2019年11月号
C型肝炎の治療が大きく変わりました
メディカルニュース2014年6月号 世界肝炎デーご存知ですか?でウイルス性肝炎についてご案内しました。それから5年間でC型肝炎の治療は劇的に進歩しました。それに伴い2019年6月に日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン(第7版)1)が発表されました。
C型肝炎ウイルス(HCV)は、血液、体液を介してヒトの体内に侵入し、肝臓(肝細胞)の中で増殖します。肝細胞の中で増殖したHCVは肝細胞から放出され血中を流れていき、HCV未感染の肝細胞に感染していきます。HCVの感染した肝細胞は、生体にとって排除すべき異物としてヒトの免疫機構(細胞性免疫等)に認識され、免疫機構が攻撃し、HCVに感染した肝細胞は壊死していきます。HCVの感染した肝細胞にはヒトの免疫機構の反応があまり強く起こらないため、ヒトの本来の免疫機構のみではHCVを完全に排除できずHCVが持続的に感染して、少しずつ肝細胞が壊死していく状況や肝細胞の壊死がほとんど起こらず肝機能検査ではほぼ正常の状態が続きます。急性の感染で治癒する(HCVが排除される)のは30%で、70%はHCVが持続感染、慢性肝炎となり炎症が継続します。持続感染したHCVが治療なしで自然に排除される率は年率0.2%で稀です。慢性肝炎の患者さんの30-40%は肝細胞の壊死と線維化が進んで約20年で肝硬変となり、肝硬変の患者さんは年約7%で肝癌が合併します。HCVは感染しても多くは自覚症状が乏しく、ご本人は感染を自覚することなく慢性肝炎が進行していきます。
C型肝炎の治療は、体内からHCV を排除して、肝炎の沈静化、肝繊維化(肝の炎症による肝硬変への進行)の抑制、肝癌発生の抑止をすることです。治療により血液中のHCVウイルス(HCV RNA)を持続陰性化(sustained virological response ; SVR)させることが第一の治療目標です。
インターフェロンによるC型肝炎の治療が日本では1992年から始まりました。インターフェロンは、ヒトにウイルスが感染した時にウイルスの感染した細胞で産生される、ウイルス増殖抑制効果や細胞性免疫を誘導する作用があるタンパク質で、感染したウイルスや腫瘍細胞を排除するための防御に関わっています(正常細胞でもわずかに産生されています)。インターフェロン治療は、遺伝子組み換えや細胞培養のバイオ技術を駆使して薬剤として製造したインターフェロンを投与し、元来の生体内インターフェロンのウイルス排除作用を強化する治療です。インターフェロンの改良や作用を増強する薬剤の併用など開発されましたが、高率な副作用出現や十分でないSVR率など治療効果は十分ではありませんでした。
C-E1-E2p7は構造蛋白、NS2からNS5Bは非構造蛋白
C型肝炎治療ガイドライン(第7版)より
2011年11月から直接HCVに作用する直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral ; DAA)が開発されインターフェロンとの併用治療が行われました。DAAの理解のため少しHCVの増殖について説明します。HCVは、一本鎖RNAウイルスで、約9600塩基対からなり、このRNAに約3000のアミノ酸がコードされています。肝細胞に感染したHCVは肝細胞内でそのRNA情報からアミノ酸の紐を作り、アミノ酸の紐が切断されHCVウイルス粒子を構成する構造蛋白質とウイルス粒子に含まれない非構造(NS)蛋白質になります。HCVが増殖するためには肝細胞内でこのアミノ酸の紐が作られる必要があります。非構造蛋白質部分はNS2〜NS5Bに分けられています(図1)。非構造部分はHCVが増殖するために必要な蛋白質(酵素など)です。NS3-4A(プロテアーゼ活性)という部分を阻害する薬がはじめに開発されたDAAですが、インターフェロンとの併用でも依然としてその効果は十分ではありませんでした。DAAの開発が進み2014年9月にインターフェロンと併用しないインターフェロンフリー治療が始まりました。その後NS5A(ウイルスゲノム複製複合体形成機能)、NS5( RNA依存性RNAポリメラーゼ活性)を阻害するDAAが次々開発されました。そしてついに非常に高い効果が認められ、副作用が少なく、安全性が高く、治療期間の短い優れたDAAが2017年11月に発売になりました。NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬グレカプレビル/NS5A阻害薬ピブレンタスビルの配合剤であるマヴィレットという薬です。HCVには1型〜6型まで6種類のゲノタイプという種類があり、日本ではゲノタイプ1と2型で全体の97%を占めると言われています。この薬は全てのゲノタイプに効果がある薬です。C型非代償性肝硬変(肝硬変が進行した状態、Child-Pugh分類C)以外のHCV慢性肝炎、肝硬変の患者さんに治療適応があります。薬剤投与終了後12週後のウイルス学的著効率(SVR12)達成率は、DAA未治療のゲノタイプ1、2慢性C型肝炎で99%、これまで他のDAA治療が無効だった患者さんでも93.9%と非常に高いです。腎機能障害などの重篤な副作用もほとんどなく、これまでのDAAでは副作用などで投与できなかった患者さんにも投与できる場合が多いです。以上の進歩を受けグレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)を主な推奨治療としてC型肝炎治療ガイドライン(第7版)に記載されました。
治療期間が8週あるいは12週で短期間になり、非常に高率にC型肝炎ウイルスの排除が可能になりましたが、その薬の価格は1錠24,210.4円、8週投与で4,067,347円、12週投与では6,101,020円と非常に高額です。B型・C型肝炎では医療費助成制度があり、今回のインターフェロンフリー治療も助成対象になっています。世帯の市町村民税課税年額に応じ、自己負担限度額月額は原則1万円(上位所得階層は2万円)で治療を受けることができます2)。
