同友会メディカルニュース

2015年3月号
「体を動かすということ」をもう一度考えてみませんか?

運動が健康にいいのは分かってはいるけれど…

身体活動量 (日常生活での活動や運動) を増やすことには、メタボリックシンドロームや心・脳血管疾患、糖尿病、がんといった生活習慣病の発症やそれらに伴う死亡リスク、加齢に伴う生活機能の低下 (ロコモティブ シンドローム*や認知症) の予防効果が認められています。また、気分転換やストレス解消につながり、いわゆるメンタルヘルス不調の一次予防としても有効であり、ストレッチングや筋トレによる腰痛・膝痛の改善、風邪(上気道炎)の予防効果も報告されています(1)。

WHO (世界保健機構) は、高血圧 (13%)、喫煙 (9%)、高血糖 (6%) に次いで、身体活動不足 (6%) を全世界の死亡に対する危険因子の第 4 位と位置づけ、2010 年に「健康のための身体活動に関する国際勧告」を発表し、有酸素運動や筋骨格系の機能低下予防の運動等に対する指針を示しています (2)。

平成25年厚生労働省の「2013年国民健康・栄養調査」の結果によると、日本における運動習慣のある人の割合は、男性33.8%、女性27.2%であり、60代以上では、男女とも30%を超えていますが、30代で男性13.1%、女性12.9%と最も低く、若年世代の健康意識の低さが浮き彫りになっています(図1)。また、一日の平均歩数も、男性が7099歩、女性が6249歩と減少傾向を示し、平成9年と平成21年を比較すると、15歳以上の1日の平均歩数は男女ともに約1,000歩(1日約10分の身体活動に相当)減少しています (3)。

18~64 歳では、強度が3 METs**以上の身体活動を週23 METs・時 (歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分)および強度が 3 METs以上の運動を週4 METs・時 ( 息が弾み汗をかく程度の運動を毎週 60 分) 行うこと、65歳以上では、強度を問わず、身体活動を 週10 METs・時(横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、毎日40分) 行うことが推奨されています (1)。

*ロコモテイブ シンドローム(運動器症候群):筋肉、骨、関節など運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態のこと。

**METs (メッツ):身体活動の強さを表す単位で、座って安静にしている状態を1METsとし、普通歩行が3METsに相当します。国立健康科学研究所のHPに職業や活動ごとに詳細なMETs表が掲載されており(表1)、運動量のメッツに体重(kg)をかけたものが、その運動により消費されるカロリーとなります (4)。

運動習慣のある成人の割合

身体活動のメッツ

全身持久力と病気の関係

運動療法の効果の一つは、ウォーキングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動による「全身持久力(最大酸素摂取量)」の維持、向上です。
基礎疾患のない4,745人の男性を対象に体力測定を行い、全身持久力の低い群から高い群まで4群に分け、14年間追跡比較した研究では、糖尿病や高血圧、がん死亡、総死亡のいずれも全身持久力が高い群ほどリスクが低下する結果となりました。BMIや血圧、家族歴、喫煙や飲酒量で補正しても、「全身持久力の高い群」では、「低い群」に対し44%の糖尿病罹患リスクの低下が認められています。

また、全身持久力が維持・向上した人達では、低下した人達と比較し、糖尿病に罹患するリスクが低下したと報告されています(5)。

糖尿病と運動

Japan Diabetes Complications Study(JDCS)の研究チームは、1996年から2型糖尿病患者1,702人を対象に、アンケートの回答から推計される1週間当たりの余暇身体活動量により3群に分け、追跡調査を行っています。その中間報告によると、開始から平均8.05年で、余暇身体活動量が週15.4METs・時以上の群(毎日40分以上のウォーキング)では、年齢、性別、糖尿病罹病期間の調整後も、週3.7METs・時以下の運動をしない群と比較し、体重の減少・血糖の改善・HDL-コレステロールの上昇が認められ、脳卒中のリスクが45%、全死亡リスクが51%減少しています。身体活動量の多い群では、喫煙率も低く、食物繊維摂取量が多いなど健康志向が高い傾向にありますが、運動療法には、どんな薬物にも勝る脳卒中や死亡のリスク軽減効果があることが示唆されています(6)。

できる事から始めてみる

そうはいっても、仕事、育児や家事が忙しく、なかなか運動の時間が取れない、という方も少なくありません。しかし、416,175人の対象者を、運動量により5群に分け、平均8.05年追跡した台湾の研究では、週に平均92分、あるいは一日平均15分の運動をする少ない運動量(週3.75-7.49METs・時)の群でも、運動しない群(週3.75METs・時未満)と比較し、全死亡率が14%減少し、3年の寿命延長効果が認められています。そして、1日100分までは、15分長くなるごとに、がん死亡率は1%ずつ、全死亡率が4%ずつ低下すると報告されています(7)。

暖かくなり、体を動かすには丁度いい季節となります。万歩計やスマホのアプリなどを上手に利用して、颯爽と風を切り、最初は15分から、いつもより少し速く、そして少し長く、歩いてみませんか?

参考文献:

  • 健康づくりのための身体活動基準 2013 厚生労働省
  • Global Recommendations on Physical Activity for Health. WHO 2010.
  • 平成25年 「国民健康・栄養調査」の結果 厚生労働省
  • 改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」国立健康科学研究所
  • Sawada SS, et al. Cardiorespiratory fitness and the incidence of type 2 diabetes: prospective study of Japanese men. Diabetes Care. 26:2918-22, 2003.
  • Sone H, et al. Leisure-time activity is a significant predictor of stroke ant total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study (JDCS). Diabetologia 56:1021-1030, 2013.
  • Wen CP, et al. Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study. Lancet. 378:1244-53. 2011.

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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