同友会メディカルニュース

2019年3月号
男性にもある更年期障害とは

「更年期障害」と聞くと、女性で閉経期の前後にホルモンバランスが崩れ、さまざまな不調があらわれるものというイメージを持たれる方が多いと思いますが、この更年期障害、実は男性にとっても無縁の話ではないということが近年明らかになってきています。

男性の更年期障害は、加齢男性性腺機能低下症候群(Late-Onset Hypogonadism:LOH 症候群)とも呼称されます。「更年期」とは性ホルモンが標準より低下した時期を指したものですが、それが原因で身体のみならず精神面においても様々な支障を来たすことは、何も女性に限った話ではありません。男性と女性の大きな違いは、女性の場合は閉経前後10年間に起きることが多いのに対して、男性は環境による影響が大きく、ホルモンの減少する時期や期間、程度においてかなり個人差があることです。概ね40歳以降が多いですが、中には30代の方もあり、逆に60歳~70歳になって初めて発症する場合もあります。また女性は閉経後にホルモンバランスが落ち着くと症状も軽減することが多いのですが、男性の場合はなかなか終わりがこないことも珍しくはないようです。

テストステロンの働き

更年期障害では女性の場合は女性ホルモン(エストロゲンなど)が指標になりますが、男性では男性ホルモン(テストステロン)の働きが重要です。テストステロンは脳の指令を受けて精巣で産生され、血液中に分泌されます。主な作用としては表1の通りです。

表1:テストステロンの主な作用
  • 骨や筋肉の発達を促し、内臓脂肪を抑え、男性的な体型を作る
  • 精子を作って性欲を高める
  • 判断力や理解力、記憶力などの認知能力を高める
  • 免疫力や骨量を保つ
  • 動脈硬化を防ぐ
  • 皮膚の潤いを保ち、皮膚の弾力成分であるコラーゲンを維持する

男性更年期障害の症状

テストステロンは一般的に20歳台にピークに達しその後徐々に減っていきますが、その減少が通常より強いと更年期障害を起こしやすくなります。男性の更年期障害による症状は多種多様ですが、主なものとしては表2のような症状が知られています。

表2:男性更年期の症状
  • 性欲が低下した、朝の勃起が見られなくなった
  • 興味・意欲の減退(仕事に燃えない)、パフォーマンスの低下、疲れやすい
  • 集中力・判断力・記憶力が低下した
  • 短気で怒りっぽくなった、自己中心的、神経質、不安、気分が落ち込む
  • 睡眠のリズムが乱れやすく、夜間に目が覚めて眠れない
  • 筋肉量の減少、内臓脂肪の増加、皮膚がたるむ、シワが出てきた、骨が脆くなった
  • 関節痛、筋肉痛、頭痛、発汗、ほてり、手足の冷え

症状の中でメタボ体型や疲れやすいこと、認知能力の低下などはともすれば「トシのせい」の一言で片づけられやすいのですが、程度によっては通常以上の男性ホルモン低下に伴う更年期障害の症状かもしれません。意欲の減退や不安など心の症状はうつ病と共通するものが多くありますが、うつ病では痩せることが多いのに対し、男性更年期障害では太りやすいのが特徴です。また、うつ病と比較すると死にたくなる気持ち(希死念慮)が起きにくいとされています。

男性更年期の症状に関して、よく用いられている質問票の一つにAging malesʼ symptom(AMS)スコアというものがあります(表3)。気になる方は一度自己チェックしてみてはいかがでしょうか。

表3:Aging males’symptoms(AMS)スコア
症状 なし
(1)
軽い
(2)
中等度
(3)
重い
(4)
非常に
重い(5)
1 総合的に調子が思わしくない
2 関節や筋肉の痛み
3 ひどい発汗
4 睡眠の悩み
5 よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
6 イライラする
7 神経質になった
8 不安感(パニック状態になる)
9 からだの疲労や行動力の減退
10 筋力の低下
11 憂うつな気分
12 「絶頂期は過ぎた」と感じる
13 力尽きた、どん底にいると感じる
14 ひげの伸びが遅くなった
15 性的能力の衰え
16 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
17 性欲の低下
合計
合計点 17~26点 27~36点 37~49点 50点以上
評価 問題なし 軽度 中等度 重度

男性更年期障害の検査

上記のような心と体の症状が続き、AMSスコアでも中等度(37点)以上あるような場合は男性更年期障害の可能性がありますので、年齢に関わらず一度診断のために受診が勧められます。男性更年期障害は泌尿器科が該当しますが、比較的新しい分野ですので泌尿器科の中でも特に「男性更年期外来」や「メンズヘルス外来」などの専門外来を設けている病院を受診出来ればなお良いでしょう。

男性更年期を疑う場合、血液検査で遊離型(フリー)テストステロンという物質を調べることが基本となります。この物質は日内変動があり健常な人でも午後になると低下しやすいので、採血は午前中に行います。

図:男性更年期の診断アルゴリズム(概要)

図:男性更年期の診断アルゴリズム(概要)

男性更年期障害の治療法

テストステロンの分泌量は先天的に決められているわけではなく、生活習慣や環境によって大きく変わることが知られています。そのため、対処法においても生活環境・習慣の改善が重要です。

規則正しく十分な睡眠時間を確保することは、ホルモンの分泌を促します。また食事においてニンニク・玉ねぎ・牡蠣はテストステロンの産生を増やし、肉類・卵・乳製品などのたんぱく質の摂取も大切です。他にも適度な運動によって脳と筋肉を刺激すること、社会活動の中で競争心を保ち手ごたえややりがいを感じること、ストレスを過度にため込まないことも効果があると言われています。

こうした生活環境の見直しによっても症状が改善しない場合は、より積極的な治療法としてホルモン療法(アンドロゲン補充療法:ART)があります。遊離型テストステロンが境界域より低いことに加えて、前立腺がんがないこと、前立腺腫瘍マーカー(PSA)の値が低いこと、重度の肝機能・腎機能障害を有さないことなどの諸条件を満たしていることを専門医が確認して治療の適応を判断することになります。

近年、高齢者が高い活動性を保つ事が、自立を通じてQOLの高い生活を実現するだけでなく、社会的資本(労働力と生産性)の維持のために期待される中で、更年期対策もこれまで以上に注目されるようになっています。最近は女性だけでなく男性更年期検査を用意している健診機関も増えていて、春日クリニックでも2019年度からオプション検査として遊離型テストステロンを測定出来るようになります。気になる方は健康診断の機会を利用して調べてみるのも良いでしょう。

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