同友会メディカルニュース

2023年1月号
人口動態統計を見てみました。

みなさんは、厚生労働省が毎年公表している“人口動態統計(確定数)の概況”をご覧になったことがあるでしょうか?実は毎月“速報”が数ヶ月遅れで公表されていて、2021年のまとめが1年間の確定数として2022年9月16日に公表されました。今回は2020年と2021年の人口動態統計(確定数)からデータを抜粋してみました。

人口動態調査は、「戸籍法」及び「死産の届出に関する規程」により届けられた出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の全数を対象とした1年間の日本人の事象を客体としています。医療機関としては、死亡数を知ることが、どのような疾患を予防医学の対象とするとより多くの方を救えるかを考えるヒントになるので、注目しています。

まずは少子高齢化の日本で出生数からです。出生数は、2021年811,622人(男415,903人、女395,719人)、2020年840,835人(男430,713 人、女410,122人)、2019年865,239人(男443,430人、女421,809人)でした。なんと明治32年の人口動態調査開始以来出生数は最少となっています。人口の減少は当分止まりそうにありません。

一方死亡数は増加しました。死亡数は、2021年1,439,856人(男738,141人、女701,715人)、2020年1,372,755人(男706,834 人、女665,921人)、2019年1,381,093人(男707,421人、女673672人)でした。死因別に多い順から見てみると、男女合計では悪性新生物<腫瘍>381,505人、心疾患214,710人、老衰152,027人、脳血管疾患104,595人、肺炎73,194人で最近3年間死因別順位は変わりありません。男性は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、肺炎、老衰の順です。女性は悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順でした。

死亡数を減少させるには、もちろん疾患に対する治療法の進歩も重要ですが、悪性新生物は予防と早期発見、心疾患と脳血管疾患は動脈硬化の抑制が重要です。

〔表1〕 年・性別の死因と死亡数、死因順位
総数 男性 女性
死因順位 死亡数 死亡数に占める割合(%) 死因順位 死亡数 死亡数に占める割合(%) 死因順位 死亡数 死亡数に占める割合(%)
全死因 2021 1439856 100 738141 100 701715 100
2020 1372755 100 706834 100 665921 100
2019 1381093 100 707421 100 673672 100
悪性新生物<腫瘍> 2021 (1) 381505 26.5 (1) 222467 30.1 (1) 159038 22.7
2020 (1) 378385 27.6 (1) 220989 31.3 (1) 157396 23.6
2019 (1) 376425 27.3 (1) 220339 31.1 (1) 156086 23.2
心疾患 2021 (2) 214710 14.9 (2) 103700 14 (2) 111010 15.8
2020 (2) 205596 15 (2) 99304 14 (2) 106292 16
2019 (2) 207714 15 (2) 98210 13.9 (2) 109504 16.3
老衰 2021 (3) 152027 10.6 (5) 41286 5.6 (3) 110741 15.8
2020 (3) 132440 9.6 (5) 35779 5.1 (3) 96661 14.5
2019 (3) 121863 8.8 (5) 31722 4.5 (3) 90141 13.4
脳血管疾患 2021 (4) 104595 7.3 (3) 51594 7 (4) 53001 7.6
2020 (4) 102978 7.5 (3) 50390 7.1 (4) 52588 7.9
2019 (4) 106552 7.7 (4) 51768 7.3 (4) 54784 8.1
肺炎 2021 (5) 73194 5.1 (4) 42341 5.7 (5) 30853 4.4
2020 (5) 78450 5.7 (4) 44902 6.4 (5) 33548 5
2019 (5) 95518 6.9 (3) 53076 7.5 (5) 42442 6.3
新型コロナウイルス感染症 2021 16766 1.2 9732 1.3 7034 1
2020 3466 0.3 2094 0.3 1372 0.2
不慮の事故 2021 (7) 38355 2.7 (7) 22026 3 (7) 16329 2.3
2020 (7) 38133 2.8 (7) 21944 3.1 (7) 16189 2.4
2019 (7) 39184 2.8 (7) 22394 3.2 (7) 16790 2.5
自殺 2021 20291 1.4 13508 1.8 6783 1
2020 20243 1.5 13588 1.9 6655 1

悪性新生物による死亡数の男女合計は多い順位に、気管、気管支及び肺の悪性腫瘍(主に肺がん)、大腸の悪性腫瘍(主に大腸がん)、胃の悪性腫瘍(主に胃がん)です。肺がん、大腸がん、胃がんが日本の3大がんです。男性では肺がん、大腸がん、胃がんの順で、女性では大腸がん、肺がん、胃がんの順です。肺がん、大腸がんは男女共に増加し、胃がんは男女共に減少しています。

