2019年2月号
腎性低尿酸血症(RHUC:renal hypouricemia)ご存知ですか?
健診や病院の採血で尿酸値を測定したことのある方は多いと思いますが、尿酸についてご存知でしょうか?生物の細胞の中には、遺伝情報であるDNAとDNAの情報を元にタンパク質を合成するRNAという核酸があります。また細胞の中では摂取したエネルギーをATP(アデノシン3リン酸)という形で蓄え、利用しています。その核酸とATPの構成成分がプリン体※)です。新陳代謝や細胞が壊れた時に核酸からプリン体が血中に出てきます。またATPは細胞のエネルギー源ですから常に生成、分解されていますのでその過程で常にプリン体が血中に出てきます。プリン体が主に肝臓で分解された分解産物が尿酸です。ヒトの体も細胞でできていますので尿酸の元になるプリン体の70-80%は自分自身の体の代謝から、残りが食事から供給されています。プリン体が肝臓で分解された尿酸は1日700mg産生され、500mgは尿として腎臓から、200mgは腸管から排泄されて平衡を保っています。体内にプールされている尿酸は1200mg(健康成人男性)です。
この尿酸は、自分自身からのプリン体供給の増加、食事中のプリン体の増加によるプリン体の代謝産物である尿酸産生の増加や尿からの尿酸排泄の低下により、血清尿酸値が7.0mg/dlを超える(性別年齢を問わず高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン)と高尿酸血症といいます。過剰な尿酸は体内のいろいろなところで結晶化し、関節で炎症を起こして有症状化すると痛風と言われます。高尿酸血症は生活習慣病の一つとして、動脈硬化を進行させる因子の一つとして健診でもよく指摘される疾患です。
一方健診受診時など尿酸値が、正常値を外れ低値の方が時々いらっしゃいます。これまでは尿酸低値でも明らかな症状がないため、また何らかの健康障害のリスクとして認識されていなかったため、健診で尿酸低値の異常を指摘され医療機関を受診しても特に治療もなく“心配ないですよ”とされていたことが多かったと思います。低尿酸血症については、1950年に世界で初めて海外から報告され、本邦では1975年に初めて報告されました。日本人及びユダヤ人に多いとされ、2010年度からは厚生労働省の班研究のテーマになり、その病態について解明が進んできました。主な低尿酸血症の成因には、いくつかの疾患がありますが、(他の疾患に随伴する)二次性・薬剤性でなく、特に症状のない、尿酸値以外に通常の検査異常がない疾患は、腎性低尿酸血症とキサンチン尿症(尿酸産生の酵素が欠損する予後良好な稀な先天性代謝異常で、尿酸産生が低下するため尿中の尿酸は低下します。)です。低尿酸血症のほとんどは腎性低尿酸血症とされています。この腎性低尿酸血症の啓蒙とさらなる病態の解明のため日本痛風・核酸代謝学会の監修で“腎性低尿酸血症診療ガイドライン”1)が、2018年4月に世界で初めて発刊されました。
腎性低尿酸血症は、腎臓からの尿酸排泄亢進による低尿酸血症と定義され、今回のガイドラインで血清尿酸値2.0mg/dl以下が診断の基準値とされました。本邦での頻度は、おおよそ男性0.2%、女性0.4%で女性が男性の2倍、多くはないが稀でもないと言えます。尿酸が腎臓で排泄される際、まず血液中の尿酸は、腎臓でろ過装置である糸球体を通る時にほぼ100%が濾過され原尿となり、その後原尿が近位尿細管という管を通過する時に尿酸輸送体(トランスポーター)の働きで尿酸の多くは再吸収され体内に回収し、約6-10%が尿として排泄されるように調節されています。腎性低尿酸血症では、近位尿細管での尿酸再吸収を担う尿酸輸送体の遺伝子変異で輸送体の機能が低下するため、尿酸の再吸収は低下し、尿中尿酸排泄が増加、血清尿酸値は低下します。輸送体関与する遺伝子変異については現在のところ2種類が同定されています(表1)。
<表1>
腎性低尿酸血症 | 尿酸トランスポーター | 遺伝子座位 |
---|---|---|
RHUC1型 | URAT1/SLC22A12 | 11q13 |
RHUC2型 | GLUT9/SLC2A9 | 4p16-p15.3 |
腎性低尿酸血症は、これまで言われていた通り通常特に症状なく、治療等は必要ありませんが、合併症として1)運動後急性腎障害(EIAKI)と2)尿路結石症の2つの合併症の頻度が多いことが指摘されています。
- 1)運動後急性腎障害
- 腎性低尿酸血症には、強度の強い運動(無酸素運動)で背部痛を伴うが、筋肉の障害時に高くなるクレアチニンキナーゼ(CK)やミオグロビンが上昇しない急性腎障害の合併の頻度が高いとされています。強い無酸素運動(短距離全力疾走、サッカー、筋肉トレーニング、自転車競技など)後(1−48時間)で、背部痛、嘔気嘔吐があり、あまり脱水が強くない非乏尿性(尿は出ている)急性腎障害が起こります。運動前に風邪症状、筋肉痛に対して消炎鎮痛薬(解熱剤)を内服すると発症頻度が多くなると言われています。2週間ほどで改善し、重篤になる例は少ないようですが、症状が軽い場合は本人が気付かず、何度も反復している可能性もあります。腎性低尿酸血症の方は、運動に際して運動前の飲水、消炎鎮痛剤(解熱剤)の内服を避けることは重要です。特に日常的に強度の強い運動を習慣としている方やプロのアスリートの方はより慎重な対応が必要で、専門医で予防的内服薬投与も検討される場合があります。
- 2)尿路結石症
- 腎性低尿酸血症には、尿酸結石やシュウ酸カルシウム結石が形成され合併することが多いとされています。尿管結石症の治療については通常の尿管結石症の治療と変わりありませんが、通常の尿路結石症では比較的頻度の少ない尿酸結石は通常のX線には写りにくいため、診断にはCTが有用とされています。予防としては1日2000ml以上の水分摂取や尿路結石症反復の場合には尿アルカリ化薬の内服により酸性下で結晶化しやすい尿酸を結晶化しにくくすることも選択される場合があります。
