同友会メディカルニュース

2013年9月号
ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。

ここ数年何かとメディアにも多く取り上げられ、耳にすることも多いヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)。胃がんとの関連が指摘されており、今年2月にピロリ菌に対する除菌治療の保険適用が拡大されました。以前にもこちらのコラムでとりあげたこともありますが、今一度、ピロリ菌と胃がん、除菌治療についてお話したいと思います。

1. 胃がんは感染症?

長く日本人のがん死亡率の男女第一位を占めていた胃がん。近年死亡率は減少してきていますが、2011年時点で男性2位女性3位と、まだまだ患者さんは数多くいらっしゃいます。
1982年胃の中からピロリ菌が発見され、その後2001年にピロリ菌感染と胃がんの発生について報告されました(1)。それはピロリ菌陽性の患者さんからは年0.4%の割合で胃がんが発生するのに対して、まったく感染していない患者さんからは胃がんの発生がみられなかったというものです。その後、胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんではその後の発がん率が、除菌していない患者さんと比較して三分の一に低下したこともわかり(2)、ピロリ菌と胃がんの密接な関係があきらかとなったのです。
今では、肝炎ウイルスによる肝臓がん、ヒトパピローマウイルスによる子宮頚がんなどとならび、現在の日本の胃がんの多くはピロリ菌による感染症と考えられるようになり、除菌治療の重要性がいわれています。

2. ピロリ菌と萎縮性胃炎

ピロリ菌は多くは幼少時に経口感染し、その後長く胃の粘膜に住み着き、何十年かけて胃炎を進行させます。この胃炎は萎縮性胃炎といわれ、胃の幽門(出口)側から粘膜が徐々に炎症によって萎縮し、腸のような上皮(粘膜)に変化してくるものです。このような変化をした胃粘膜からがんが発生しやすくなります。今回このヘリコバクター・ピロリによる胃炎に対して、除菌治療が保険適用になりました。
これは胃がんに対する予防治療といえる画期的なことです。この胃炎の有無の診断には内視鏡検査が重要です。また、除菌治療の保険適用の際にも、除菌治療の前に萎縮性胃炎の有無や程度、すでに腫瘍などが存在しないか確認をする必要があり、内視鏡検査が必須となっています。内視鏡検査でピロリ菌の感染が疑われる場合は、ピロリ菌の検査を血液、尿などでの抗体検査、尿素呼気検査などで調べることができます。
ピロリ菌除菌治療は2種類の抗生物質と胃薬を内服しますが、アレルギーのある方など医師と詳しいご相談をして服用してください。また除菌治療については、一定の割合で抗生物質の効かない耐性菌が報告されており、一次除菌で失敗した場合、抗生物質を変更した二次除菌まで保険治療が認められています。除菌治療が完了したかの確認が重要ですので、医師の指示に従って検査を完遂するようにしてください。

3. ピロリ除菌治療後の注意点

ここまでピロリ除菌の重要性をお話しましたが、除菌後にも定期的な経過観察は必要です。萎縮性胃炎の進行度は年齢や個人差もあり、残念ながら除菌治療後も胃がんの発生をゼロにすることはできません。40-50代までに除菌治療をおこなうと、胃炎に対する効果とその後の発がん率低下もかなり期待できます(3)が、除菌前の胃炎の程度から、発がんリスクの高い方は定期的な内視鏡検査やバリウム検査を継続する必要があります。
また除菌治療後にもわずかながらピロリ菌の再感染の報告(4)もあり、注意が必要です。また除菌後に胃酸が増えることによる逆流性食道炎の発生がみられることもありますが、制酸薬などで対応することが可能ですので、ご相談ください。 健康診断の胃バリウム検査で慢性胃炎と指摘されている場合も、ピロリ菌による慢性胃炎の可能性があります。一度内視鏡検査をご検討いただき、実際に胃粘膜を観察してみることをおすすめします。

内視鏡検査

参考文献:

  • Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, et al; Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer. N Engl J Med. 2001 Sep 13;345(11):784-9.
  • Fukase K, Kato M, Kikuchi S, et al; Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial. Lancet. 2008 Aug 2;372(9636):392-7.
  • ake S, Mizuno M, Ishiki K, et al; Baseline gastric mucosal atrophy is a risk factor associated with the development of gastric cancer after Helicobacter pylori eradication therapy in patients with peptic ulcer diseases. J Gastroenterol. 2007 Jan;42 Suppl 17:21-7.
  • Take S, Mizuno M, Ishiki K, et al; Reinfection rate of Helicobacter pylori after eradication treatment: a long-term prospective study in Japan. J Gastroenterol. 2012 Jun;47(6):641-6.

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