飲酒したいという強い欲望、または飲酒しなくてはという感覚がある
2024年12月号
アルコール依存症について
「依存」とは、不健康な生活習慣を繰り返し行い、止めたくても止められず、生活に何らかの支障を来している状態です。飲酒に依存している状態を「アルコール依存症」といいます。
アルコール依存症は、患者数が100万人を超えている非常に身近な病気です。しかし、患者のうち、アルコール依存症の治療を受けている人は1割にも満たず、ほとんどの患者は未治療となっています。
今回は、アルコール依存症について解説させて頂きます。
1.アルコール依存症のスクリーニング
アルコール依存症の早期発見のツールとして、スクリーニングテストがあります。アルコール使用障害同定テスト(Alcohol Use Disorders Identification Test ; AUDIT)がよく使われます。
AUDITは、国際的に広く使用されている、アルコール関連問題の重症度を測定するための検査です。10項目の質問を用います。質問1~3で現在の飲酒量や飲酒頻度を確認し、質問4~10で過去1年間に生じた飲酒に関連する問題の有無をチェックし、各質問の点数を合計します。
- あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか。
- 0. 飲まない
- 1. 1ヶ月に1回以下
- 2. 1ヶ月に2〜4回
- 3. 1週間に2〜3回
- 4. 1週間に4回以上
飲酒するときには普通どのくらいの量を飲みますか。
ただし、日本酒1合=2単位、ビール大瓶1本=2.5単位
ウィスキー水割りダブル1杯=2単位、焼酎お湯割り1杯=1単位
ワイングラス1杯=1.5単位、梅酒小コップ1杯=1単位- 0. 1〜2単位
- 1. 3〜4単位
- 2. 5〜6単位
- 3. 7〜9単位
- 4. 10単位以上
- 1度に6単位以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- 過去1年間に飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- 過去1年間に普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- 過去1年間に深酒の後、体調を整えるために朝迎え酒をしなければならなかったことがどのくらいの頻度でありましたか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- 過去1年間に飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- 過去1年間に飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
- 0. ない
- 1. 1ヶ月に1回未満
- 2. 1ヶ月に1回
- 3. 1週間に1回
- 4. 毎日あるいはほとんど毎日
- あなたの飲酒するために、あなた自身か他の誰かが怪我をしたことがありますか。
- 0. ない
- 2. あるが、過去1年にはない
- 4. 過去1年間にある
- 肉親や親戚、友人、医師あるいは他の健康管理にたずさわる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすよう勧めたりしたことがありますか。
- 0. ない
- 2. あるが、過去1年にはない
- 4. 過去1年間にある
AUDITの結果 | 判定 |
---|---|
0〜7点 | 問題飲酒ではないと思われる |
8〜14点 | 問題飲酒ではあるが、アルコール依存症までは至っていない |
15〜40点 | アルコール依存症が疑われる |
ふるい分けの目安は国によって異なりますが、日本では8点以上で「問題飲酒」、15点以上で「アルコール依存症」が疑われます。
かかりつけ医などアルコール依存症専門医ではない医師による、問題飲酒者の発見に関する調査の結果、AUDITは血液検査値に基づいたふるい分けよりも感度・特異度ともに優れていることが判明しました。早期からの治療開始に役立っています。
2.アルコール依存症の診断
アルコール依存症は、世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類第10版(ICD-10)などに基づいて診断されます。
① 飲酒に対する渇望 |
② 飲酒行動の抑制喪失飲酒を始めたら止まらない、または飲酒量をコントロールすることができない |
③ 離脱症状飲酒していないときに離脱症状が出現、または離脱症状を避けるために飲酒をする 離脱症状:吐き気、嘔吐、手がふるえる、発汗、不安、イライラ、頭痛、動悸、 |
④ 耐性の増大以前よりも多く飲酒しないと酔わなくなった |
⑤ 飲酒中心の生活飲酒することで頭がいっぱいになり、生活の中で飲酒の影響を受けている時間が長くなった |
⑥ 有害な飲酒に対する抑制の喪失飲酒によって、健康や社会生活、仕事などに悪い影響が出ているのに、飲酒を止めない |
以上の6項目のうち、過去1年間に3項目以上が同時に1か月以上続いたか、もしくは1か月未満であれば繰り返し出現した場合に、「アルコール依存症」と診断します。
3.アルコール依存症の治療
アルコール依存症と診断された場合は、入院での治療が選択されることが多いです。
アルコール依存症は、飲酒を止めるだけでは回復が難しい病気です。飲酒を止めると同時に、飲酒しづらい、また飲酒しなくて済む環境を作り、その状態を維持しなくてはなりません。
長年、多量飲酒の状態にあった患者は、日常生活の中に飲酒という行為が強く組み込まれています。いつもの生活の延長では、飲酒を再開してしまいやすいのです。そのため、今の生活環境をひとまずリセットし、治療に専念することができる入院治療が効果的です。
4.アルコール依存症で受診する
アルコール依存症の患者の受診は、重大なトラブル等を起こしたことを契機に、見かねた家族に連れられてくる場合が多く、本人から進んで病院を訪れることは稀です。患者本人にしてみると、あまり問題意識もなく、受診したい動機も低いのです。そして、それこそがアルコール依存症の特徴でもあります。
御家族もまた、第三者に相談することを躊躇し、自分たちだけで解決しようとする傾向があります。しかし、問題を抱えたまま家庭に閉じこもると、状況は悪化していきます。
