同友会メディカルニュース

2021年11月号
花粉症とアレルギー性鼻炎

細菌やウイルスなど、体内に入ってきた異物を「敵」と認識し、攻撃排除する働きを免疫といいます。
アレルギー反応は、花粉やハウスダスト、食べ物などの「敵」ではないものを、「敵(アレルゲン)」と誤認して、免疫反応(IgE抗体の産生)が起こり、その後、再びアレルゲンが侵入して来た際に、アレルギー誘発物質が放出され、粘膜や血管、神経、臓器などに作用して様々な症状を引き起こす免疫機能の故障といえます。このアレルギー反応のうち、急速に全身(多器官)に強い症状が出現するアナフィラキシーについては、2021年10月号でお伝えしました。アレルギー性鼻炎は、「鼻粘膜のⅠ型(即時型)アレルギー疾患で、原則的には発作性反復性のくしゃみ、水性鼻漏、鼻閉を3主徴とする」と定義されています。喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎を高率に合併することも分かっています。

アレルギー性鼻炎は、原因抗原、好発時期、重症度で分類され、好発時期から、季節性アレルギー性鼻炎と通年性アレルギー性鼻炎に大別されます。

1.季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)

季節性アレルギーの多くが花粉症で、目、鼻、口から入ってくる花粉が原因となります。日本では原因となる花粉が約60種類報告されています。春のスギやヒノキだけでなく、初夏のシラカンバ、秋のブタクサやカナムグラなど、地域や季節によって異なり、一年中花粉は飛散しています。

〔図1〕 主な花粉飛散時期

主な花粉飛散時期
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2.通年性アレルギー性鼻炎

季節と関係なく一年を通して続くアレルギー性鼻炎です。アレルゲンは人によって様々ですが、その90%をダニが占め、ハウスダスト、ゴキブリ、ペットの毛、フケなども原因となります。

アレルギー性鼻炎は増えてきている

現在、国内の花粉症は激増、通年性アレルギーは微増しています。

〔図2〕 アレルギー性鼻炎の有病率の推移

アレルギー性鼻炎の有病率の推移

アレルギー性鼻炎の発症には、体質(複数の遺伝要因)と生後の環境要因が関与しています。日本では、全国の森林面積の18%、国土の12%をスギ林が占めており、戦後に拡大造林されたスギが樹齢30年を超えて花粉の生産性が高まり、1970年代後半から「スギ花粉症」が社会問題化しています。地球温暖化も花粉飛散量増加に影響を及ぼしています。日本人の約50%の人がスギ花粉やダニに対しての抗体を保有し、その30~50%の人が発症すると報告されていますが、アレルゲン(スギ花粉)の増加に加え、複数の環境要因の変化が、花粉症の激増を引き起こしていると考えられています。

〔表1〕 アレルギー性鼻炎発症の環境要因
  • アレルゲンの増加
  • 母体、母乳の影響
  • 喫煙
  • 食生活:インスタント食品やスナック菓子(添加物など)、高蛋白食
  • 住環境:排気ガス、アスファルト舗装、黄砂、気密性の高い住居
  • 腸内細菌叢の変化
  • 感染症(結核、寄生虫など)の減少

アレルギー性鼻炎の症状

くしゃみ 鼻粘膜に付着した花粉を取り除こうとして起こる症状。風邪やインフルエンザと比較し回数が多く、頻度も高いです。
水様性鼻汁 「水のよう」にサラサラで透明の鼻水が止まらずに出てきます。
鼻づまり 鼻粘膜が腫れて、鼻からのどへの通り道が狭くなりおこります。口呼吸となり、口の渇き、咳、匂いや味が感じにくくなります。

また、眼症状(目のかゆみ 涙や目の充血)、皮膚症状(かゆみ)、頭痛、熱っぽさ、倦怠感や睡眠障害も高率に合併し、日常生活や仕事に与える影響から経済損失も大きいとされています。

アレルギー性鼻炎の治療法

1.アレルゲンの除去と回避(通年性アレルギー・ダニ対策については、メディカルニュース2019年4月号をご覧下さい)

眼鏡やサングラス、マスク、帽子、ツルツルとした衣服を着用し、花粉の付着を防ぎましょう。花粉症用のマスクでは吸い込む花粉量を約1/6~1/3(高性能の不織布マスクを正しく着用すれば5%以下)に、眼鏡使用で目に入る花粉量は約60%、花粉症用眼鏡では約35%に減少することが分かっています。屋内に花粉を入れないように、玄関に入る前に花粉を払い、鼻をかむ、うがい・手洗い・シャワー(洗顔、洗髪)を行いましょう。

スギ花粉の場合、飛散開始後7~10日後くらいから飛散量が増加し、その後約4週間程度花粉の多い時期が続きます。14時頃をピークに日中~夕方にかけ花粉は飛散します。晴れて気温の高い日、雨の翌日、乾燥して風の強い日に飛散量は増加します。花粉飛散情報や予報を外出や旅行の計画にお役立て下さい。

花粉ナビ https://s.n-kishou.co.jp/w/charge/kafun/kafun_season.html

2.薬物療法

ガイドラインに基づき症状や重症度に合わせて、第二世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などの内服薬や点鼻薬、点眼薬、そして鼻噴霧用ステロイド薬、生物学的製剤(抗IgE抗体)などを組み合わせて治療が行われます(表2)。

