2017年4月号
頭痛について
日本において、頭痛を自覚する人は、年間4000万人にのぼることが知られています。その多くは、他に原因となる病気がない「一次性頭痛」といわれる頭痛です。一次性頭痛は、生命を脅かすものではありませんが、繰り返し慢性的に痛みが現れ、時には就労や登校が出来なくなるなど、生活の質を低下させます。頭痛がある場合でも、これをうまくコントロールし、快適な生活を送るためには、ただ薬を服用するのみではなく、自身の頭痛に関する正しい知識を持つことが重要です。また、頭痛診療の現場では、くも膜下出血をはじめとする「二次性頭痛」、つまり何らかの病気が原因で起こる危険な頭痛を速やかに診断することも重要です。今回は頭痛について解説させて頂きます。
1.頭痛の分類
1962年にアメリカ神経学会の頭痛分類が発表されるまで、頭痛の診断基準はなく、頭痛の診断は各医師の判断に任されていました。また、1988年に国際頭痛学会が「国際頭痛分類」を発表し、世界共通の診断基準が示されたことによって、頭痛診療の国際的な標準化が可能となりました。2004年には、研究の進歩や科学的根拠を取り入れて、「国際頭痛分類 第2版」が公表されました。そして2013年、さらに改良された「国際頭痛分類 第3版 beta版」(International Classification of Headache Disorder : ICHD-3β)が公表されました。このICHD-3βの概要は以下の通りです。
- ① 頭痛は「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分けられる。
- ② 「一次性頭痛」とは、頭痛自体が病気とされるもので、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛に分けられる。
- ③ 「二次性頭痛」とは、くも膜下出血や髄膜炎など、他の病気の一症状としての頭痛を指すグループである。
- 第1部 一次性頭痛
-
- 1.片頭痛
- 2.緊張型頭痛
- 3.群発頭痛
- 第2部 二次性頭痛
-
- 4.頭部外傷による頭痛
- 5.くも膜下出血による頭痛
- 6.脳腫瘍による頭痛
- 7.薬剤の使用過多による頭痛
- 8.髄膜炎による頭痛
- 9.高血圧性頭痛
- 10.顎関節症による頭痛
- 11.精神疾患による頭痛
2.二次性頭痛
頭の中に限らず、何らかの病気があって起こる頭痛を、二次性頭痛といいます。二次性頭痛の原因は多種多様であり、生命にかかわる場合もあるため、慎重かつ速やかに診察と検査を行います。単に一次性頭痛か、二次性頭痛かの区別だけでなく、その両方がある場合もあるため注意が必要です。二次性頭痛の診断には、頭部CTや頭部MRIなどによる画像診断が非常に役立ちます。
3.片頭痛
片頭痛は、頭の「片側」に発作的に発生することが多いため、「片」頭痛と呼ばれますが、両側性の例もあるので注意が必要です。片頭痛は、仕事・学業・家事などに悪影響を及ぼす頭痛発作です。7割を超える患者が、日常生活に支障があることを自覚しています。片頭痛は、頭痛発作を繰り返す病気で、痛みの強さは中等度~重度です。日常的な動作により頭痛が悪化することが特徴であり、痛み以外に、吐き気や、明るい光を辛く感じる「光過敏」、やかましい音を辛く感じる「音過敏」を伴います。
片頭痛は、「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」に分けられます。片頭痛の前兆は、5分以上持続し60分以内に完全に消失することが多く、視覚性、感覚性、言語性があります。視覚性前兆はキラキラした光・点・線が見えたり、視野の一部が見えにくくなったりする症状で、典型的なものが閃輝暗点(せんきあんてん)です。閃輝暗点は、視野のある部分にジグザグ形が現れ、徐々に拡大し、その周囲がキラキラ光る閃光で縁取られます。感覚性前兆は、顔・舌・体の一部に始まり、次第に拡大するチクチク感や感覚の鈍さなどの症状です。言語性前兆は、言葉が思うように出ない、話しにくいという症状が多いです。
視野にギザギザした稲妻様の閃輝が現れ、これが次第に拡大していきます。その後、視覚消失(暗点)が現れ、やがて頭痛が始まります。これを閃輝暗点といいます。
日本では、片頭痛の年間有病率が8.4%と報告されています。その内、前兆のない片頭痛が5.8%で、前兆のある片頭痛が2.6%でした。また、片頭痛の年間有病率は、女性12.9%、男性3.6%と、女性に4倍近く多い傾向があります。欧米の調査結果でも、女性約18%、男性約6%と、女性に多いです。
片頭痛の薬物治療は、頭痛を抑える薬と、頭痛発作を予防する薬に分けることができます。頭痛を抑える薬には、非特異的な鎮痛剤と、片頭痛に特異的なトリプタン製剤があります。重症の片頭痛に対しては、初めからトリプタン製剤を使用する方が、早く効果が得られます。トリプタン製剤は、内服するタイミングが重要です。頭痛発現後2時間を過ぎると治療効果が低下するため、「片頭痛が始まった」と感じたらすぐに内服しましょう。ただし、狭心症や心筋梗塞などの心臓病や、一過性脳虚血発作の既往のある方は服用できませんので、注意が必要です。
