同友会メディカルニュース

2021年4月号
時間制限食について

1.時間制限食の効果について

コロナ禍による新しい生活様式により、食習慣が変化したり身体活動が減少してしまったりして体重増加が気になっている方も多いのではないでしょうか?このような背景もあり、私の外来等でも減量目的の時間制限食(Time-Restricted Eating;以下TREと略します)について質問や相談を受ける事が増えました。TREとは特定の時間だけ食事を摂取し、それ以外の時間はノンカロリーの飲料のみ摂取するというダイエット方法です。今回はTREについて最近の知見も踏まえてお書きしたいと思います。

ネットで検索しますと様々な事が書かれていますが、実際の効果はどうなのでしょうか?まず、信頼性の高い研究として昨年報告された2件を紹介致します。

  • 研究1;肥満の方を対象にエネルギー摂取を朝食から10時間以内までに制限したところ、3ヶ月間で平均3%の減量効果が得られました1)

  • 研究2;肥満の方を対象に食事時間を4時間(15時~19時)もしくは6時間(13時~19時)に制限したところ、両群とも2ヶ月間で平均3.2%の減量効果が得られました2)

このように劇的ではないものの、一定の減量効果が期待できます。ただしTRE自体にマジックがあるわけではなく、カロリー摂取の時間制限によって摂取カロリーが減少する事で減量効果を得ています。実際、昨年の米国の学会での報告によると、研究者側で食事を提供する形で同じ摂取カロリーで管理したところ、TRE群(食事は13時まで)と通常の食事群とで減量効果に差がありませんでした。

先ほどの2つの研究においてもTREを行った群では摂取カロリーが減少しています(例えば研究2では約550Kcal減少しています)。結局は摂取カロリー次第なわけですが、TREには時間制限という解りやすいメリットがあります。

アテ

2.夜遅い食事は避けましょう

このように減量方法としてTREは一定の効果が期待できます。しかしながら単純に時間を制限すれば良いのではありません。例えば10時間制限で考えた場合、エネルギー摂取をする時間は13~23時でも良い事になります。要するに、朝食欠食&夜遅い食事パターンです。しかし、「夜遅い食事は太りやすい」事は皆さんご存じの通りです。最近報告のあった日本の健康診断結果を元にした研究3)でも「朝食欠食&夜遅い食事は太りやすい」事が改めて証明されています。この一因として夜遅い食事では脂肪燃焼低下が生じる事が報告されています4)

先の両研究ともほとんどの方が19時以降はエネルギー摂取をしていません。そこでTREでも比較的遅い時間設定をしている最近の研究結果を紹介致します5)。この研究では食事時間を12~20時に制限した群(0.9Kg減少)と、自由に摂取した群(0.7Kg減少)とで減量効果に差はありませんでした。加えてTRE群では体脂肪は変化しなかった一方で、筋肉量(特に四肢)が有意に減少してしまっていました。このように朝食欠食+夜遅い食事のTREは減量効果が得にくいばかりか大事な筋肉量を減らしてしまう恐れもあります。

3.朝食は食べましょう

朝食欠食は様々な健康障害を来す事やメンタルヘルス面でも不利益である事が以前から知られています。実際に上記の研究2では頭痛や眩暈をそれぞれ約4割の方が訴えられています。

また糖代謝においては間違いなく不利益があります。日本では、2000万人以上の方が、糖代謝異常(境界型糖尿病と糖尿病)を有されていますが、特に日本人は食後の高血糖が生じやすい事が知られています。同じ昼食と夕食を摂取する場合であっても朝食を食べた場合の方が、昼食後と夕食後の血糖上昇が大幅に低減する事が解っています。食後の高血糖(血糖値スパイク)につきましては、2019年1月号で書かせて頂いておりますので参照して頂ければ幸いです。

これら不利益の主因として、朝食欠食は体内時計(時計遺伝子)を乱すことが挙げられます6)。これまでのTREに関する基礎的な研究などを踏まえますと、本来のTREは体内時計を考慮してエネルギー摂取を日が出ている時間帯のみにするという制限が考え方の主流であったと思われます。それがいつでも良いからエネルギー摂取時間を制限するという話に変化してしまい、微妙な結果に陥っているように感じています。以上の事から、TREを行うのであれば、朝~夕方で実施する形が良いと考えます。

4.さいごに

昔から「早寝・早起き・朝ご飯」と言われるように、睡眠と食事は生活リズムの根幹です。現代人は生活リズムが崩れてしまいやすく、体が社会的時差ボケ(Social jetlag)とも呼ばれる状態になってしまい、健康問題を抱えてしまっている方が多かったのですが、昨年からの新しい生活様式により、さらに生活リズムが崩れやすくなってしまっています。結果、健康寿命など将来の健康のみならず、日々のパフォーマンスなどにも悪影響を来してしまいます。朝食摂取や適切な睡眠など、規則正しい生活を意識して頂き、心身の健康度を向上して頂きたいと思います。

参考文献

  • Wilkinson MJ, et al. Ten-Hour Time-Restricted Eating Reduces Weight, Blood Pressure, and Atherogenic Lipids in Patients with Metabolic Syndrome. Cell Metab 2020;31:1
  • Cienfuegos S, et al. Effects of 4- and 6-h Time-Restricted Feeding on Weight and Cardiometabolic Health: A Randomized Controlled Trial in Adults with Obesity. Cell Metab 2020;32:366
  • Ishida Y, et al. Influence of the Accumulation of Unhealthy Eating Habits on Obesity in a General Japanese Population: The Hisayama Study. Nutrients 2020;12:3160
  • Gu C, et al. Metabolic Effects of Late Dinner in Healthy Volunteers - A Randomized Crossover Clinical Trial. J Clin Endocrinol Metab 2020;105:1
  • Lowe DA, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2020;180:1491
  • Jakubowicz D, et al. Influences of Breakfast on Clock Gene Expression and Postprandial Glycemia in Healthy Individuals and Individuals With Diabetes: A Randomized Clinical Trial. Diabetes Care 2017;40:1573

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