同友会メディカルニュース

2018年4月号
健康的な食習慣によって腸内環境を整えましょう

1.はじめに

腸内には、私たちの体を構成する細胞数を凌駕する数の細菌が生育しているのをご存じでしょうか?これらの腸内細菌は培養できないものが多く、これまでは私たちの体にどのように影響しているのか解りませんでした。しかし21世紀に入ってからは遺伝子解析方法の急速な進歩により、私たちの体の状態に腸内細菌が大きく影響を及ぼしていて、腸内細菌バランスの乱れ(Dysbiosisと言います)が腸疾患だけでなく、アレルギー性疾患や生活習慣病など様々な疾患や体質に関係している事がわかってきました。

2014年4月号のメディカルニュースでは腸内細菌バランスの乱れが肥満や代謝異常そして心血管疾患の原因となりうる事を書かせて頂きました。今回はその続編として、併せてお読み頂ければと思います。

2.腸内細菌バランスの重要性について

フィンランドやエストニアは近隣国であるロシアに比べて、1型糖尿病(自己免疫による糖尿病)や食物アレルギーが非常に多いことで知られています。そこで、各国の代表的な都市で地理的にも近い3つの都市、ロシアのペトロザヴォーツク、エストニアのタルトゥ、フィンランドのエスポー在住の子供を比較した研究がおこなわれました1)(図1)。3つの都市は地理的に近いだけでなく、民族的にも近いようです(フィンランド民族が主体)。そして、従来言われているように、ペトロザヴォーツク市の子供に比して、エスポー市やタルトゥ市の子供(2歳時点)は、1型糖尿病の原因となる自己抗体の保有率が非常に高く、食物アレルギーも多い結果でした。著者らはこの主因の一つが腸内細菌バランスであると結論づけています。つまり、フィンランドやエストニアは非常に多くの肉類を摂取、ペトロザヴォーツク市の地域では根菜類の摂取が多いなど、食習慣に大きな違いがあり、その結果、3都市間で腸内細菌のバランスに差異が生じるのです(図2)。乳児の腸内細菌は母親の腸内細菌の影響を色濃く受けるため、受け継いだ腸内細菌バランスの違いが、2歳児の免疫反応異常の起こりやすさにも変化を与えていると考えられます。

また、日本人のエネルギー摂取量は昔と比較して増えていないにも関わらず、肥満や脂肪肝の人が増加していることや、糖尿病などの生活習慣病が増加している主原因の一つに食習慣の変化(加工食品や肉類摂取の増加・野菜の摂取減少など)に伴うDysbiosisがあると思われます。

<図1>

ロシア、エストニア、フィンランドの子供を比較した研究

Cell 2016;165:842 図1を改変

<図2>

3都市間の腸内細菌バランスの違い

Cell 2016;165:842 図3を改変

3都市間の腸内細菌バランスの違いの例として、Akkermansia muciniphilaはロシアに比してフィンランドやエストニアでは少ない。Bacteroides doreiはロシアに比してフィンランドやエストニアでは多い。

3.Dysbiosisの予防や改善のために

このように腸内細菌バランスが様々な疾患や体質に強く影響していることが解明されるに従い、有益と思われる腸内細菌を補充するプロバイオティクスの考え方が着目されるようになってきています。実際、様々な効果をうたったプロバイオティクス関連商品がたくさん発売されています。客観的な医学的検証が十分なされているとは言えない状況ですので、その是非を明確に論じることは出来ません。ただし、不十分ながら様々な臨床研究報告から判断すると、“一定の効果は期待できるかもしれない”程度に捉えておいた方が良さそうです。

そのように考える理由として3つの根本的事実があります。まず、「経口投与した細菌株は宿主の腸管に定着する事はない」という原則があります。つまり、プロバイオティクスとして摂取した細菌株は我々の腸内でとどまったり増殖する事はなく、一定期間の後に分解されたり体外に排泄される事となります。次に、「経口投与した細菌株の腸内滞在時間は食習慣などの生活環境に大きく左右される」があります。これは端的に言えば、悪い食習慣の方では摂取したプロバイオティクスが腸内から直ちに排除されやすいという事です。例としてマウスの実験2)ですが、乳酸菌の一種を摂取させたところ、通常の餌では摂取した細菌株が完全に腸内から喪失するのに48時間要した一方で、高脂肪の餌で飼育した場合は24時間の時点でほぼ腸内から喪失していました。つまり、食習慣の問題から生じやすいDysbiosisに対し、プロバイオティクスを摂取するという考え方は、そもそもの食習慣を健全化しないと効果が得られにくい事を意味しています。

3つ目がもっとも重要なポイントですが、「腸内細菌の種類の減少がDysbiosisの本質である」があげられます。腸内細菌は1,000種類以上あり、これらが様々な機能を持って我々の体に働きかけています。Dysbiosisは善玉菌<悪玉菌といった簡単な話ではなく、本来は多様性(たくさんの種類をもっている)が失われる事なのです。多様性が失われる主要因はやはり食習慣です。すなわち、高脂肪食(特に動物性)、食物線維が少ない食事、単一食、加工食品が腸内細菌の種類の減少に大きく影響する事がわかっています3,4)

腸内細菌健全化の側面からも、2015年9月号でお伝えした地中海食がお勧めです。私も2年ほど前から豚肉や牛肉や揚げ物の摂取を極力避け、植物性食品を主体とした地中海食に準じた食生活を徹底しておりますが、体質改善(便通異常や太りやすさなどの改善)や体力がついた事を実感しています。

参考文献:

  • Vatanen T, et al. Variation in Microbiome LPS Immunogenicity Contributes to Autoimmunity in Humans. Cell 2016;165:842
  • Takemura N, et al. Inulin Prolongs Survival of Intragastrically Administered Lactobacillus plantarum No. 14 in the Gut of Mice Fed A High-Fat Diet. J Nutr 2010;140:1963
  • Menni C, et al. Gut microbiome diversity and high- fi bre intake are related to lower long-term weight gain. Int J Obes 2017;41:1099
  • David LA, et al. Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome. Nature 2014;505:559

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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