同友会メディカルニュース

2024年2月号
震災関連死とショック死

はじめに

今年は能登半島での大規模な地震から始まる大変なスタートとなりました。執筆時点で200人を超える人命が失われるという甚大な被害が出ており、一刻も早い復旧を願っております。今回は最近注目されている、震災関連死について解説します。

震災関連死とは

震災による死者には ①外傷、溺水など直接的原因によるもの、②外傷等を負わなくても精神的負担や厳しい避難環境などの間接的原因によるものの2種類がありますが、負傷の後日の悪化や避難生活等における身体的負担による死亡を震災関連死と呼びます。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた概念ですが、2004年の新潟県中越地震で車中泊中の死者が続出したことから注目されるようになりました。

阪神・淡路大震災での震災関連死者数は919人(全死者・行方不明者数の14.3%)、新潟県中越地震では52人(同76.5%)、東日本大震災(2011年)では3794人(同17.1%)、熊本地震(2016年)では218人(同80.1%)とされています。震災時に津波や大規模火災が起きたか、避難生活がどれだけ長引いたか、インフラの復旧に時間がかかったか、被災地域の高齢化率が高いか等、複数の要因で大きく比率が変わってきますが、思う以上に震災から時間が経ってから亡くなる人が多いことがわかります。震災による犠牲者を減らすためには、震災関連死を防ぐことも重要です。

震災関連死を防ぐために

震災後は肺炎などの呼吸器疾患と、血栓による心筋梗塞・脳梗塞といった循環器疾患が増加します。「災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン」も作成されており、この中でも震災関連死を減らすためには以下の点をこころがけるよう勧められています。

  1. 水分を摂取し脱水を防ぐ
  2. 積極的に体を動かしエコノミークラス症候群を防ぐ
  3. うがいや飴で口腔内をケアする
  4. マスク・手洗いを励行し感染症を予防する
  5. 内服薬(特に心臓や肺に関連する薬)を継続する
  6. なるべく質の高い睡眠を確保する
  7. 減塩に努め、十分な水分摂取の上でカリウムの多い食事(緑色野菜、果物、海藻類)を摂取する
  8. 禁煙を行う

ショック死について

今回の能登半島地震の発生直後に、新潟県内でも90歳の女性がショック死したという報道がありました。医学的には「ショック」というのは生体に対するダメージ、あるいはダメージに対する生体反応の結果,重要臓器の血流が維持できなくなり,細胞の代謝障害や臓器障害が起こり,生命の危機にいたる急性の症候群のことを指し、原因としては出血、やけど、強いアレルギー、脊髄損傷、心筋梗塞、肺梗塞などが挙げられます。ところがいわゆる「ショック死」は、特に身体的なダメージがなくても精神的な強い負荷をきっかけにショック状態となるケースが多く含まれているようです。古くは1962年のプロレス中継で、流血シーンを見た高齢者5人がショック死したという事件もありました。

死亡した90歳の女性の詳細は不明ですが、強いストレスによって興奮状態となり、交感神経が活性化された結果、急性心筋梗塞や致死性不整脈、心破裂、脳梗塞、肺梗塞等が起きたものと推察されます。一般的には高血圧、脂質異常症、糖尿病、狭心症などの素因をもった人は特にリスクが高いとされています。

また、新潟中越地震ではたこつぼ心筋症という疾患が注目されました。正確な原因は不明ですが、過度の精神的ストレスを受けた後に一過性に心臓の左室が収縮しにくくなり、正常に血液を送り出すことができなくなる病態です。心臓の動きが悪くなった形が、たこ漁で使われる蛸壺のような形に見えるのでこの病名がつきました。胸痛・胸に強い圧迫感・呼吸困難を感じるため、心筋梗塞・狭心症と酷似していますが、それらで見られる冠動脈(心臓の筋肉の血管)の病変を認めないこと、圧倒的に中年女性に多いことが特徴です。ストレスを受けた直後から1週間以内に発生し、予後は良好ですが、まれに心破裂や心不全を起こすこともあります。

震災関連死とショック死

終わりに

災害はいつ発生するかわかりません。幸い発生直後の建物倒壊、火事、津波などを免れても、長期にわたる避難生活をどう乗り切るかも重要になってきます。震災関連死を防ぐために、普段から防災グッズや常用薬といった準備を整えていきましょう。

参考文献

  • 下川宏明 : 東日本大震災から学ぶ内科疾患~特徴,対応,予防~ . 日本内科学会雑誌, 第103巻, 545-550, 2014
  • Watanabe H, et al : Impact of earthquakes on Takotsubo cardiomyopathy. JAMA 294 : 305-307, 2005.
  • 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会 : 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン2014年版.
  • 苅尾七臣:大震災時の心血管イベント発生のメカニズム とそのリスク管理―自治医科大学 2004 年提言より―.心 臓 39 : 110―119, 2007.
  • 上田耕蔵 :震災関連死を減らす医療・福祉の役割 震災関連死の推計と認定についての考察から. 復興 (10号) Vol.6 : 9-18, 2014.
  • 日本心臓病学会編 : 循環器内科医のための災害時医療ハンドブック. 日本医事新報社.
  • 東京消防庁 : 地震に対する10の備え
    https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/bou_topic/jisin/sonae10.html

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