くしゃみ、鼻汁が主体の鼻症状の場合は、第二世代抗ヒスタミン薬、化学伝達物質遊離抑制薬が、鼻づまりが症状の主体である場合には抗ロイコトリエン薬や鼻噴霧用ステロイド薬がよい適応となります。より鼻づまりが強い場合には期間を限定し点鼻用血管収縮薬、また重症・最重症・難治例には経口ステロイド薬の短期間使用や生物学的製剤のオマリズマブ使用も検討されます。

薬剤によっては、1~2週間の連用で症状の改善率が上昇することが分かっています。重症者は、症状が強く、症状発現時期も早いため、花粉の飛散開始予測日の1週間前から、軽症でも症状発現直後からの治療開始が重要です。また、妊娠中は、アレルギー症状が悪化することがありますが、胎児への影響を考慮し、妊娠4ヶ月半ばまでは、原則として薬物療法は避け、入浴、蒸しタオル、温熱療法などを行います。

〔表2〕 アレルギー性鼻炎治療薬
経口薬 外用薬 注射
  • ケミカルメディエーター遊離抑制薬
  • ケミカルメディエーター受容体拮抗薬
    • 第2世代抗ヒスタミン薬
    • 抗ロイコトリエン受容体拮抗薬
    • プロスタグランジンD・トロンボキサンA1受容体拮抗薬
  • Th2サイトカイン阻害薬
  • ステロイド薬
  • 漢方薬(小柴胡湯)
  • ステロイド鼻噴霧薬
    (点鼻用血管収縮薬)
  • ステロイド点眼薬
  • 点眼用抗ヒスタミン薬
抗IgE抗体
3.アレルゲン免疫療法(スギ、ダニ)

アレルゲンを体内に取り込み、異なる免疫反応を利用しアレルギー反応をブロックすることを目的としています。70~80%に有効で、現在、臨床的治癒、長期の寛解や薬物使用量の減少、気管支喘息の発症予防や改善効果が期待できる唯一の方法とされています。即効性がなく効果発現まで2~3ヶ月かかること、治療に3~5年の長期間かかること、効果のない患者さんがいること(効果予測因子は解明されていません)、安価ではないことが課題です。皮下注射と内服の2種類の投与方法があり、投与するアレルゲンの濃度は低いものから始め、徐々に高いものにしていきます。アレルギーやアナフィラキシー対応のため、投与後30分間の経過観察を行います。スギ花粉症の場合、花粉が飛散していない6~12月に開始します。

  • 皮下免疫療法(SCIT:subcutaneous immunotherapy):週1回の皮下注射から始めて4~6ヵ月、以降は1~2ヵ月に1度通院し、最低2年、3年以上の継続治療を行います。スギとダニの同時治療が可能ですが、まれに蕁麻疹、顔面浮腫、アナフィラキシーショック(250万回に1回)などの副反応を起こすことがあります。
  • 舌下免疫療法(SLIT :sublingual immunotherapy):毎日アレルゲンエキス舌下錠を1錠服用し、2ヵ月目以降は、月に1度通院し、3~5年の継続治療を行います。SCITと比べ、アナフィラキシーを起こす確率が低くなっていますが、アレルギー症状の他、口腔内の腫れやかゆみなどの副作用があります。自宅で投与可能ですが、医師の指導の下、家族などがいる時に内服を行います。全く症状のない時期も連日投与が必要です。

3.手術療法

重症・最重症で鼻閉が強く鼻腔形態異常を伴う場合には、症状緩和目的にレーザーや高周波ラジオ波治療を行うこともあります。レーザーは鼻腔粘膜の表面を焼いてアレルギー反応がおこる場を減らします。花粉飛散1ヶ月前までに、月1回、1~3回行いますが、翌シーズンまでの有効性は確認されていません。内視鏡下鼻腔形態改善手術(粘膜、骨・軟骨切除による鼻閉改善手術)、鼻漏改善手術(神経切断による鼻漏分泌の抑制)などの手術も、受験・出産などの社会的背景にあわせて行うこともあります。

花粉症のもたらす影響

花粉症は、その症状により仕事の能率やQOL(生活の質)の低下を来たします。患者の79%が「仕事のコンディションへの影響がある」と回答し、1日のうち約2.8時間仕事のパフォーマンスが低下していると感じ、その経済損失は1日当たり約2,215億円と推計されています(パナソニック調べ)。また、1~3月に外出を控える事による家計消費の減少は約5,691億円 (第一生命経済研究所調べ)、花粉症への支出は、平均月3,323円(ウェザーニューズ調べ)、花粉症対策の時間(鼻をかむ、薬やマスクの購入、考える)は1日1時間、睡眠時間は、1時間20分短縮、44.2%が睡眠の質の低下を自覚している(グラクソ・スミスクライン調べ)との報告もあります。

もはや国民病とも言うべき花粉症ですが、2022年春のスギ花粉飛散予測は、九州や東海、北陸では例年並み、中国、四国、近畿では例年より少ない一方、関東甲信や東北は例年よりやや多く、北海道は例年より非常に多い見込み(日本気象協会2021年10月05日発表)となっています。新型コロナウイルス感染症の患者数も減少傾向となり、3年ぶりに外出の出来る花粉シーズンの到来となるかもしれません。2022年の花粉シーズンを上手に乗り切れるよう、花粉飛散前から準備や治療を行ってみてはいかがでしょうか。

参考文献

  • 一般社団法人日本アレルギー学会 患者さんに接する施設の方々のためのアレルギー疾患の手引き 2020年改訂版:24-31
  • 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版
  • 一般社団法人日本アレルギー学会 スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(改訂版)
  • 環境省 花粉症環境保健マニュアル2019

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