同友会メディカルニュース

2011年2月号
血清抗p53抗体に関する話題

当会では2008年から腫瘍マーカー検査として血清抗p53抗体を追加しました。検診機関における同抗体の検査の意義がある程度分かってきましたので、今回取り上げてみます。

p53遺伝子は癌を抑制する遺伝子として知られています。例えば、この遺伝子を先天的に持っていない人もおられますが、彼らは非常に癌に罹りやすいということが知られているのです。またいろいろな癌の組織を調べると、組織中のp53遺伝子が変異(正常のものと比較して変わっている)していることが多いことも事実です。
細胞というものはある一定の間隔をおいて、分裂して成長してゆきます。その途中で遺伝子に変異が起きることがあり、変異した細胞が上手く排除されないと癌になる場合があります。p53遺伝子が変異すると正常細胞が癌細胞に変わった時に排除されにくくなり、その結果として癌はどんどん成長してゆくという図式が浮かび上がります。

さて、変異したp53遺伝子(図で、赤い丸印)は(正常のものと比較して)性質が変わったp53蛋白を作ります。これは正常のp53蛋白より細胞内に残りやすいと言われています。一方、体内ではいろいろな蛋白質を認識する抗体というものが作られますが、これらを測定することが可能になってきました。正常であればp53蛋白自体は消えてゆくのが早いために、p53蛋白自体を認識する抗体の量も少ないのです。ただ、性質が変わったp53蛋白は細胞内に残りやすいとされ、p53に対する抗体(抗p53抗体)も高値になると考えられています。(図1)

図1

ここで注意しておいてほしいことは抗p53抗体が高いからといって、必ずしも癌組織が体内に存在している訳ではないということです。抗p53抗体は大腸がんなどで早期がんの陽性率が高いと言われてはいますが、他の腫瘍マーカーと同様に疑陽性というものが存在します。ただ一つ面白いことが分かりました。それは同抗体が高かった人のうち、40%程度の方から大腸ポリープが見つかったことです。特に50歳を超すと同抗体高値の方の半分以上で同症と診断されました。(図2)

図2

通常、大腸ポリープがあるかどうかということは便に血液が混ざっているかどうかで類推するのですが、抗体が高値で大腸検査を受けた人のうち、便に血液が混ざっていた人は5%もおられませんでした。つまり、大半の方々は今までの検査では大腸ポリープを見過ごされていたことになります。大腸ポリープは癌に変化しやすいということが分かっており、大腸ポリープが見つかり、かつ、ある程度の大きさであれば切除します。抗p53抗体を測ったことにより大腸癌を未然に防ぐことができたとも言えましょう。

抗p53抗体についてはまだまだ分からないことが数多くあり、高値の方についてはおそらく5年~10年と追跡してゆかなければならないように感じています。ただ、現時点で分かったことを受診者の方々に還元することにより、癌を早期に発見することに努めてゆきたいと思う次第です。

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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