同友会メディカルニュース

2023年7月号
スギ花粉症舌下免疫療法

はじめに

スギ花粉症は今や国民病とも言われる状況であり、スギおよびヒノキ花粉シーズンである1月末~5月にかけては花粉症の3主徴である「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」に加え、眼のかゆみや涙目、耳のかゆみ、のどの違和感、など各種花粉症状に悩まされている人も非常に多いと思います。今年2023年春の花粉シーズンは花粉飛散量も多く大変だったかもしれません。皆さんいかがでしたでしょうか。スギ花粉とヒノキ花粉は交差性があり(つまりよく似ているため)スギ花粉の飛散が終わりヒノキ花粉に入れ替わっても、ヒノキ花粉の飛散が終了するまで症状持続する人が多い状況です。1月末から5月途中まで症状継続するのはそのためです(図1)。2016年度時点での東京都福祉保健局の調査による東京都民のスギ花粉症推定有病率は48.8%(必ずしも治療や対策を有する患者の割合ではなく日常生活に支障がない軽症の方も含んだ有病率)であり、また全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした2019年に行われたアンケート調査では38.8%にスギ花粉症が認められました。近年ではアレルギー患者数は増加傾向にあり、また小児期発症のアレルギー性鼻炎の低年齢化も認めているのが実情です。花粉症の治療としては必要に応じて抗アレルギー薬の内服などを行う対症療法と根治療法である免疫療法(皮下免疫療法および舌下免疫療法)があります。いったん発症してしまうとなかなか根治しづらいスギ花粉症であるため比較的簡便に行うことが出来る根治療法である舌下免疫療法についてより多くのかたに知っていただくことが重要かと考えています。今回はスギ花粉症の治療について、舌下免疫療法に焦点をあててお話してみたいと思います。

〔図1〕 花粉飛沫量と症状の関係

花粉飛沫量と症状の関係

スギ花粉症舌下免疫療法の実際

免疫療法とは

アレルゲン免疫療法とは、「アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲンに暴露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法」と定義されています。舌下免疫療法の場合には、口の中に少量のアレルゲンを投与し、体をアレルゲンに慣らし、症状緩和もしくは治癒に結び付けていく治療法です。現在、国内で行うことができる舌下免疫療法はスギ花粉症とダニアレルギー(ダニアレルギーによる通年性アレルギー性鼻炎)の2種類に対してです。ダニや花粉に対する免疫療法には国内で古くから行われていた皮下免疫療法(注射による免疫療法)と、近年脚光を浴びている舌下免疫療法の二種類がありますが、皮下免疫療法は注射によるもので通院が必須であることに加え、注射による痛みの問題などもあり、継続するには医師・患者ともに大変な状況であり、継続できないケースも多々あるのが実情でした。そこで同じように効果のある事を注射以外で痛みなどの事をクリアし、かつより安全で簡便な方法がないか種々検討され、実際に行われるようになったのが舌下免疫療法です。

スギ花粉症舌下免疫療法のお薬はどんなお薬か(図2)

スギ花粉から抽出したエキスを含む薬で直径1.3センチ・厚さ約4ミリの円形の錠剤です。これを舌の下(舌の裏)に置き、溶けるのを待ちます。1分以内には溶けてなくなります。

〔図2〕 一般的なアレルゲン免疫療法薬について

シダキュアについて

どうやって行うの(図2)

舌の下(舌の裏)にお薬を置き、1分間保持し、唾液とともに飲み込みます。その後5分間はうがいや歯みがき、飲食などは控える必要があります。はじめて行うときは院内で行うことが義務付けられており、翌日以降は自宅で行うことになります。はじめの1週間は少ない量(2000JAU)で行い、8日目(2週目)からは通常量(5000JAU)で行い、3~5年続けることになります。非常に簡単に行うことができますが、長い期間やる必要がありますので根気強く取り組んでいただくことが重要です。

〔図3〕 一般的なアレルゲン免疫療法薬の治療スケジュール

シダキュアの治療スケジュール

いつから(どの時期に)治療開始できるの

スギ・ヒノキ花粉飛散時期に治療開始することはできません。地域差はありますが、一般的に5月末~11月末が治療開始可能時期となります。

どこの医療機関でも処方できるの

舌下薬の処方はどこの医療機関でもできるわけではありません。処方できるのはあらかじめ講習を受けて処方資格を取得している医師のみになります。大学病院や専門病院などでも処方資格のない医師は処方することができません。処方できる医師は全国におり、どこで相談すればよいかは舌下薬を製造・販売している製薬会社のホームページで検索することができます。
https://www.torii-alg.jp/mapsearch/

