同友会メディカルニュース

2017年5月号
逆流性食道炎とバレット食道について

1.バレット食道とは

最近日本では逆流性食道炎が増加傾向にあるといわれていますが、その逆流性食道炎と関連が深いバレット食道という病気をご存知でしょうか。

通常、食道の粘膜は扁平上皮、胃や腸は円柱上皮という粘膜に覆われています。逆流性食道炎などで炎症を起こして傷害された食道の扁平上皮が、胃から連続して胃と同じ円柱上皮で置き換えられたものをバレット粘膜(図1)、バレット粘膜が存在する食道をバレット食道といい、食道がんに対してリスクが高いといわれています。

このバレット食道に引き続いて起こる食道がん(バレット食道がん)が欧米の白人で近年非常に増加していることで問題になっています。

逆流性食道炎とバレット食道の内視鏡所見

図1 逆流性食道炎とバレット食道の内視鏡所見

両矢印がバレット粘膜の範囲を、赤矢印が食道炎を示しています。

2.逆流性食道炎とは

バレット食道の主な原因である逆流性食道炎は、胃液などの消化液が食道まで逆流することによって食道に炎症を起こし、胸焼けや口の中に酸っぱいものが上がってくる(呑酸)、などの症状をきたす病気です(図1)。

逆流性食道炎の原因としては加齢などによる胃の入り口(噴門部)の胃液逆流防止機能の低下が重要で、食道裂孔ヘルニア(図2。横隔膜で食道が貫通している部分が弛緩し胃の一部が胸部に脱出すること)のある場合は特に起こりやすいと考えられます。その他にも肥満や内臓脂肪の増加による腹腔内部の圧上昇、過食、喫煙、飲酒なども誘因として挙げられます。

逆流性食道炎は最近増加傾向にありますが、その中のごく一部がバレット食道に変化していくものと考えられています。

食道裂孔ヘルニアと胃液の逆流

図2 食道裂孔ヘルニアと胃液の逆流

矢印が胃液の流れを示しています。正常(左側)では横隔膜などにより胃液の逆流防止機構が働いていますが、食道裂孔ヘルニアがあると逆流防止機構がうまく作動せず、食道に胃液が逆流してしまいます。

3.バレット食道と発がん

バレット粘膜に遺伝子の変化などが加わることでがん化すると考えられていますが、その発がんのメカニズムはまだ十分には解明されていません。

欧米のデータではバレット食道のある患者さんは健常者と比較して食道がんの発生が30~125倍高いとされています。

日本人のバレット食道の発がんリスクは現時点では欧米より低いと推定されていますが、まだ患者さんの数も少ないため大規模な調査等がなく、正確な頻度は不明です。

欧米では最近25年でバレット食道からの発がんは6倍以上に増加していると報告されています。逆流性食道炎がまず欧米で増加し、それに引き続いてバレット食道、バレット食道がんも著明に増加してきました。

欧米人の傾向を単純に日本人に当てはめることはできませんが、最近日本では逆流性食道炎が増加しており、今後食生活の欧米化などに伴いバレット食道も増加していくことが懸念されています。

4.バレット食道の診断と検査の必要性

逆流性食道炎は症状や問診からある程度診断はつくものと考えられますが、その患者さんにバレット食道が発生しているかどうかについては内視鏡検査が必要です。

バレット食道そのものに対する治療は現時点では有効なものがなく、随伴する逆流性食道炎の症状を抑えるために胃酸の分泌を抑制する内服薬(ガスター®等のH2受容体拮抗薬、タケプロン®やネキシウム®等のプロトンポンプ阻害薬)を使用します。

バレット食道からの発がんを抑制する有効な方法も現時点ではありません。
バレット食道がんの早期発見のためには、特に胸やけなどの逆流性食道炎の症状のある方はまず内視鏡検査を受けていただくこと、内視鏡検査でバレット食道を診断すること、そしてバレット食道と診断された場合は定期的に内視鏡検査を受けることが重要と考えられます。

参考文献:

  • 患者さんと家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイドブック 日本消化器病学会編集
  • 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015 改訂第2版 日本消化器病学会 南江堂
  • 食道癌 診断・治療ガイドライン 2012年4月版 日本食道学会編 金原出版株式会社
  • 臨床・病理 食道癌取扱い規約 第11版 日本食道学会編 金原出版株式会社

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