HCV感染の患者さんの治療でウイルスの排除についで重要なのは肝がん(肝細胞がん)の抑制です。高発がんリスク群(高齢かつ肝線維化進展例)は、可及的速やかに抗ウイルス治療を導入することが今回のガイドラインでは推奨されています。HCVの感染があっても肝臓に炎症や線維化のない正常肝からは、肝細胞がんの発がんはほとんど認められないとされていますが、低発がんリスク群(非高齢かつ非線維化進展例)でも安全かつ効果的、短期間になったインターフェロンフリーDDAによる抗ウイルス治療を図るべきと明言されています。
インターフェロンによりHCVが排除されると肝発がんリスクは低下することは示されています。インターフェロンフリーDDAによる治療はまだ治療開始からの期間が短いのですが、少なくともインターフェロン治療後と同等の新規発がん抑制効果があるとされています。
グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠の登場で、近い将来C型肝炎とC型肝炎感染の肝細胞がんの撲滅の達成が見えてきたと言えます。まずはHCVの感染の有無を知ること、HCV抗体検査を受けることが重要です。HCV抗体陽性の場合は、過去に感染して治癒した場合と現在もHCV感染している場合があります。同友会春日クリニックでは、C型肝炎ウイルス抗体検査で陽性の方に対し、C型肝炎ウイルス(HCV RNA)の検査(血液中のHCVウイルスを検出する検査)を行い、HCV RNAが確認された方に対しては、医療連携を行っている専門病院をご紹介させていただきます。肝機能検査(AST, ALT等)が正常でもHCVが感染している可能性はあります。日本には約100万人のHCV感染者がいると言われています。ぜひ一度ご自身のC型肝炎ウイルス抗体の検査の有無と検査結果をご確認いただき、万一陽性の場合は、外来を受診されご相談ください。
参考文献
- 日本肝臓学会 肝炎治療ガイドライン作成委員会. C型肝炎治療ガイドライン(第7版) 2019年6月
- https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/080328_josei.html
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- 高LDL-C血症(俗にいう悪玉コレステロール)について
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- 乳房超音波検査で乳がん発見率の向上を
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- 「胆管がん」ってどんな病気?
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- 地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう
- 乳がん検診を受けましょう!
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- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
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- 進歩する内視鏡検査
- 高血圧について
- 甘く見てはいけないインフルエンザ
- リンパ球と癌の関係
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- 睡眠時無呼吸症候群:いびきだけではない危険な病気
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- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
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- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
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- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
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食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
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- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
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- 「お料理」のススメ
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- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
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- 『デンタルケアから始める健康管理』
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- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
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- 第17回
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- 第16回
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- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!