初診時に舌下免疫療法を開始できるの、検査は必要なの

まず初診時には診察、検査、治療についての説明等を行い、実際に舌下免疫療法を開始できるのは2度目の受診時以降になります。基本的には初診時に舌下免疫療法を開始することはできません。きちんと正確な診断を行うことが重要であり、そのために採血等の検査が必要です。採血でのアレルギー検査は受診して行うこともできますが、健康診断の場で行うことができる場合もあります。当会の健康診断ではオプション検査としてのアレルギー検査(view39)もありますのでぜひご活用いただき、医療機関受診時に持参いただければと思います。なお問診・診察でスギ花粉症であると推測されるも採血では陰性となるケースもあります。その場合は皮膚テストを行うと陽性になることもあります。

通院はどのくらい必要なの

前述の通り初回の舌下免疫療法は院内で行い、30分間の経過観察後に帰宅する形になります。その後は2週後に再診していただき、安定してからは月1回の受診を継続していただくことになります。

どのような人におすすめなの

スギ花粉症であることが正確に診断されているすべての人にこの治療をおすすめしたいと思います。その中でも特におすすめなのは下記のような方々です。

  1. 毎年非常にひどい症状で日常生活が妨げられ困っている人
  2. 中学受験、高校受験、大学受験などを控えていて、少しでも花粉症状に悩まされずに受験できる体制をつくりたい人
  3. 女性ですぐに妊娠の予定や希望はないが、将来的に妊娠した際に花粉シーズンに例年使っている内服薬が使えなくなるのが心配という人
  4. 花粉シーズンに使う各種内服薬で強い眠気が出て困る人
副反応はあるの

実際に比較的多い副反応としては、口の中の腫れ・かゆみ・違和感、口内炎、唇の腫れ、のどの違和感、耳のかゆみ、などで軽微で数日以内に改善するものがほとんどです。これらの症状は実際のスギ花粉症の症状です。スギ花粉症の患者さんに少量でもスギ花粉を投与しているわけですから、舌下免疫療法開始時(低用量)の数日および濃度アップした数日はスギ花粉症の症状が生じるのはやむを得ない状況です。ただ数日で体が慣れて症状消失するのが一般的です。そのほかに非常に稀ですが喘息発作を生じることもあり、その場合は残念ながら継続することが難しいケースもあります(こうなるのは喘息があるのに自覚せず治療していないケースが大半です)。なお重篤な副反応であるショック、アナフィラキシーは幸いにも国内では1例も報告がありませんが、理論上は生じる可能性がゼロではないため、免疫療法を受ける人はショック、アナフィラキシーについての理解をしておくことは必須条件となっています。

保険診療でできるの、そして費用はどれくらいかかるの

2014年から保険診療で治療できるようになり(当初はシダトレンという液剤)、2018年には現在使用している錠剤(シダキュア)に変更になり今に至っています。費用は3割負担の場合で、診察料、薬剤料を合わせて年間24,000円~25,000円くらいとなります。

治療開始するといつから効いてくるの

治療開始すると翌シーズン(治療開始してから初めての花粉シーズン)には一定の症状軽減を認めることも多くあります。ただし、これまでの報告では1年目より2年目、2年目より3年目、と年を重ねるごとに効果が上がってくると言われています。これは体の免疫能が変化し、良い形で体質改善していく結果だと考えられています。体の免疫は非常に複雑であり、そこを良い方向に改善していくのは非常に大変なことです。そのためしっかり長い時間をかけて根気強く治療を継続していただくことが重要です。

最終的な効果は

これまでの経験では症状が全く消えた、大幅に軽減したという人を合わせると80%を超えています。一方で全く効果のない人も数%~10%弱いると言われていますが、きっちり治療継続できたかたはほぼ皆さんが一定の効果はある印象です。症状が全くなくなったという人では、コロナ禍以前だと春の花粉シーズンにマスクを忘れて外出してしまったとご本人が驚いて報告に来られるケースも多々ありました。

