同友会メディカルニュース

2022年11月号
動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂されました
~適切な血中脂質管理を目指して~

日本動脈硬化学会が作成している動脈硬化性疾患予防ガイドラインが、5年ぶりに改訂されました。このガイドラインは1997年に「高脂血症診療ガイドライン」として発表されて以来、5年おきに改訂がなされてきましたが、近年では動脈硬化の予防と治療に関連する事項について幅広く検討がなされていることから、名称も「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」と変わっています。

血液中の脂質には、悪玉コレステロールとして有名なLDLコレステロールや善玉コレステロールとして知られるHDLコレステロールなどのコレステロールと中性脂肪(トリグリセライド、TG)等があり、動脈硬化の進展に大きな影響を与えることが知られています。そのため、動脈硬化性疾患予防のガイドラインの中でも脂質関連の指標は大変重要であり、日本の脂質異常を診断する指針として、健診や人間ドックの判定基準を策定する際にも利用されています。

今回のガイドラインで示された脂質異常症の診断基準を表1に示します。表にあるNon-HDLコレステロールとは、総コレステロールからHDLコレステロールを除いたものになります。LDLコレステロールと同様に、悪玉として動脈硬化に関連することから基準値が設けられており、特に中性脂肪が高い時などにはnon HDLで評価したほうが良い場合もあります。

次に主な改訂点を表2にあげます。

改訂の中で予防や診療において影響が大きいものとして、1)のトリグリセライド(中性脂肪)に「随時」の基準値が出来たことがあげられます。表1で示してあるように、随時採血で175mg/dL以上で脂質異常と判断されることになりました。随時というのは空腹でない状況であり、食後でも判断してよいということになります。健診や人間ドックでは空腹で採血を行うことが多いのですが、今後は随時採血した場合の中性脂肪の判定基準も検討されていくと思われます。

空腹時の中性脂肪が高いと、狭心症や心筋梗塞になりやすいことは以前より言われていましたが、最近の研究では随時の値のほうがむしろ心血管イベントを予測する力が強いという報告もなされました。問題は、随時の基準値をいくつにするかですが、今回の175mg/dL以上という値は、欧州心臓病学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)が発表している脂質異常症管理ガイドラインの基準との整合性を考慮したものです。

次に注目したいのは、3)の糖尿病に対するLDLコレステロールの管理目標値です。糖尿病は動脈硬化を促進する非常に強い危険因子であるため、LDLコレステロールの管理をしっかり行う事で動脈硬化の進展の予防に努めることが重要になります。今回は、糖尿病の合併症である末梢動脈疾患や細小血管症が認められる場合や、喫煙ありの場合には100mg/dL未満が目標値となりました。末梢動脈疾患は下肢に行く動脈が細くなることで血行障害を生じ、足の疲労感や痛み、ひどくなると壊死を起こしてしまう病気です。また、細小血管症には、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病神経障害があります。

今回のガイドラインでは「潜在性動脈硬化指標」として、①脳MRI、②頸動脈エコー、③冠CT特に冠動脈石灰化、④脈波伝播速度、⑤心臓足首血管指数、⑥足関節上腕血圧比があげられています。④~⑥は血管年齢検査としてオプション検査で実施されていることが多い検査法です。これらの指標が、動脈硬化の危険因子が多い方々の治療や生活習慣の改善への動機付けに有用であるとされています。

定期的に健診や人間ドックを受けることで脂質異常等の危険因子の状態を管理し、各種検査で動脈硬化の状態を確認することで、将来の心筋梗塞や脳梗塞など重大な疾病の予防につなげていくことが大切です。

〔表1〕 脂質異常症診断基準
LDL コレステロール 140mg/dL以上 高LDL コレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDL コレステロール血症**
HDL コレステロール 40mg/dL未満 低HDL コレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL以上(空腹時採血* 高トリグリセライド血症
175 mg/dL以上(随時採血*
Non-HDL コレステロール 170mg/dL以上 高non-HDL コレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDL コレステロール血症**

*  基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
   空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。

** スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか
   検討し、治療の必要性を考慮する。

  • LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)で計算する(ただし空腹時採血の場合のみ)。または直接法で求める。
  • TGが400mg/dL以上や随時採血の場合はnon-HDL-C(=TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニングでnon-HDL-Cを用いる時は、高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
  • TGの基準値は空腹時採血と随時採血により異なる。
  • HDL-Cは単独では薬物介入の対象とはならない。
〔表2〕 2022年度版ガイドラインの主な改訂点
  1. 随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。
  2. 脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。
  3. 糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、抹消動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。
  4. 二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加し、LDLコレステロールの管理目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDLコレステロールの管理目標値は70mg/dL未満とした。
  5. 近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。
    ①脂質異常症の検査
    ②潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝番速度、
       CAVI:Cardio Ankle Vascular Index、などの現状での意義付)
    ③非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
    ④生活習慣の改善、に飲酒の項を追加
    ⑤健康行動理論に基づく保健指導
    ⑥慢性腎臓病(CKD)のリスク管理
    ⑦続発性脂質異常症

参考文献

  • 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
  • 一般社団法人 日本動脈硬化学会

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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