同友会メディカルニュース

2011年3月号
減量に最適なカロリーバランスは? ~低炭水化物食は減量に効果的?~

年末年始の影響や寒さのため運動量が減ったりして、この数ヶ月で体重が増えてしまい、これから減量に取り組みたいと考えている(もしくは取り組み中の)方もいらっしゃるのではないでしょうか?ダイエットにはたくさんの方法が考案されていますが、その中でもよく質問を受けます低炭水化物ダイエットを例に挙げて健康的に減量するためにはどうしたら良いかお話していこうと思います。

人間が生きていくのに必要な栄養素はたくさんありますが、その中でエネルギー源(カロリー)となるのが、三大栄養素と言われる「炭水化物(糖質)」、「蛋白質」、「脂質」です。一般的にはカロリーのバランスとして炭水化物55~60%、蛋白質15~20%、脂質20~25%の割合が勧められています。これは“(高炭水化物)低脂肪食”と表現されるバランスです。一方で極力炭水化物を減らす(炭水化物を1日に100g以下に抑える)“低炭水化物(高脂肪)食”を勧めている専門家もいます。適切なカロリーバランスに関しては、専門家の間でも意見が分かれていて結論が出ていないのが実情ですが、ここ数年で数多くの臨床研究が報告されていますので、いくつか紹介致します。

まず、低炭水化物食の方が低脂肪食よりも減量効果が高いとした研究結果を紹介致します。米国肥満女性を対象とした研究(*1)ですが、同程度にカロリー制限を行った場合、どのカロリーバランスの減量効果が高いか検討しています(図1)。超低炭水化物食では他のバランスの食事に比べて減量効果が高かったですが、カロリーバランスを変化させるのは継続に困難が伴うようで、どの群でも元々のカロリーバランス(炭水化物約50%)へ近づいています。男性を主体とした別の研究(*2)でも同様の結果でした。

図1

一方で、超低炭水化物食と低脂肪食では減量効果にほとんど差がなかったとする報告もあります(*3,4)。図2に示しました研究では、超低炭水化物食と低脂肪食とに減量効果に差がなかったばかりでなく、超低炭水化物食では口臭や便秘などの問題が多かったと報告されています。

図2

このように、同程度のカロリー制限を行った場合、超低炭水化物食は減量効果が高いとする結果と低脂肪食と同等という結果とに分かれます。結果が異なる原因の1つとして超低炭水化物食は菓子類や清涼飲料水はもちろん、主食類(ご飯・めん類・パン)や果物などを極力食べないようにしますので、継続困難となる場合が多く結果的に低脂肪食とカロリーバランスに大きな差がなくなってしまう事も考えられます。いずれにしても減量効果の面で言えば、低炭水化物食は低脂肪食と同等かそれ以上の効果が期待できるかもしれないが、決定的な差があるわけではないという事になります。

また、低炭水化物食には様々な懸念があります。まず明らかなものとして、脳に対する悪影響です。脳はエネルギー源として炭水化物のブドウ糖を利用します。このため、低炭水化物食を実施すると集中力低下や仕事の能率低下などを来たす事がわかっていますし、長期的に実施した場合は認知機能を低下させる可能性があります。さらに低炭水化物食は食べる食品を制限しますので、偏食を招きやすいという欠点もあります。

何より重要なのは目先の減量効果ではなく、長期的な健康に利益があるかどうかですが、これについて最近参考になる研究結果が報告されました(*5)。約13万人の食習慣を20年以上調査し、カロリーバランスから死亡率に差があるかどうかを検討しています(図3)。摂取カロリーが同じ場合でも炭水化物摂取率が低くなるに従って、大きな差ではありませんが死亡率が高くなっています。このデータは男性の結果ですが、女性でも同様の結果でした。このように、低炭水化物食は健康面では低脂肪食よりも若干劣る可能性があります。ただし、蛋白質と脂質のとり方によっては結果が異なるようです。すなわち、脂質や蛋白質には動物性由来と植物性由来とに分かれますが、同じ低炭水化物食でもその他のエネルギーを動物性由来で多くとるか植物性由来で多くとるかで結果が異なりました。動物性由来を多くとる低炭水化物食では死亡率がより高くなる一方で、植物性由来を多くとる低炭水化物食では死亡率が低くなりました。以上の事から、低炭水化物食は(蛋白質・脂質を植物性由来中心とするならば)低脂肪食よりも若干有利かもしれません。それでもなお低炭水化物食は脳に対する問題を含めて長期的な安全性や健康面全体に対する優位性が確立していません。さらに、日本人は基本的に主食をしっかり食べる傾向(高炭水化物食)がありますので、欧米人でも困難な低炭水化物食の実施はさらに困難と思われます。

図3

結論ですが、低炭水化物食が優れていると言えず危険性がある以上、今までの食習慣を大きく変えて低炭水化物食にするよりも、多く摂取しているカロリーを減らす、野菜類を増やす、主菜は動物性を減らし植物性を多く、嗜好品はなるべく減らすといった従来の考え方が結局の所、安全で確実です。最後に健康的に減量するために、気を付けたい7つの“あ”についてお話して終わりたいと思います。 気を付けたい7つの“あ”:甘いもの、あまりもの、アルコール、脂っこいもの、朝ご飯を抜く、歩かない、安眠の不足(睡眠不足)

※低炭水化物食には様々な方法があります。代表的なアトキンスダイエットでは、最初の2週間は炭水化物を1日20g以下としその後は徐々に炭水化物量を増やしていく方法ですが、その他の方法でも炭水化物摂取量を1日あたり100g以下に抑える事になります。日本人男性では平均で1日300g近くの炭水化物をとっていますので、1/3以下に抑える事となります。なお、文章中では便宜上“低炭水化物食”と“超低炭水化物食”と分けている部分がありますが、本来の低炭水化物食は“超低炭水化物食”にあたります。

参考文献:

  • *1 Gardner CD. Comparison of the Atkins, Zone, Ornish, and LEARN Diets for Change in Weight and Related Risk Factors Among Overweight Premenopausal Women. JAMA 2007;297:969-977
  • *2 Shai I. Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet. N Engl J Med 2008;359:229-241
  • *3 Frank M. Sacks FM. Comparison of Weight-Loss Diets with Different Compositions of Fat, Protein, and Carbohydrates. N Engl J Med 2009;360:859-873
  • *4 Foster GD. Weight and Metabolic Outcomes After 2 Years on a Low-Carbohydrate Versus Low-Fat Diet. Ann Intern Med 2010;153:147-157
  • *5 Teresa T. Fung TT. Low-Carbohydrate Diets and All-Cause and Cause-Specific Mortality. Ann Intern Med 2010;153:289-298

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