同友会メディカルニュース

2011年12月号
日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?

日本人は長生き・・

誰もが知っていることでしょうが、世界で一流の雑誌(Lancet)に日本人がなぜ世界でもトップクラスの平均寿命を誇るのか、そして健康なのかを論じており、その中で人間ドックのことが紹介されておりました(1)。今月はその論文の詳細について紹介します。

まずは乳幼児が死亡することが少なくなってきたことが大きな要因の一つです。あと、感染症が制御できるようになってきたこと。受診者の方にはよくお話するのですが、戦前の日本では若い人が結核でよく命を失っておりました。最近のテレビ番組で記憶に残っているものは、NHKが年末に放送している「坂の上の雲」。正岡子規が肺結核で喀血しながら壮絶な死をとげたことがドラマ化されていました。第二次世界大戦前、そして戦後しばらくは結核を筆頭にして、いわゆる感染症が健康に害を及ぼすものの主因でした。しかし、抗生物質の発達、普及により感染症はかなり克服されていったのです。

1960年代からは脳卒中が死因のトップに躍り出てきました。読者の中には祖父母もしくはご両親が、朝トイレに立った時に脳出血で亡くなったという経験をお持ちの方は相当数おられるのではないでしょうか?脳出血は高血圧症を有する人に多い病気で、幸い死を免れたにせよ、半身麻痺や言語障害が残る厄介なものでもあります。しかし、薬の効きが良くなり、一日に一回服用すれば済んでしまうものも登場したため、同症の管理がしやすくなりました。食塩の摂取量の調整も重要で、摂取量は1950年代は1日に30グラムでしたが、1980年代には14グラムまで減りました。これらが脳卒中の罹患率の低下につながったと考えられています。1980年代以降は癌による死亡がトップに躍り出、以後死亡原因のトップを独走しています。心筋梗塞は欧米ではかなり多いのですが、なぜか日本人では少ないことが特徴です。この点に関しては後に触れますが、体質的なものではなく、むしろ生活様式(例えばn-3やn-6脂肪酸の摂取状況など)が関与していると考えられています。

イラスト

これらのことに加えて、論文では人間ドックのことをhuman dry dockと記述してあり、長生きに一役買っていることが紹介されています。1500あまりの施設で、年間300万人が利用していると。その内容は以下の通りです。血液検査、尿検査、便検査、X線検査、超音波検査などを行い、病歴や生活様式について医師と話す。検査の後、医師は検査結果を説明し、生活様式に関して助言をする、これが大切だということです。人間ドックは受診者の肥満・高血圧症・高血糖・脂質代謝異常症・高尿酸血症などの危険因子を指摘し、コントロールすることにより、脳血管障害や心血管障害の一次予防を果たしています。また日本人に多い胃がんを筆頭にして、各種の癌を早期の状態で発見することにも重要な役割を演じています。MRIを用いた脳ドック、さらにはPETを用いて小さな癌までを発見しようとしている現実も紹介されていました。45-54歳の男性の70%は(人間ドックを含めて)年に一回健診を受けておられるという現実もあります。

その他の内容で印象的だったのは、日系アメリカ人ではがんや虚血性心疾患の罹患率が増えている事実から、そのような生活習慣病には遺伝的背景よりも生活習慣のほうの関与が高いと考えられること。日本人は食生活の安全性に細心の注意を払う国民性があること、教育水準が高く、健康への興味も深いこと。あと余談ですが、日本人のがんの特徴は他の東アジアの諸国と同様で、ヘリコバクターピロリ菌感染による胃がん(年間31000人が死亡)とC型肝炎ウイルスによる肝臓がん(年間23000人が死亡)が多いことが特徴です。しかし、食生活の欧米化に伴い、罹患する癌の種類も変貌していることはよく知られております。これからは大腸がん、肺がんなどに注意を払うべきかもしれません。喫煙が原因で死亡する人は年間12900人いるとされ、禁煙することで平均寿命は男性で1.9年、女性で1.6年延びるとも報じられております。反面、自殺は大きな問題点の一つであることも述べられています。確かに年間3万人くらいの方は自殺で命を失っており、これは癌で亡くなる方の10分の1程度ですから、大きな問題になりつつあります。

現在の日本人の食生活は従来の日本食と欧米の食環境とが良い具合に融合し合っているので、日本人は長寿であるとも言われています。美味しいものをお腹いっぱい食べたいという欲求は誰しもが持っているはず。肥満はいろいろな生活習慣病の一因にもなります。更に一歩進んで、健康寿命を満喫したいものです。

参考文献:

  • Naru IKEDA, Lancet 378, 1094-1105, 2011

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?~NEW
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!
      ~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2024年10月号
  • 私の健康法
    ゴルフトーナメントプロデューサー 戸張 捷さん
  • 鼠径ヘルニアについて
    順天堂大学医学部附属順天堂医院
    大腸・肛門外科 助教 雨宮 浩太
    ドクターによる健康に役立つ医学情報をご紹介いたします。
  • 糖尿病について考えてみませんか?
  • 自宅でできる足の筋力トレーニング
  • 更年期の女性だけじゃない?「更年期障害」
  • 春日クリニック 特別ドック2024年4月1日フロアリニューアル

ページトップ