  • 3大がんについて
    死亡数の多い3大がんについてもう少し解説します。
  • 肺がんは、主に4つの種類のがんがあります。腺がん、大細胞がん、扁平細胞がん、小細胞がんです。その中で喫煙が発癌に大きく関わるのは扁平細胞がんと小細胞がんです。大細胞がんは一番少なく、腺がんが55%と最多で、増加傾向です。日本の喫煙率は年々緩徐に低下していますが、肺がんは年々増加しています。つまり喫煙とあまり関係なく、非喫煙者でも、比較的若い年齢から、喫煙率の低い女性でも罹患する腺がんが増加傾向なのです。肺がんの女性の悪性腫瘍による死亡数は大腸がんに次いで多いのです。4つの肺がんどれも悪性度が高いのですが、その中で一番治癒する可能性が高いのは腺がんです。健診で行う胸部レントゲン写真では、がんの大きさが30mm以上でないと腫瘍として認識できない可能性が高いとされています。胸部CT検査では5mmの大きさから腫瘍の可能性を疑うことができます。胸部CT検査は2回息止めで、痛くもなく数分で終了します。より小さな肺がんの発見には胸部CTが有効です。
  • 大腸がんも男女共に増加しています。大腸がんの多くは、腺腫という良性のポリープから発がんすると言われています。全てのポリープががん化するのではありませんが、腺腫の段階でポリープを切除することは、がんの予防につながります。また大腸がんは治療により治癒させることができる可能性の高いがんで、より早期に発見すれば治癒する可能性はより高くなります。つまりがんによる症状(腸の狭窄、出血による貧血など)が出る前、無症状の段階でがんを見つけることが重要です。まずは大腸がん検診(便潜血検査)が陽性になったら、症状がなくても大腸の検査を受けることが大切です。早期大腸がんの1/3は便潜血陰性、ステージⅡの進行癌の14%は便潜血陰性といわれます。便潜血検査が陰性でも大腸の検査を受けることで、大腸がんの予防、早期発見のチャンスにつながる可能性があります。一度大腸内視鏡検査など大腸検査を受けることをご検討されてはいかがでしょうか。
  • 胃がんは男女共に減少しています。日本の胃がんの99%はピロリ菌という菌が胃の中に感染してがんを発生させています。ピロリ菌は子供の頃2歳未満、遅くとも6歳までに胃の中に入り込んで、居着いてしまいます。大人になってピロリ菌に感染しピロリ菌が居着いてしまうことは少ないとされています。大人になってピロリ菌が胃の中にいなければ、胃がんになる可能性は非常に低くなります。ピロリ菌がいた場合は、除菌といって1週間内服薬を飲むことでピロリ菌を除去することができます。つまり胃がんの予防ができます。
    日本人の1/2にピロリ菌がいると言われていますが、年代により感染率は大きく異なります。高齢になると感染率が高く(70-80%)、10歳代では4%ぐらいです。2013年からピロリ菌の感染した萎縮性胃炎に対して除菌治療が保険適応となり、急速にピロリ菌の除菌が進んでいます。これからもピロリ菌の感染率の低下と共に、胃がんの罹患率の低下が急速に進んでいくことは間違いないと考えます。もちろん既に発生した胃がんを発見することは重要です。まずはご自身がピロリ菌に感染しているのかいないのか確認すること、ピロリ菌に感染している方は除菌を、除菌をした方はより早期の胃がんを発見できる内視鏡検査を受けることをお勧めします。胃がんで亡くなる方をより早く非常に少なくさせることができます。
  • 心疾患、脳血管疾患について
    心疾患、脳血管疾患の原因として動脈硬化が非常に重要です。動脈硬化は、喫煙、脂質異常、高血圧、糖尿病、体質が主な原因となり進行していきます。なるべく早く、長く継続的に動脈硬化の原因となる疾患をコントロールすることで動脈硬化の進行を抑制することができます。それは心疾患、脳血管疾患による死亡数を減少させることになります。動脈硬化の原因となる疾患を発見し、治療につなげることが、健診の大きな目的の一つです。もう一度ご自身の健診結果を見直してみてください。
〔表2〕 悪性新生物の死亡数と順位
総数 男性 女性
死因順位 死亡数 死因順位 死亡数 死因順位 死亡数
悪性新生物<腫瘍> 2021 381505 222467 159038
2020 378385 220989 157396
2019 376425 220339 156086
気管、気管支及び肺の
悪性腫瘍(主に肺がん)
2021 (1) 76212 (1) 53278 (2) 22934
2020 (1) 75585 (1) 53247 (2) 22338
2019 (1) 75394 (1) 53338 (2) 22056
大腸の悪性新生物
(主に大腸がん)
2021 (2) 52418 (2) 28080 (1) 24338
2020 (2) 51788 (3) 27718 (1) 24070
2019 (2) 51420 (3) 27416 (1) 24004
胃の悪性新生物
(主に胃がん)
2021 (3) 41624 (3) 27196 (3) 14428
2020 (3) 42319 (2) 27771 (3) 14548
2019 (3) 42931 (2) 28043 (3) 14888
前立腺 2021 (4) 13217 (3) 13217
乳房 2021 (5) 14908 (4) 105 (5) 14803

新型コロナウイルス感染症による死亡数は、2021年16766人(男9732人、女7034人)で全死亡数の1.2%、2020年3466人(男2094人、女1372人)で全死亡数の0.3%でした。不慮の事故による死亡数は、2021年38355人(男22026人、女16329人)で全死亡数の2.7%、2020年38133人(男21944人、女16189人)で全死亡数の2.8%でした。自殺による死亡数は、2021年20291人(男13508人、女6783人)で全死亡数の1.4%、2020年20243人(男13588人、女6655人)で全死亡数の1.5%でした。みなさんはこの数字を見てどのような感想をお持ちになるでしょうか?

参考文献

  • https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/index.html
  • https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html

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