます。OAS の定義は厳密には国際的にも統一されていませんが、本稿では、OAS を PFAS の定義に当てはまるものに限定して解説します。

花粉症は花粉アレルゲンに感作されて起こるアレルギー疾患です。一方、食物アレルギーは食物アレルゲンに感作されて起こるアレルギー疾患です。もし、それぞれのアレルゲンの性質が似ていれば(交差抗原性が高ければ)、特定の花粉症のある患者さんは、似た抗原性をもつ食物にアレルギー症状を起こしやすくなります。原因食物としては、新鮮な果実や野菜が多いです。

(世界中に様々な花粉や食物がありますが、それらのアレルゲンの大部分はタンパク質です。タンパク質はアミノ酸が鎖状につながっており、らせん状やシート状に折りたたまれ、立体構造(3次構造)をとっています。特異的IgE抗体は、この立体構造の抗原部位(エピトープ)に結合します。アレルゲン性をもつ分子をアレルゲンコンポーネントと呼びます。)

PFASは、花粉感作後に交差反応で起こるため「花粉症が原因で生じる食物アレルギー」といえます。花粉の種類によって交差する(反応する)食物の組み合わせが異なります。主な花粉と交差反応性のある食物(果実、野菜)を【表1】に示します。左側の花粉と右側の食物に関連があることがわかっています。日本で花粉症といえばスギ花粉症が有名ですが、臨床的にはシラカンバ・ハンノキ花粉症とバラ科果実(リンゴ、モモ、サクランボ、など)の食物アレルギーの組み合わせの患者さんが圧倒的に多いです。スギ・ヒノキ花粉症とトマトの食物アレルギーの組み合わせの患者さんはそれほど多くはない印象です。海外でもシラカンバ・ハンノキ花粉症とそれに交差反応する食物アレルギーが有名です。シラカンバ花粉(主要抗原 Bet v 1)とバラ科果実のサクランボや野菜のセロリ(主要抗原 PR-10)のアレルゲンの立体構造(アミノ酸配列)を【図1】に示します。とても似ていることがわかると思います。

〔表1〕 花粉と交差反応を示す食物

花粉と交差反応を示す食物
画像をクリックでPDFファイルが開きます

〔図1〕 花粉アレルゲンと果実・野菜アレルゲンの立体構造

花粉アレルゲンと果実・野菜アレルゲンの立体構造
画像をクリックでPDFファイルが開きます

花粉症の原因には樹木や草類など多彩な花粉があります。花粉症があって、特定の果実や野菜を食べると、口や喉が痒くなったり、唇が腫れる、甘いはずの果実が甘くない、などの症状を感じてもアレルギー症状と思っていない人も多いようです。

PFASに対する対策・生活指導としては、基本は原因食物の除去です。特に新鮮な果実や野菜は回避が大切です。稀ですがアナフィラキシーの既往がある場合はエピペン®️(アドレナリン自己注射液)の携帯なども重要です。

最後に

今回は、「成人の食物アレルギー」と題して、FDEIA(「運動」と「食物アレルギー」)とOAS/PFAS(「花粉症」と「食物アレルギー」)について解説しました。食物アレルギーの関連疾患として、加水分解小麦の経皮感作で発症する小麦アレルギー(「茶のしずく石鹸®︎」)、魚アレルギーと間違いやすいアニサキスアレルギー(寄生虫アレルギー)、食物に混入するダニ経口摂取によるアナフィラキシー(お好み焼き)など、多くの疾患があります。食物アレルギーは、①原因抗原(食物、ダニ、寄生虫、など)、②感作経路(経消化管、経皮、経気道)、③交差抗原性、④増悪因子、⑤症状の性状、⑥生活指導、⑦発症時の対応、などを理解すると頭の整理になります。原因不明の症状が、食物アレルギーが原因だったということも珍しくはありません。困ったときにはアレルギー疾患の可能性も忘れないでください。

参考文献

  • アレルギー総合ガイドライン 2019 日本アレルギー学会
  • 食物アレルギー診療ガイドライン 2018 日本小児アレルギー学会
  • 成人食物アレルギー 2019 相模原病院 福富友馬
  • 年代別食物アレルギーのすべて 2018 相模原病院 海老澤元宏
  • 食物アレルギーの基礎と対応 2018 アレルギー疾患ネットワーク
  • アレルギー診療 2019 永田真 編
  • Allergy, Asthma & Clinical Immunology 2010 6:1

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