2022年10月号
浮腫(ふしゅ)について
1.はじめに
最近コロナ禍でステイホームの時間が多く、足がむくみやすかったりしませんか。今回は、多くの方が経験したことのあるむくみ、医学用語での「浮腫(ふしゅ)」についてお話ししたいと思います。自覚症状として出やすい浮腫ですが、慢性的に浮腫が続く場合は、病気が隠れている可能性を考慮しなくてはなりません。同時に、浮腫は医師が病気を診断(鑑別)していく中で、診察時に非常に大切にしている、身体的症状(所見)でもあります。
2.浮腫とは
定義ですが、我々人間の体液の60%は細胞外液として存在し、そのうち25%が血管内、75%が間質に分布しています。間質に水分が増加した際に見られるのが「浮腫」です(図1)。患者様は、「顔が腫れぼったい」、「体重が増えた」、「むこうずねを押すとへこんだままになる」等と訴えることが多いです。また、浮腫を主訴として外来受診する患者様の頻度は、3~5%程度と報告している教科書もあります。しかしながら、筆者の実感としては、ややご高齢向けの健康診断や外来診療を行っていることも影響はあると思いますが、もう少し頻度は高いと考えています。
参考文献4より引用改変
3.浮腫はなぜ起こる(機序)
上述でも記載しましたが、間質に水分が増加したのが「浮腫」です。機序は、以下の3つが主な原因と考えられています(表1)。一つ目は、毛細血管圧上昇です。これは、心疾患で血液を全身に送り出すことが難しい状況や、腎疾患で体液の排泄低下が起こる状況により、血管に体液が貯留する傾向になります。そのため、血管内の圧が上昇し、血管内から間質に水が移動・増加し、浮腫をきたします。二つ目は、血管内膠質浸透圧の低下です。腎疾患により腎臓からアルブミンが体外へ漏出したり、肝疾患によりアルブミンの合成能力が低下することにより、血管内のアルブミンが減少し膠質浸透圧が低下(アルブミンは血管内に水をため込む力:浸透圧の形成に必要です)します。その結果、血管内から間質に水が移動・増加し、浮腫をきたします。三つめは、血管透過性の亢進です。アレルギー反応等で炎症が生じ、血管内から間質に水が移動しやすくなり、浮腫になります。
ここで、再度コロナ禍により浮腫が起きやすい原因を考えてみましょう。通勤やランチに出かけたりする機会が減り、同じ姿勢(座った状態)の時間が増えるため、腰や膝の関節を屈曲した(曲げたままの)状態が持続し、足の筋肉を使用しない時間が増えていると考えられます。足の筋肉が収縮しないため、筋肉内の血管が圧迫される時間が減り、足の血管から心臓に体液(主に血液)が戻りにくくなります。その結果、間質に水が移動し下腿に浮腫を認めます。これは、下肢筋肉ポンプ機能の低下ともいわれており、病気ではなく健常者でも出現しうる浮腫の原因の一つです。
- 1.毛細血管圧上昇
- 心疾患、腎疾患(腎不全やネフローゼ症候群)、肝疾患、血管拡張性降圧薬
- 2.血管内膠質浸透圧の低下
- 腎疾患、肝疾患
- 3.血管透過性亢進
- アレルギー反応、敗血症、熱傷
- 4.その他
- 下肢筋肉ポンプ機能低下
4.浮腫の原因を調べていくには
臨床現場では、下記浮腫の問診(表2)、浮腫の性状(表3)を確認し、そのうえで検査を行いながら浮腫の精査・鑑別を行っていきます。
特に、浮腫の分布(全身性なのか局所性なのか)と圧痕を伴うものか圧痕を伴わない浮腫なのか、これらの確認が精査・鑑別を進めていく中でとても重要になります。
分布 | 全身性か局所性か?夕方か立位で悪化するか?Pitting-edemaとNon-pitting edemaか? |
---|---|
経過 | いつから?出現の左右差は?周期性は? |
体重増加の有無 | どのくらいの期間で何Kg増加? |
既往歴 | 心臓病、腎臓病、肝臓病、甲状腺疾患、悪性腫瘍、手術歴(乳がんなど)、放射線治療歴 |
内服薬剤 | 解熱鎮痛薬、降圧薬、ステロイド薬、漢方薬 |
随伴症状 | 呼吸苦、全身倦怠感、消化器症状、皮膚症状、下肢熱感 |
アレルギー | アレルギー歴 |
その他 | 月経周期との関連、妊娠の有無 |
- Pitting edema
浮腫のある部位を手指で圧迫し圧痕が残る - Non-pitting edema
圧痕が残らない、速やかに回復する
5.浮腫の病的意義(浮腫が続いたらどうすればよいか)
今回のメディカルニュースでは、よく経験し身近な症状である浮腫を取り上げました。今回はよく大学の授業や教科書に記載されている、Na等の電解質といった用語の使用を極力避け、あえて簡潔にお話ししました。やや極端に説明していることをご了承ください。お伝えしたかったことは、浮腫は健常者においても高頻度に経験する症状ですが、一方で、病気を患っている方の症状の場合もあります。浮腫の症状が持続する場合や強い場合、または随伴症状(浮腫以外の他の症状)も伴っている場合は、一度かかりつけ医や内科医に受診し相談してみましょう。また、定期的な健康診断や人間ドックの受診は、浮腫をきたす病気の早期発見につながりますので、とても重要です。