治療終了後はいつまで効果が続くの

4~5年継続して治療できた場合、長い間効果が続くと考えられていますし、保険適応になってから治療し一定の効果を認めて終了している人たちは大半のかたで現時点では効果継続しているようです。どれだけ長く効果継続できるかは今後の各年度の花粉飛散量によっても変化する可能性もあると言われています。当面は効果が持続しますが、長年経過した後には再度スギ花粉症の症状が再燃するかたもいらっしゃいます。その場合には、その時点で再度1~2年の舌下免疫療法を行うと、効果が元に戻ると考えられています。基本的には治療終了後には最低でも花粉シーズン中に年1回は受診していただき、診察を受けたうえで効果判定を行っていくことが望ましいと考えています。

この治療ができないのはどんな場合なの

非常に簡便に行うことができ、治療効果も期待できる治療ではありますが、残念ながら下記の人たちはこの治療を行うことができません。

  1. コントロールできていない重症の喘息を合併している人(しっかりコントロールできている喘息の場合は舌下免疫療法を行うことができます)
  2. 重い心臓の病気を合併している人
  3. 妊娠している人(開始時には妊娠しておらず治療中に妊娠した場合は中止せず継続するケースも多くなっています)

また下記の人の場合は治療適応かどうか慎重に検討する必要があり、行うことは難しいケースが多い状況です。

  1. 癌の治療中の人
  2. 膠原病や免疫不全症など免疫系に影響を及ぼす全身性疾患に罹患している人
  3. 免疫抑制剤を投与されている人
  4. ステロイド内服薬もしくはステロイド注射薬での治療を受けている人(皮膚へのステロイド外用薬やステロイド点鼻薬・ステロイド点眼薬は全く問題ありません)

なお、高血圧でβブロッカーという種類の薬を内服している人は、舌下免疫療法を行う場合は他の薬に変更する必要があります。

トマトのアレルギーがある場合は治療できないの

トマトはスギ花粉と交差性がある(つまりはよく似ている抗原である)ため、スギ花粉症の患者さんではトマトを食べると口の症状がでる口腔アレルギー症候群を合併している人も一部でいらっしゃいます。その場合にも注意しつつスギ花粉舌下免疫療法を行うことは可能です。ただし、このようなケースでは注意深く経過をみつつ、状況によっては中止せざるを得ない点もご理解いただき開始するのが望ましいと考えます。

子供は治療できるの、そして効果はどうなの

お子さんでも概ね5歳以上で治療開始できます。お薬を舌下に1分間保持するという理解ができることが大前提となるため、成長発達の度合いで開始できるタイミングは異なってくるのが実情です。スギ花粉症に対する効果は成人同様であることに加え、喘息など他のアレルギー疾患の予防が可能ではないかとも期待されており、いわゆるアレルギーの自然経過を良い方向に変えることが出来るかもしれないとも言われております。

ダニ舌下免疫療法と両方を行うことはできるの

併用して行うことはできますが、両方を同時に開始することはできません。治療開始時はまずはどちらか一方をスタートします。最低でも1か月以上たって安定して経過していることが確認できれば、もう一方を追加し、この時点からは両方を併用していくことになります。現状では国内で行える舌下免疫療法はスギ花粉とダニに対してであるため、両方の症状がある人は併用して治療することもご検討されるとよいかと思います。

最後に

今回はスギ花粉舌下免疫療法についてご説明させていただきました。免疫療法はアレルギーの根治療法となり得る唯一の治療法であり、3~5年は行う必要がありますが比較的簡便に行うことができる治療です。先般5月30日に政府は、今後10年間でスギの人工林の量を2割ほど減らすことにより30年後にはスギ花粉の量を半減させる、という方針を発表しました。もちろん長期的な対策はすべきことですが残念ながらすぐにスギ花粉が減るわけではありません。現実論としてここ数年で花粉飛散量がどうなるかを考えますと、気候温暖化の影響などもあり、比較的多い飛散量が続くことも想定しておかざるを得ないかと思われます。今年のスギ・ヒノキ花粉シーズンにひどい症状でお困りだった皆さんにはぜひスギ花粉舌下免疫療法をご検討頂ければと思います。

横山 宏和

参考文献

  • アレルゲン免疫療法の手引き 日本アレルギー学会 2022
  • 鼻アレルギー診療ガイドライン2020 協和出版
  • 花粉症患者実態調査 東京都福祉保健局 2017
  • 花粉症環境保健マニュアル 環境省 2022

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