同友会メディカルニュース

2023年3月号
遺族ケアガイドラインについて

遺族ケアガイドラインが、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会により作成されました。日本サイコオンコロジー学会は、がんに関連した心理・社会・行動的側面について科学的な研究と実践を行い、がん患者と家族により良いケアを提供していくことを目指している学会です。また、日本がんサポーティブケア学会は、がん医療における包括的な支持療法を、教育・研究・診療を通して確立し、国民の福祉に寄与することを基本理念とする学会です。

2022年に、わが国で、がんで亡くなった人は385,797人(男性223,291人、女性162,506人)で、死亡総数の24.6%を占めています。

日本人の死因

患者の死は、多くの場合、遺族にとって死別の苦しみのなかで生きていくことの始まりです。また、がんに限らず、最愛の家族や大切な人(遺族ケアガイドラインでは、「重要他者」という言葉が用いられています)を失うことは、人生で最大の苦しみとも言えます。
今回は、遺族ケアガイドラインについて解説させて頂きます。

1.遺族ケアガイドラインの目的

遺族ケアガイドラインの目的は、がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族を支える人を対象として、がん患者における遺族ケアを中心に、最新の知見を総括し、標準的な対応について示すことです。

死別後の悲しみは、多くは自然な形で現れ、時間とともに軽減する通常の悲嘆反応であり、多くの遺族は自分自身の力でその悲しみから回復していきます。一方、悲嘆による心理的・身体的症状が強く継続する場合は、日常生活に支障が出る場合や、死別後の健康状態に大きな影響を与える場合があります。

さらに、健康上の問題が生活や仕事など社会的に深刻な影響を与える場合には、積極的な支援が望まれ、一部の遺族では、うつ病、適応障害などに対する専門的な治療を心療内科や精神科で受けて頂くことが必要となります。

2.喪失と悲嘆

愛する人や物など、かけがえのない対象を失うことを「喪失」といい、喪失に対する心理的・身体的・行動的な反応を「悲嘆」と呼びます。
人生において、人は転居や別離など何度もの喪失を体験していますが、愛する人との死別は、自分のコントロールを超えた衝撃的な出来事となる場合があります。

例えば、Holmesらの研究では、ライフイベントをストレスの強度で順位付けしており、「家族の死」はその中でも上位を占めます【表1】。この方法は、ライフイベント法といわれ、結婚によるストレス度を50点とし、それを基準に0~100点の範囲で自己評価により点数化させたものです。この尺度は、多くの追試がされており、評価が高い測定法です。

〔表1〕 ライフイベントとそのストレス強度
                               
順位* ライフイベント ストレス強度
1 配偶者の死 100
2 離婚 73
3 配偶者との別居 65
5 近親者の死 63
6 自身の怪我や病気 53
7 結婚 50
8 失業 47
10 定年退職 45
11 家族の怪我や病気 44
12 妊娠 40
17 親友の死 37
18 転職 36
23 息子や娘が家を離れる 29
30 上司とのトラブル 23
32 転居 20

*Holmesらの原著では、43項目のライフイベントを順位付けしているが、主な15種類のライフイベントを引用した。

一方、恋人や友人、同僚を亡くした場合などにも、強い悲嘆が生じる場合があります。このように、悲嘆は、家族に限らず「重要他者」を失った人に現れる反応です。ただし、家族の悲嘆は社会的に認知されやすいのに対し、家族以外の重要他者を亡くした場合の悲嘆は社会的に認知されにくく、悲嘆の表出が制限されやすいため注意が必要です。

3.遺族とのコミュニケーション

遺族とのコミュニケーションを行う場合、遺族はどのような内容を多く語るのかについて知っておくことが重要です。多いものは、「治療の後悔」、「記念日反応」、「周囲からの言葉かけ、態度」についての三つです。

① 治療の後悔

遺族からの語りで最も多いのが「治療の後悔」です。遺族も患者の治療方針の決定に参加していることがほとんどですが、どのような選択だったにしても、その後、患者が亡くなっていますので、遺族はもっと良い方法があったのではないかと考えてしまい、後悔の思いを抱えていることが多いです。

② 記念日反応

悪いことが起きた日も含めて記念日と表現されますが、記念日に合わせて遺族に生じる様々な心理的な反応を「記念日反応」と呼びます。記念日反応は、命日はもちろん、がんの告知や再発など診断や治療の節目となる出来事、亡くなった人の誕生日や結婚記念日などでも生じます。

③ 周囲からの言葉かけ、態度

遺族は、「周囲からの言葉かけ、態度」によって、つらい気持ちになる場合があることが知られています。遺族のつらさを何とかしたいと考えている周囲の人の言葉かけが逆効果になってしまうことは少なくなく、「役に立たない援助」と呼ばれています。例えば、「寿命だったのよ」、「気付かなかったの?」などの言葉が挙げられます。遺族が傷つく言葉の代表例を【表2】に示します。

〔表2〕 遺族に対して慎みたい言葉
  • 寿命だったのよ
  • 気付かなかったの?
  • いつまでも悲しまないで
  • 元気そうね
  • でも、これで楽になったでしょ

逆に、遺族から見て有用であったと思える援助としては、遺族同士で話し合う機会を持つ、遺族が感情を表出する機会を持つ、援助者が関心を持つ、援助者がそばにいることが挙げられます。

4.おわりに

遺族とお会いした際は、ねぎらいやお悔やみの言葉を伝え、死別後の状況を含めて、遺族の話に共感的に耳を傾けることが大切です。
そして、悲嘆による心理的・身体的症状が強く継続する場合には、専門家(精神科医、心療内科医、心理士など)への相談を勧めましょう。
また、遺族の問題が低減し、日常生活が問題なく送れるようになった場合でも、愛する人を失った悲しみが消えたわけではないことを忘れないようにしましょう。

参考文献

  • 一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会, 一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会 : 遺族ケアガイドライン2022年版. 金原出版, 2022.
  • Holmes TH, Rahe RH. : The Social readjustment rating scale. Journal of Psychosom. Res, 11, 213-218, 1967.
  • 夏目誠, 村田弘 : ライフイベント法とストレス度測定. Bull. Inst. Public Health, 42, 402-412, 1993.

参考サイト

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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