アルコール依存症は、専門家の手を借りなければ、治すことが難しい病気です。依存症対策全国センターのサイトに記載されている、依存症専門相談窓口や医療機関に連絡して、適切な治療を受けましょう。医療機関を受診する場合、診療科は精神科になります。アルコール依存症の専門医療機関であればなお良いでしょう。
5.おわりに
アルコール依存症も、他の多くの病気と同様、早期に発見し、早期に治療する方が、患者の負担が少ないです。
生活が破綻する、心身に重大な合併症を起こす、家族に見放される、社会的評価が落ちる等、深刻な状況になるまで待つことはありません。
すぐに専門家に相談し、治療を開始して、飲酒のコントロールを取り戻しましょう。
参考文献
- 樋口進 : 今すぐ始めるアルコール依存症治療. 法研, 2019.
- Gashe P, et al. : The Alcohol Use Disorders Identification Test (AUDIT) as a screening tool for excessive drinking in primary care : reliability and validity of a French version. Alcohol Clin Exp Res. 29 : 2001-2007, 2005.
- 「精神科治療学」編集委員会 : アディクションとその周辺. 精神科治療学, Vol.38 増刊号 2023.
参考サイト
- 日本アルコール関連問題学会 資料集
https://www.j-arukanren.com/data.html - 厚生労働省 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37908.html - 依存症対策全国センター 依存症専門相談窓口と医療機関のリスト
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map/
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- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
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- 肺がん検診のススメ
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- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
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- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
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- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
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- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
- non-HDL-Cを知っていますか?
- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
- NEAT(非運動性活動熱発生)をご存知ですか?座っている時間を短くすることが健康の秘訣かもしれません
食事プラスワン
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- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第44回
- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
- 「座り過ぎ」に要注意! ~毎日コツコツ、病気予防~
- 第42回
- 味噌汁は健康づくりの救世主?!
~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
- 食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
- 第40回
- 推しの力!
- 第39回
- 炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
- 第38回
- 気になる喉の乾燥の防ぎ方
- 第37回
- 香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
- 第36回
- こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
- 第35回
- パンダと一緒に健康に!?
- 第34回
- 好きな香りはありますか?
- 第33回
- 快眠のための寝具について
- 第32回
- マスクと肌トラブル
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- 第30回
- 手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
- 第29回
- 心を満たす食卓が鍵
- 第28回
- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
- 第26回
- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
- 「お料理」のススメ
- 第24回
- 階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
- 第23回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
- 第21回
- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
- 第19回
- 本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!