同友会メディカルニュース

2023年9月号
身近な食物アレルギー(2) 納豆アレルギー

はじめに

2023年2月号では、身近な食物アレルギーのうちお菓子関連として、①パンケーキ症候群(ダニの混入によるアレルギー)と、②赤色色素アレルギー(コチニール色素によるアレルギー)について解説しました。今回は、最近、テレビでも話題になっている「納豆アレルギー」について解説します。納豆アレルギーは、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こす危険性が高い食物アレルギーで、診断が難しい疾患です。

納豆アレルギー

納豆は日本の伝統的な大豆の発酵食品で、大豆と納豆菌から作られます。納豆菌による発酵過程で、「ねばねば成分(粘稠成分)」が産生されます。この「ねばねば成分」は、後ほど詳しく説明しますが「PGA」と呼ばれる物質で、納豆アレルギーの原因と考えられています。納豆アレルギーはユニークな疾患ですので、できるだけわかりやすく解説したいと思います。

納豆アレルギー

遅発型アナフィラキシー

納豆アレルギーには、一般的な食物アレルギーにはみられない独特な特徴があります。通常、食物アレルギーでは原因食物を食べてから数分〜2時間以内に発症します(これを「即時型アレルギー」と呼びます)。しかし、納豆アレルギーの場合、IgE依存性食物アレルギーであるにもかかわらず、多くは「遅発型アナフィラキシー」という臨床像を呈します。具体的には、納豆を摂取してから約半日後(5〜14時間後)に症状が出現します。症状は、ほぼ全例で蕁麻疹や呼吸困難を認め、消化器症状、意識障害を伴うことがあります。意識消失を伴うアナフィラキシーショックの頻度は約70%と高く、重篤な症状を呈することが多いです。摂取から症状出現までの時間が長いため、臨床的に診断することが難しくなっています。夕食に納豆を食べた場合、アレルギー症状は夜間から早朝、翌日の朝食後や昼頃に認めることがあります。また、朝食に納豆を食べた場合、昼食後や夕食後に症状を認めることもあります。食物アレルギーを疑って被疑食物を問診する時、症状発症2時間以内に摂取した食物を第一に想定しますが、約半日前の食事で納豆を摂取したかを確認しなければならず、診断が遅れることがあり注意が必要です。
(ちなみに、IgE依存性食物アレルギーにもかかわらず、食後数時間以上経過してから症状が出現する遅発性に発症する食物アレルギーとして、①納豆アレルギー、②アニサキスアレルギー、③マダニ関連の獣肉アレルギー、の3つが有名です。)

ポリガンマグルタミン酸 PGA

大豆と納豆菌の発酵過程で生じる「ねばねば成分」は「PGA」、「ポリガンマグルタミン酸(poly-γ-glutamic acid, PGA)」(以下、PGAと記載します)と呼ばれ、大豆の発酵中に納豆菌が産生する物質です。納豆アレルギーに関する国内での研究の結果、このPGAが納豆の主要アレルゲンであることが判明しました。納豆アレルギーの患者さんは、PGAに対してアレルギー反応を起こしますが、大豆や納豆菌そのものには通常アレルギーは認めません。PGAの特徴として高分子ポリマーであることが挙げられます。食物アレルゲンは通常、10〜70kDa(ダルトン、質量の単位)のタンパク質ですが、PGAは100〜1000kDa以上もある高分子です。遅発型に発症する理由として、PGAが高分子であるため腸管内で分解され吸収されるまで時間がかかることが一因と推察されています。

クラゲとサーファー

納豆アレルギーの患者さんは、20〜50歳代の男性に多く、生活歴としてマリーンスポーツをする人が多く、特にサーフィンをする人が全体の約80%を占めています。納豆アレルギー患者さんで、中華クラゲを食べてアナフィラキシーを起こしたことがある症例があり、感作経路の研究が進みました。クラゲは標的を刺すときに触角細胞内でPGAを産生します。現在、PGAの感作は、クラゲなどの刺胞動物による刺傷を介して起こると推定されています。サーフィンなど海で活動しているときにクラゲ刺傷を繰り返し、クラゲ由来のPGAに経皮感作された人が、納豆摂取時に納豆由来のPGAと交差反応を起こし、アレルギー症状を発症すると考えられています。

クラゲとサーファー

納豆アレルギーの診断

納豆摂取後に遅発型にアレルギー症状が出現していたら疑います。夜間や早朝に生じた原因不明のアナフィラキシーでは、半日前までさかのぼって納豆摂取の有無を確認します。診断には、納豆を用いた prick-to-prick test (ランセット針など皮膚検査専用の針を用いて、納豆成分を皮膚に刺して局所の皮膚反応をみるアレルギー検査)が有用です。納豆の経口負荷試験は診断に有効ですが、「遅発型アナフィラキシー」のため専門病院での入院検査が必要です(朝9時に経口摂取しても症状発現まで半日かかり、夜間当直帯に重篤な症状が誘発される可能性があり、経口負荷試験やアナフィラキシー対応に慣れている専門病院が安心です)。現時点で、納豆やPGAに対する特異的IgE抗体検査は実用化されていません。また、納豆アレルギーはPGAに対するアレルギーのため、大豆や納豆菌そのものには反応しません。

治療と生活指導

納豆およびPGAを含有する食品や化粧品は避けていただきます。PGA含有製品として、①食品では、出汁・減塩醤油・かまぼこ・ドレッシング・保存剤・甘味料など、②化粧品では、保湿剤など、③医薬品では、ドライマウス用剤・徐放性薬剤の担体(Drug Delivery System, DDS)などがあります。成分表示は統一されてなく、「ポリガンマグルタミン酸、ポリグルタミン酸、納豆菌ガム、γ-PGA、PGA」などと表記されています。また、豆腐などの大豆製品や、納豆菌を用いていない大豆発酵製品(醤油、味噌)にはPGAは含まれていないため、これらの除去は必要ありません。

最後に

納豆アレルギーは日本独特のアレルギー疾患です。通常の食物アレルギーとは異なる特徴があるため、その知識がないと診断が困難です。納豆アレルギーのキーワードは、遅発性、重症、クラゲ、サーフィン、PGA、です。もし原因不明のアナフィラキシーに遭遇したら、「半日前に納豆を食べていないか?」、「サーフィンをしていないか?」などをヒントにして、納豆アレルギーの可能性も想起してみてください。

遠藤 順治

参考文献

  • アレルギー総合ガイドライン 2022 日本アレルギー学会
  • 食物アレルギー診療ガイドライン 2021 日本小児アレルギー学会
  • 食物アレルギーのすべて 2022 診断と治療社 伊藤浩明
  • 成人食物アレルギー 2019 相模原病院 福富友馬
  • 年代別食物アレルギーのすべて 2018 相模原病院 海老澤元宏
  • Allergol Int. 2007; 56: 257-261.
  • Allergol Int. 2018; 67: 341-346.

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