参考文献
- CKD診療テキスト 改定2版 中外医学社 富野康日己監修 2022年
- 浮腫と脱水、濃縮と希釈の考え方 日本腎臓学会誌 佐々木成 2008:50(2):97-99
- 内科診断学 第3版 医学書院 福井次矢/奈良信雄 監修 2016年
- 一般社団法人 日本呼吸器学会ホームページ 呼吸器Q&A Q26下肢が腫れ(むくみ)ました
同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)
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- 同友会メディカルニュース2019年9月号を掲載しました。
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- 手や足にあざができて消える
- めまいについて
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- 多発性嚢胞腎(のうほうじん)のことを御存じですか?
- 口内炎がたくさんできるのは疲れのせい?それとも…
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- 食後に貧血症状、息苦しさも
- 健康的な食習慣によって腸内環境を整えましょう
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- 心不全の予防とケアを推進しよう!
- 膵嚢胞の一種IPMNは経過観察が必要?
- 「血圧高め」は「高血圧」になる?
- 長引く咳の原因について
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- 膀胱炎の正しい知識と治し方
- 暑さ指数(WBGT)をもっと活用しましょう
- サルコペニアご存知ですか?
- 認知機能障害について
- 心房細動と診断されたら
- 逆流性食道炎とバレット食道について
- 頭痛について
- 汗っかきに潜む怖い病気
- 睡眠時間確保のすすめ
- 食塩摂取量気にしていますか?
- 高LDL-C血症(俗にいう悪玉コレステロール)について
- 最近のがん免疫治療の話
- 乳房超音波検査で乳がん発見率の向上を
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について
- 夜中に足がつることはありませんか?
- ピロリ菌検査で「陰性」であっても気を付けて欲しいこと
- お薬手帳利用していますか?
- 「座りっぱなし」をなくしましょう!
- 歯周病・喫煙と乳がんとの関係
- 血圧はどこまで下げればよいのか?
- 過敏性腸症候群について
- 脳動脈瘤について
- 長時間労働は心・脳血管障害の大きなリスク
- 「胆管がん」ってどんな病気?
- 慢性膵炎についてご存知ですか?
- 地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう
- 乳がん検診を受けましょう!
- コレステロールの摂取制限について
- アサーショントレーニング
- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
- うつ病について
- 「体を動かすということ」をもう一度考えてみませんか?
- 進歩する内視鏡検査
- 高血圧について
- 甘く見てはいけないインフルエンザ
- リンパ球と癌の関係
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
- 睡眠時無呼吸症候群:いびきだけではない危険な病気
- 小腸カプセルとダブルバルーンの話
- 大動脈弁狭窄症の新しい治療法 -TAVI-
- 世界肝炎デーご存知ですか?
- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
- データヘルス計画が始まります
- 『胸やけ、げっぷ』ありませんか?
- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
- NEAT(非運動性活動熱発生)をご存知ですか?座っている時間を短くすることが健康の秘訣かもしれません
食事プラスワン
- 第34回
- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
- 第31回
- 腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!