腎性低尿酸血症について現在のところ確立された治療指針等はありませんが、患者さん自身がこの病気とその合併症を知ることが重要です。ガイドラインの最後には腎性低尿酸血症のプロ女性総合格闘家山口芽生氏のこのガイドラインに寄せるコメントがついています。
健診等で自分の血清尿酸値が2.0mg/dl以下であれば、一度は尿中尿酸排泄率、尿酸クリアランス(採血と尿検査)、他疾患の否定をしておくことをお勧めします。通常は遺伝子検査を行う必要はありません。一度健診の尿酸値を確認してみてください。
※)プリン体 プリンは分子式C5H4N4で表される5・6員環に窒素原子が4個ついた物質です。このプリンの骨格を持った物質をプリン体と総称しています。生体内にはプリン体が多く、核酸のDNA(4つの塩基が並んで2重らせんに並んでいます)の中の2つの塩基であるアデニン、グアニンはプリン骨格を持つプリン体です。アデニンにリボースが結合してアデノシンになりこの誘導体がATP(アデノシン3リン酸)です。
参考文献
- 日本痛風・核酸代謝学会監修. 腎性低尿酸血症診療ガイドライン. 2017.
同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)
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- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
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- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
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- 大腸がん対策について
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- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
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- 血清抗p53抗体に関する話題
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- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
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食事プラスワン
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- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
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- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
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- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
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- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
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- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
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- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
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- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
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- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
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- 第22回
- 素敵な和菓子
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- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
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- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
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- 第2回
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- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!