同友会メディカルニュース

2023年4月号
医療におけるChatGPTの可能性

2022年11月にアメリカのAI(人工知能)研究所であるOpenAIがリリースした、チャットボットの一種である「ChatGPT」1)が話題を集めています。
今回は医療におけるChatGPTの可能性についてご紹介します。

チャットボットとは

通販サイトなどで、画面の右下に「何かご質問はありませんか?」といった囲みが出てくるのを見たことはないでしょうか。これがチャットボットで、人間との会話を自動化するツールです。

初めに登場したシナリオ型のチャットボットは、例えば「送料はいくら」「納期は何日」といった「よくある質問」をあらかじめ学習させておき、回答を表示させるというものです。この原型は60年以上前から存在していました。

これは人の手間を減らす便利なツールでしたが、必要な情報をコンピューターが自ら収集して蓄積する能力はなかったため、人が手動で入力した情報以外の回答はできず、実際に活用できる場面は限定されていました。

1990年代後半から一般市民の間でもインターネットが普及するようになり、ホームページが急増して、膨大なデータ(ビッグデータ)が存在するようになりました。そこで登場したのはAI型のチャットボットです。AIが自動的に検索を行うことにより、例外的な質問にも対応することが可能となりました。さらに2006年に登場した画期的な技術がディープラーニングです。脳の神経回路を模して学習するニューラルネットワークというアルゴリズムを、複数層結合させて処理することを指します(2017年11月号参照)。従来のシステムでは解析が難しいようなビッグデータから、コンピューターが自ら情報を獲得し続け、解析し、必要な情報を取捨選択できるようになり、回答の範囲や精度が格段に上がったのです。

ChatGPTの登場

大量の文章を使ってトレーニングされた自然言語処理モデルのことを大規模言語モデル(LLM)といい、代表例としては2018年にGoogleが発表したBERT、2020年にOpenAIが発表したGPT-3が挙げられます。いま話題になっているChatGPTはこのGPT-3シリーズを応用させたチャットボットで、文章の分類、感情分析、情報抽出、要約、生成、質問応答といったさまざまな仕事をこなすことができるようになりました。詩や歌、エッセイ、短編小説を作ってもらうこともできるため、「ずっと片思いだった知り合いの女性に愛を打ち明けるラブレターを書いて」と入力して出力された文章が秀逸だと話題になりました。しかも無料です。

次の図はChatGPTに同友会春日クリニックについて質問し、数秒後に表示された結果です。

文章としては自然ですが、所在地は文京区本駒込ではなく文京区小石川ですし、循環器疾患に特化していることはなく、診療時間も間違っています。精度という意味ではまだまだ改善の余地がありますが、技術の進化には驚かされました。

医療への応用

内科の診察では、例えばみぞおちが痛い患者さんが来院した際には、どこが痛いのか、いつからか、痛みに波はあるか、下痢は伴うかなどの問診を行います。コンピューターは触診ができませんので、おなかを押して痛みが強くなるかといった判断はできませんが、問診の回答を解析して、原因の予想や必要な検査、治療薬の選択の目星をつける作業には役立つと思われます。処方する薬の正しい飲み方、起こりえる副作用、第二選択肢の提案などのQ&Aに近い出力も得意でしょう。

また、ChatGPTは長い文章であっても人間が書いたような自然な文章を出力できるため、論文作成への応用が期待されていますが、現時点(2023年3月)では以下のような問題点があります。

  • 信頼できる情報とは限らない
    ChatGPTは2021年9月までのデータをもとにしているので、最新の情報は回答できません。また、上記の図のように、誤った結果を出力する場合があります。
  • 著作権に注意が必要
    ChatGPTが出力した文章は、どこから引用してきたのかわかりません。そのまま使ってしまうと、知らずに著作権を侵害している可能性があります。
  • 偏った情報の可能性がある
    インターネット上のテキストでトレーニングされたLLMを使用しているため、差別や偏見、固定観念が含まれていたり、狂信的な文章が作成される可能性があります。
    プログラミングによっては、意図的に嘘をつくこともできます。
  • 責任を持たない
    ChatGPTは法人ではなく、法的人格を持たないので、万が一違法行為を行ったとしても、訴えたり、裁判所に喚問したり、何らかの形で罰することはできません。

学術誌Scienceは2023年1月に編集方針を改定し、ChatGPTなどのAIツールで作成された文章を論文に使用することを禁止しました2)。また、機械学習に関する国際会議のInternational Conference on Machine Learning(ICML)も、AIが出力したものが誰のものなのか現時点では明確でないとして、やはり科学論文での使用禁止を表明しています(自分の文章の編集・推敲に使うのは可能)3)。ChatGPTは論文作成を助けるツールにはなり得るものの、書くこと自体は著者本人の責任においておこなうことであり、書き手の意見や考えが必要であることには変わりはないでしょう。

終わりに

インターネットで何か検索しようと思った際に使用される検索エンジンはGoogleが90%以上のシェアを誇ります(他にはBing、Yahoo!など)。もしChatGPTが検索に使用されると今までGoogleに入っていた広告収入が減るので、Google陣営も豊富な資金力を使ってChatGPTに対抗するツールを開発中と言われています。日本のAI第一人者のひとりである松本豊・東京大学大学院教授は、自由民主党の検討会で「これまでのホワイトカラーの仕事ほぼすべてに影響が出る可能性が高い」と述べています4)。今のところ医療は人と人で成り立っており、だいぶアナログな部分が残っていますが、近い将来には健康診断や外来の問診を含め、かなりの部分で自動化が進むと思われます。

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