同友会メディカルニュース

2020年4月号
大腸憩室炎とは?~大腸憩室症について~

大腸憩室について

憩室とは、腸の壁の脆い部分が、腸の外側へ向かって袋状に飛び出したもののことを言います。大腸に限らず、胃、十二指腸や小腸などにもできますが、今回は、比較的頻度の高い大腸憩室と、その合併症の1つである憩室炎について、お伝えします。

原因

憩室は、腸管内圧が上昇することによって形成されます。後天性のものが多く、食物繊維摂取量の不足や、加齢に伴う大腸の衰え、便秘による腹圧の上昇などが要因として挙げられます。なかでも食生活の影響は大きく、

のように言われています。憩室は1つだけの場合もあれば、大腸内に複数形成されることも多く、また年齢が上がるにつれて保有率は増加します。

頻度

大腸憩室をもっている頻度は、40歳以下では10%以下ですが、50歳代では30%、70歳代では50%、80歳以上になると50-66%と、年齢とともに上昇していくことが明らかになっています。

日本の2001~2010年の統計(平均年齢52歳)では、大腸憩室の保有率は 23.9%となっており、全体の保有が30-40%・60歳以上では50%以上という欧米に比べれば少ないですが、食生活の欧米化に伴う食物繊維摂取量の減少や、高齢化社会、また近年は大腸内視鏡検査を受ける機会の増加などに伴い、日本でも増加する傾向にあります。

大腸憩室の合併症として多いのが、大腸憩室出血(以下、憩室出血)と大腸憩室炎(以下、憩室炎)です。憩室出血は文字通り憩室から出血することで、腹痛は伴わないことが多く、鮮血便が主な症状です。日本では、憩室をもつ人の累積出血率は、1年で0.2%、5年で2%、10年で10%と報告されています。一方、憩室炎はさらに発症頻度が高く、憩室出血の約3倍程度と報告されています。

以下、憩室炎についてお話ししていきます。

憩室炎

憩室の中で細菌が繁殖し、炎症を起こすことで発症します。
持続的な腹痛や発熱、下痢、悪心嘔吐などが主な症状です。大腸のどの部位にある憩室が炎症を起こしているかによって痛む場所も異なります。日本を含むアジアでは右側結腸(上行結腸~肝彎曲部)優位であり、憩室炎の症状の約75%が右下腹部痛です。症状から虫垂炎との鑑別が必要と言えます。また日本でも40-60歳の憩室炎は70%が右側結腸ですが、高齢になるにつれて左側結腸(下行結腸~S状結腸)の頻度が増加します。左側型憩室炎の特徴は、年齢層が高く、再発例に多く、重症例が多いです。

一方、米国白色人種では左側結腸優位であり80%と大半を占めています。

診断&治療

急性の腹痛や発熱がある場合、問診・診察の後、血液検査や腹部CT・腹部エコーなどで原因を調べます。炎症が軽く軽症の場合は、腸管安静(禁食)・抗菌薬の投与といった保存的治療で改善します。膿瘍(うみがたまる)や穿孔(穴があいてしまうこと)を伴わない憩室炎(憩室炎全体の80~90%)は、腸管安静と抗菌薬投与により70~100%が改善します。
抗菌薬は内服治療で済むこともあれば、入院して点滴治療を行うこともあります。

大腸憩室炎診断・治療フローチャート

大腸憩室炎診断・治療フローチャート
画像をクリックすると大きな図が開きます

重症になると、膿瘍や瘻孔(腸管に穴が空いてほかの臓器と交通してしまうこと)の形成、腹膜炎を伴うこともあり、経皮的ドレナージ(皮膚の上から膿瘍へ針を刺し膿を抜く)を行ったり、大腸切除術が必要な場合もあります。

危険因子

喫煙は憩室炎の合併症の増悪に関与している可能性が高く、また肥満も関連がつよいと考えられています。

スウェーデンの研究では、憩室炎の穿孔を伴う重症化リスクは、1日15本以上喫煙する人は喫煙しない人と比べ2.7倍であると報告しています。肥満は憩室炎自体の発症リスクにもなると考えられており、スウェーデンの研究で、BMI30以上の女性はBMI20-25の女性と比較して憩室炎発症リスクが33%上昇すると報告されています。

予防のために

憩室炎の再発は、それ自体が必ずしも予後不良の要因にはならないため、再発しても膿瘍や穿孔を伴わない場合は保存的治療がすすめられます。膿瘍や穿孔を伴わない憩室炎の再発率は13-47%、膿瘍を合併した憩室炎を保存的に治療した場合の再発率は30-60%とされています。憩室炎の場合、虫垂炎の際の虫垂切除のように、手術で憩室を切除して治療するわけではないので、いかに憩室炎を予防するか、という話になりますが、この憩室炎の再発予防に関しては、エビデンスのある(有効性が証明された)方法はまだありません。

メサラジンという、潰瘍性大腸炎やクローン病の治療に使われる薬物が、憩室炎の腹部症状のほか再発予防にも有効、という報告もありますが、相反する結果もあり、日本では保険適応はありません。

乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクス(腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える微生物)は、憩室炎治癒後の腹部症状に対しては効果が認められていますが、再発予防効果はないと考えられています。

非吸収性抗菌薬のリファキシミンが、憩室炎の再発予防に有効だという報告もありますが、対象患者さんの臨床像が不明であり、憩室炎全体に予防効果があるとは言えません。

予防法の確立には今後さらなる検討が必要です。私たちが自身でできる対策としては、下記のようなことが挙げられます。

食物繊維や水分をよく摂り、便通を整える

肉など動物性たんぱく質・脂質は控えめにし、野菜や穀物などの食物繊維を日頃から多く摂りましょう。食物繊維は便のかさを増やし、便秘になりにくくする効果が期待できます。また、水分量が少なくても便秘になるので、気が付いた時に水分補給をしましょう。規則正しい食生活も、便通リズムを整えるのに有効です。

菌活

乳酸菌やビフィズス菌のほか、味噌や納豆、漬物などの発酵食品は、腸の善玉菌の働きをよくする作用があります。

刺激物を摂りすぎない

アルコールやカフェイン、香辛料など、腸に刺激の強いものは摂りすぎないようにしましょう。

適度に運動する

身体を動かすと、腸の動きも活発になります。また、肥満は憩室炎の増悪因子のため、適度な運動習慣をもちましょう。

最後に

以前は欧米に多い病態だった大腸憩室症。しかし日本でも50歳代で30%、さらに歳を重ねるにつれ頻度が増えていくことを考えると、決して珍しくありません。大腸の検査をまだ受けたことのない方は、内視鏡や大腸CTで、自身の大腸の様子を知っておくといいかもしれませんね。

参考文献

  • 日本消化管学会雑誌 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 一般社団法人 日本消化管学会
  • どうマネージする?大腸憩室出血・憩室炎  消化器内視鏡 Vol.30 No.6 2018 東京医学社
  • 日本内科学会雑誌 107巻3号 p.571-578 大腸憩室疾患の現状 ―予防から治療まで― 一般社団法人 日本内科学会

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