同友会メディカルニュース

2024年5月号
サプリメントを含めた薬剤と腎機能障害の関連について

はじめに

あるサプリメントを定期的に摂取していた方々が、腎機能障害をきたしている可能性があると連日報道されています。因果関係に関しては、関係機関の今後の調査や研究結果を待ちたいと思いますし、執筆時点で日本腎臓学会においても、学会員に対し「学会としても、事態を注視し、適宜情報を発信してゆきたく存じます。」とコメントしております。今回は、腎機能障害をきたす薬剤やサプリメントにはどのようなものがあるのか、腎機能障害を指摘されている慢性腎臓病(CKD)患者が注意するサプリメントにはどのようなものか、一般読者はどのような点に気を付けていくべきかを、簡単にまとめました。

サプリメントを含めた薬剤と腎機能障害の関連について

薬剤性腎機能障害

治療薬に使用される薬剤は、体内で効力を発揮した後、➀肝臓で代謝(薬剤が解毒処理や体外へ排泄されやすい状態へ変換される)され腎臓や消化管より排泄されるもの、➁直接腎臓より排泄されるもの、の二つに大別されます。今回のテーマは腎機能障害をきたす薬剤ですから、腎排泄が中心の薬剤の中で、排泄能力を上回る薬剤が体内に投与されると、中毒として腎機能障害が出現することがあります。また、適切な投与にもかかわらず、アレルギー反応により腎機能障害をきたす薬剤があります。これらをそれぞれ、中毒性腎機能障害、アレルギー性腎機能障害と呼びますが、以下に代表的な薬剤を記載します。

中毒性腎機能障害

抗菌薬の一部、造影剤の一部、抗がん剤の一部

アレルギー性腎機能障害

鎮痛薬の一部(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)、抗菌薬の一部、胃薬の一部、尿酸治療薬の一部

薬剤性腎機能障害の頻度が高いのは、NSAIDs、抗菌薬、造影剤、抗がん剤であり、全体の約3分の2を占めているといわれています。これらの薬剤はよく日常診療で使用されているので、この記事を読まれた方の中には、薬剤内服による腎機能障害のリスクを過度に心配されてしまうかも知れません。しかしながら、それぞれの患者さんごとの年齢や既往歴や血液検査における腎機能等を参考にしながら薬剤を慎重に使用すること、薬剤内服開始後必要に応じて血液検査を行いながら評価していけば、薬剤性腎機能障害を防ぐことが出来ます。万一、腎機能障害が起こってしまった場合でも、薬剤中止を早期に行うことで、腎機能障害の進行を防ぐことが出来ます。

サプリメント

サプリメントは、英語で「supplement」であり、「補うこと、補給」という意味です。
しかしながら、近年、食事で摂りきれない栄養素を補うためだけでなく、疾患の改善や体調改善、健康増進、ダイエットや老化予防目的に使用されている現状も多々あります。
以下に例として、➀健常者においても過剰摂取により腎機能障害をきたしうるサプリメント、➁CKD(慢性腎臓病)患者が控えるべきサプリメントを記載します。

➀過剰摂取により腎機能障害をきたしうるサプリメント

有機ゲルマニウム:ニンニク、ニンジン、アロエ、クコの実などに含まれています。有機ゲルマニウムは、呼吸で体内に取り込んだ酸素を全身の細胞に送る手助けをする作用があるといわれています。しかしながら、有機ゲルマニウムを大量摂取することにより、腎機能障害の報告がされています。

➁CKD(慢性腎臓病)患者が控えるべきサプリメント

青汁(ケール):緑黄色野菜の葉を絞ったり、つぶしたりジュース状にしたものです。市販されている主なものは、栄養バランスがよく収穫量の多い「ケール」というキャベツの原種の野菜を使っているものです。しかしながら、ケールは栄養価が高い反面、生野菜であり、K(カリウム)含有量が非常に高いです。過剰摂取しますと、CKD患者はK排泄がうまくいかず、高K血症に陥りやすく、致死的な(重篤な)不整脈が起きやすいです。

ウコン(ターメリック):ウコンはターメリックともいい、しょうがに似た成熟した地下茎を乾燥させたものです。カレー粉やフレンチマスタード等に使用されています。二日酔いや肝機能改善目的を期待して、ウコンをサプリメントとして摂取される方がいますが、十分な医学的根拠はないともいわれています。一方、ウコンにはK(カリウム)やP(リン)が含まれているので、過剰摂取しますと、CKD患者はKやP排泄がうまくいかず、注意が必要となります。

クランベリー:日常ではジャムやジュースに用いられます。クランベリーに含まれる植物成分が歯周病の予防に効果があると報告がされています。しかしながら、血中シュウ酸(緑茶やホウレンソウ等に多く含まれているもの)濃度が増加するといわれており、尿管結石の発症頻度が増えるなどから、CKD患者には積極的な摂取は推奨されていません。

最後に

薬剤においては、医師より定期処方されているケースでも、例えば体調不良等で過度な脱水状況下で内服継続することで、薬剤性腎機能障害が出現しやすくなることがあります。その理由は、脱水状態ですと腎臓への血液循環量低下から腎機能が悪化し、腎臓から体外へ薬剤の排泄低下をきたすためです。また、のどの渇きを年齢と共に感じにくくなっている高齢者は、夏場等において容易に脱水状態になりやすく注意が必要です。さらには、そもそも腎機能が低下しているCKD患者であれば言うまでもありません。NSAIDsを代表とする鎮痛薬や抗菌薬の内服時には、可能な範囲で水分摂取を心がけることをご提案します。

繰り返しになりますが、サプリメントは「補うこと」という意味であり、過剰摂取せず、お食事からの栄養素の摂取を基本にすることを心がけて頂きたいです。また、サプリメントは製品製造過程の中で添加物が含まれることもあり、腎機能障害のみならず肝機能障害等想定外の健康障害が生じることも、筆者の臨床経験上少なくありません。万一、健康障害をきたした場合の対応としては、まずはサプリメントの中止が原則となります。定期的なサプリメントの摂取をなさる場合は、かかりつけ医等に相談や確認を行うことが必要とも考えます。

参考文献

  • CKD診療テキスト 改定2版 監修:富野康日己 中外医学社
  • Terris MK, Issa MM, Tacker JR. Dietary supplementation with cranberry concentrate tablets may increase the risk of nephrolithiasis. Urology.2001;57:26-9.
  • Schauss AG. Nephrotoxicity and neurotoxicity in humans from organogermanium compounds and germanium dioxide. Biol Trace Elem Res. 1991;29:267-80.
  • 薬剤性腎障害の診療ガイドライン作成委員会,編. 薬剤性腎障害ガイドライン2016. 日腎会誌. 2016;58:477-555
  • 酒井行直. 鶴岡秀一. 薬剤性腎障害:定義,分類,診断. 日腎会誌. 2016;58:1051-4
  • 日本腎臓学会, 他編. 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018. 日腎会誌.2019;61:933-1081

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