同友会メディカルニュース

2020年6月号
騒音性難聴・音響性難聴(音響外傷)

耳を酷使していませんか?

新型コロナウイルスの影響で自粛生活を行う中、テレビやゲーム・オーディオ機器を使用する機会が多くなり、無意識に耳を酷使しているかもしれません。

今回は少し耳に関するお話をさせていただきたいと思います。

聞こえの仕組みと難聴を起こすメカニズム

耳は音を集めて鼓膜まで伝える外耳・音を増幅する中耳・内耳から成り立っています。
内耳の蝸牛にある有毛細胞の先端にある聴毛で音の振動を電気信号に変換し、脳に伝わることで聞こえるようになります。

この聴毛は非常に繊細なので大きな音(=大きな振動)に長時間さらされると、音の大きさと聞いている時間に比例して抜け落ちたり、傷ついたりして音の振動を捉えることが出来なくなり、その結果音が聞こえなくなることがあります(感音難聴)。

有毛細胞の損傷が激しくなければ、耳栓を使う・定期的に耳を休めるなど耳の安静を図ることで症状は回復しますが、一度傷ついた聴毛や有毛細胞が再生することはありませんので損傷が激しい場合は聴力が戻らないことがあります。

特にヘッドホンは耳の中に直接音が入るため、注意が必要です。

耳の構造と難聴の種類

耳の構造と難聴の種類

外耳、中耳に原因のある伝音(でんおん)難聴
内耳、蝸牛神経、脳に原因のある感音(かんおん)難聴
伝音難聴と感音難聴の2つが合併した混合(こんごう)性難聴

有毛細胞の走査電子顕微鏡像

有毛細胞の走査電子顕微鏡像

防衛医科大学校 耳鼻咽喉科学講座 水足邦雄先生提供

「騒音性難聴」や「音響性難聴(音響外傷)」

音にさらされることに関連した難聴には「騒音性難聴」や「音響性難聴(音響外傷)」があります。騒音性難聴は主に工場の機械音や工事音などの騒音にさらされることで起こり、音響性難聴は主に爆発音やライブ会場などで大音響にさらされることなどによって起こります。

WHO(世界保健機関)は2015年2月に世界では3億6000万人が日常生活に支障が出る聴力障害を抱えており2050年までに12~35 歳のおよそ50%にあたる11億人がヘッドホンで大きな音を聞き続けることによって起こる音響性難聴((ヘッドホン難聴(イヤホン難聴))のリスクにさらされていると警鐘を鳴らしました。また同警鐘では同様に約40%が娯楽施設で危険レベルの音響にさらされているともしています。

2018年10月にWHO欧州支部は、レジャー活動に参加することでさらされる騒音に対して難聴のリスク回避のために、70dB(デシベル)という基準を設けてそのレベルを超えないための措置を講ずることを推奨しました。dBとは音の大きさを表す単位で、70dBというと1mの距離の相手と大声で会話が成り立つレベルの騒音ですから、隣の人の声が確認できないほどの大音量にさらされると難聴のリスクが高まるということを示しています。

予防のために

WHOでは音楽を聴くには80dBで週に40時間まで・98dBで週に75分までが限度という指針を示しています。80dBはトラックの走行音ぐらいになります。これぐらいが限度ということですから、なるべく小さい音量で長時間聞き続けないようにすることが大切です。

ヘッドホンで音楽を楽しむ時の音量に関してですが、例えばヘッドホンをしたままでも会話が聞き取れるくらいの音量なら、ほぼリスクがないと言われる65dB程度です。ヘッドホンの最大出力は概ね100-120dBくらいですから、60%以下の音量に設定するのが良いかもしれません。一方で、地下鉄車内の騒音は100dB程度ですので通常のヘッドホンで周りの音を気にせず音楽を楽しんでいるとしたら、音漏れの有無に関わらずその音量は100dBを超えている可能性が非常に高いと考えられます。このような場合は周囲の騒音を低減するノイズキャンセリング機能がついたヘッドホンを使用するとより小さい音量で音楽を楽しむことが出来ます。ヘッドホン難聴は、ゆっくりと進行し少しずつ両耳の聞こえが悪くなっていくため、初期には難聴を自覚しにくいことが特徴です。他の症状として、耳が詰まった感じ(耳閉感)や耳鳴りを伴う場合がありますのでそのような耳の違和感に気づいたら耳を休めると共に早めに耳鼻科に受診することが大切です。

騒音性難聴や音響性難聴は聴覚の最も敏感な4000Hz付近の聴力から低下し始めることが報告されています。健康診断・人間ドックで行う聴力検査のうち、選別聴力検査では左右各耳について1000Hz(低音域) 30dB、4000Hz(高音域) 40dBの音を聞き、検査音が聴取可能か調べていますから、こういった機会に定期的に聴力の確認を行うのも良いかもしれません。加齢とともに高音域が聞こえにくくなることはよく知られていますが、一方でアフリカのスーダンに住むマバーン族の人々は80歳になっても20代の聴力を有しているという報告があります。彼らは大きな音を立てることを好まず、非常に静かな生活を送っていると言われていますから、様々な音に囲まれて過ごす私たちも少し耳の健康に意識を向けてみてはいかがでしょうか。

WHOが定める1日あたりの音圧レベルの許容基準と、目安となる音の種類
音圧レベル
(dBSPL)
一日あたりの許容基準 音の種類
130 1秒未満 航空機の離陸の音
125 3秒
120 9秒 救急車や消防車のサイレン
110 28秒 コンサート会場
105 4分 工事用の重機
100 15分 ドライヤー
地下鉄車内の騒音
95 47分 オートバイ
90 2時間30分 芝刈り機
85 8時間 街頭騒音
75 リスクなし 掃除機
70 洗濯機、乾燥機
65 エアコン
60 ヘッドホンでの適度の音量設定

一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会HPを引用

参考文献

  • WHO 1.1billion people at risk of hearing loss 2015.
  • WHO Safe Listening Devices and Systems 2019.
  • 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
  • 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会ホームページ
  • ENVIRONMENTAL NOISE GUIDELINES for the European Region(2018)
  • 岩宮 眞一郎:図解入門よくわかる最新音響の基本と仕組み, 秀和システム, (2007)

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