発作予防薬には、元々は血圧を下げる薬であるカルシウム拮抗薬やβ遮断薬、抗けいれん薬、抗うつ薬などがあります。発作予防薬の適応は、日常生活を妨げるような発作が、頻繁にみられる時です。
それぞれの患者に合った薬を内服することにより、片頭痛による生活のロスタイムを減らすことができます。
4.緊張型頭痛
緊張型頭痛は、頭が重く締め付けられるように痛む頭痛で、比較的症状が軽く、動いても痛みがひどくなることはありません。時々起こる緊張型頭痛では、日常生活に支障をきたすことは少なく、病気として扱わなくてもよいという考えもあります。しかし、頭痛が頻回に繰り返される慢性緊張型頭痛では、日常生活の質が低下し、心理的負担も大きくなるため、医療機関を受診した方がよい場合もあります。
日本での調査によりますと、緊張型頭痛の年間有病率は約22%と報告されています。また、緊張型頭痛が一次性頭痛のなかで最も有病率が高く、女性の方が男性よりも有病率が高いです。
緊張型頭痛というと、肩こりによる頭痛と思われることが多いのですが、片頭痛でも発作の初期に肩こりがみられることもあり、肩こりと頭痛があるだけでは緊張型頭痛と診断することはできません。首やその周りの筋肉の緊張も原因の一つですが、ストレスや不安、抑うつなどの心理的な原因のために、痛みの調整がうまくできない状態であることが分かってきました。
急性期(発作時)には鎮痛薬が治療の中心となりますが、不安を取り除き、心を落ち着かせる効果のある薬(抗不安薬)や筋肉の緊張を和らげる薬(筋弛緩薬)を併用することで、高い効果が期待できます。
5.群発頭痛
群発頭痛は、片側の眼の周囲から前頭部や側頭部にかけての激しい頭痛が、数週間から数か月の間ほぼ毎日起こる頭痛です。痛みは、毎日ほぼ同じ時間に起こる傾向があり、特に夜間や睡眠中に頭痛発作が起こりやすいのが特徴です。頭痛の最中に、頭痛がある側だけ眼が充血したり、涙が出たり、鼻水が出たりするという自律神経症状に気が付けば、診断は難しくありません。
また、群発頭痛の年間有病率は数%と報告されており、日本では少ないです。
群発頭痛では、発作時に、トリプタン製剤を服用する、純酸素を吸うという治療の他に、元々は血圧を下げる薬であるカルシウム拮抗薬を内服する予防療法が有効です。
6.まとめ
頭痛のある方は、人間ドックを受診した際、頭部MRI検査および頭部MRA検査をお受けになることをおすすめいたします。また、画像上は異常が認められず、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などが疑われる場合は、頭痛外来を受診し、精密検査や治療について御相談下さい。
参考文献:
- 国際頭痛分類 第3版 beta版(ICHD-3β), 医学書院, 2014.
- Sakai F, et al: Prevalence of migraine in Japan. A Nationwide Survey. Cephalalgia 17: 15-22, 1997.
- Lipton R. B, et al: A self-administered screener for migraine in primary care. The ID Migraine validation study. Neurology 61: 375-382, 2003.
- Michel P, et al: Validity of the International Headache Society criteria for migraine. Neuroepidemiology 12: 51-57, 1993.
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- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
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- 大動脈弁狭窄症の新しい治療法 -TAVI-
- 世界肝炎デーご存知ですか?
- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
- データヘルス計画が始まります
- 『胸やけ、げっぷ』ありませんか?
- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
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食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!