同友会メディカルニュース

2013年2月号
膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと

膵臓は食事を消化したり血糖をコントロールするなど重要な役割を担う臓器の一つですが、その一方でがんがあっても進行するまで症状に出ない、画像によく映らない、病気の進行が速いといった悪条件が重なっているため、「暗黒の臓器」と呼ばれています。米アップル社のスティーブ・ジョブズ氏が膵臓がんで亡くなったニュースをご存じの方も多いでしょう。

厚生労働省が発表した平成22年度の人口動態統計では、膵臓の悪性新生物(腫瘍)による死亡数は27987人で、肺・胃・大腸・肝臓に次いで5番目に多いと報告されています。(参考までに、検診でよく啓蒙される乳がんは約12000人です。)膵臓がんの平均発症年齢は男女ともに約65歳で、男女比は1.2:1.0と若干男性に多い程度です。近年は多検出型CT(MD-CT)や超音波内視鏡ガイド下針生検(EUS-FNA)といった検査法が普及し、代謝拮抗薬gemcitabine(GEM)や経口フッ化ピリミジン製剤TS-1といった化学療法も登場していますが、それでも5年生存率は10%前後で予後(見通し)の悪いがんの代表格です。

予後不良の原因としては早期発見が非常に困難な事や、手術以外に根本的な治療法がない事が挙げられます。腫瘍の大きさは2cm以下が一つの目安とされますが、それまでに発見されるのは全体の約10%であり、さらに2cmより小さくても7割近くの人には発見時にすでに周囲への浸潤や遠隔転移が認められ、手術不能といった事も珍しくはないのです。

それでは、このやっかいな膵臓がんを少しでも早く見つけるにはどうすればいいでしょうか。まずはどのような人に危険が高いかを知っておくことです。膵臓がんの危険因子を表に挙げましたが、まず膵臓がんの家族歴があるとその危険率が13倍と非常に高いことが知られています。日本の膵臓がん患者の既往歴では糖尿病が25.9%と最も頻度が高く、米国では合併率が60%~81%との報告もあります。血糖値を目安にすると空腹時血糖が140mg/dL以上で危険率が健常人の約2倍に高まります。急激な糖尿病の発症や悪化は膵臓がんの合併を疑い、糖尿病発症後3年間は特に注意が必要とされています。

膵臓がんの危険因子

糖尿病でなくても肥満や過体重が危険を高めることが知られていて、BMI(body mass index)が30kg/m2以上の成人男性は、正常BMIの人と比べて危険率が1.8~3.5倍に高まるとの報告があります。他にも喫煙は膵がん危険率を2~3倍に増加させ、男性では禁煙により膵がんの22%が予防できることが期待されています。コーヒー、高脂肪食、ヘリコバクター・ピロリ菌の関与も疑われているようです。膵がん診療ガイドラインでは、これらの危険因子を複数有する場合は積極的に検査を行うことが推奨されています。

自分がどれくらい危険なのか大体のイメージができたら、次はどうやって病気の兆候をつかむかです。膵臓がんの症状としては黄疸、腹痛、腰背部痛などがありますが、約2割は発見時は無症状で逆に症状が出た時点で既に進行がんである事が多く、自覚症状で病院を受診して根治可能な膵臓がんであったというのは「よほど運のいい方」と表現せざるを得ないのが現実です。実際問題として自覚症状はあてにならず、初期段階で見つけるには健診やドックなどの機会を利用して拾い上げるしかないようです。

健診やドックで膵臓を調べる検査として最も一般的なのは腹部超音波検査(エコー)ですが、2cm以下の膵臓病変では超音波検査の感度は50~60%、1cm以下だと30%ぐらいです。膵臓は胃の裏側にあるために腸のガスや内臓脂肪に邪魔されて非常に見えにくい事が、がんを小さいうちに見つけることを難しくしています。

それではがんそのものがなかなか映らなくても、他に危険度の目安となる画像所見はないのでしょうか。実は通常型の膵臓がんとは別に、膵臓の中を走る管(膵管)の拡張や嚢胞(のうほう)を認める膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)という疾患があり、がんになりやすい事が知られています。こういった膵管拡張や嚢胞の所見が早期がん発見の手掛かりになるのではないかと注目されています。最近の前向き研究では主膵管の径が2.5mm以上に拡張しているとそうでない人と比べて膵臓がんの危険度が6.4倍、5mmの膵嚢胞がある人はない人と比べて6.2倍、両方がある場合は27.5倍とする報告もされていて、膵臓の「主膵管拡張」や「嚢胞」を指摘された人は特にIPMNと診断されていなくても定期的に検査を受ける事ががんの早期発見に繋がると考えられるようになってきています。

その際、一つの検査法だけだとどうしても死角になる部分もあるので、超音波検査の他に上腹部CTやMRCP(MRIを使った胆管膵管造影)といった検査も組み合わせて行った方がよいでしょう。膵臓がんの95%は早期から主膵管の狭窄と拡張を伴っており、特にMRCPはその描出に適しているとされています。採血の膵酵素(AMY:アミラーゼ)や腫瘍マーカー(CA19-9など)も単独では早期の判定は難しいですが、画像や病歴と併せて総合的に判断する際には有用な参考データになります。

要約すると、膵臓がんの家系やご自身の糖尿病・喫煙歴、検診で高血糖や主膵管拡張、膵嚢胞の指摘を受けた方は、自分がどれだけ注意が必要かしっかり自覚を持っておくことが大事です。健診やドックの一般採血や超音波検査だけで油断することなく、症状がなくても腫瘍マーカーやCT、MRCPを積極的に取り入れて早期発見に努めるように心がけましょう。

おすすめのオプション検査

膵臓MRCPセット
頑固な背部痛、腰痛、糖尿病の出現は、膵臓がんの症状である場合があります。しかし超音波検査で膵臓を観察するには、内臓脂肪や消化管ガスが邪魔をして難しいことがあります。これに対しMRCPはMRIを用いて胆管や膵管を描出することで膵臓がんの発見に寄与します。腫瘍マーカーと組み合わせて行うことで、より高い発見率をめざします。
膵臓MRCP+腫瘍マーカー検査 \26,250

MRI

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