同友会メディカルニュース

2023年8月号
かぜ症候群 ~感染予防における素朴な疑問を中心に~

はじめに

2020年より流行していた新型コロナウイルスですが、重症化リスクは低下しました。その結果、感染予防としてのマスク着用は個人の判断に任せる状況へと変化し、感染症法上においても5類感染症へ変更となりました。なお、5類感染症には、季節性インフルエンザ等が分類されています。新型コロナウイルスや季節性インフルエンザは、ウイルスの感染症で、不幸にも一部の重症化する方々を除き、通常多くの感染した方々は軽症です。
これら疾患は、社会制限が緩やかになった現在において、高頻度で遭遇する疾患であり、筆者は外来診療において多くの方を診察・治療しております。同時に、受診される方より予防について相談や質問を多く受けます。そこで今回は、新型コロナウイルスや季節性インフルエンザを含めた、かぜ症候群の感染予防における素朴な疑問を、医学的根拠を用いながらわかる範囲で簡潔に説明させて頂きます。

かぜ症候群とは

俗にいう「かぜ」症状は、鼻症状(鼻汁・鼻閉)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(咳、痰)、発熱、全身倦怠感等様々です。医学用語では、「かぜ症候群」といわれておりますが、定義は様々で、基本的には鼻閉、鼻汁、くしゃみ、咽頭痛を特徴とする急性ウイルス疾患と考えられています(参考文献1、図1)。病原体の80%~90%はウイルスです。新型コロナウイルスや季節性インフルエンザも病原体はウイルスで、軽症例では上記定義の症状を満たすことから、かぜ症候群に含まれます。かぜ症候群でも、鼻症状が強くなれば急性副鼻腔炎、咽頭症状が強くなれば急性咽頭炎、下気道状が強くなれば急性気管支炎へとそれぞれ病態が進行していきます(図1)。

かぜ症候群イメージ図

睡眠不足はかぜ症候群にかかりやすいか

筆者は学童期に「寝不足だとかぜをひくよ」とよく親に言われていました。実際はどうなのでしょうか。
健康成人(21歳~55歳)計153人において14日間の睡眠時間を評価したうえで、かぜ症候群の原因として最も多いライノウイルスに暴露させて症状を検討した研究があります。睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上の人と比較して2.94倍かぜ症候群にかかる可能性が高くなったという報告があります(参考文献2、図2)。

睡眠不足はかぜ症候群にかかりやすい

プロバイオティクスはかぜ症候群に有効か

以前より、ヨーグルトや乳酸菌飲料の摂取は、かぜ症候群の予防に効くと耳にします。プロバイオティクス(乳酸菌)は、ギリシャ語で「生命のために」を意味します。宿主に有益な効果をもたらす微生物の事です。
米国の小児に対する研究で、プロバイオティクス摂取群の方が、プロバイオティクス非摂取群よりも一般的な感染症(かぜ症候群を含む)の発症リスクが19%低いという報告があります(参考文献3)。メカニズムは十分にわかっていません(どの乳酸菌が有用か、どのくらい摂取すれば有用か等)が、免疫系を調整すると考えられ、他の研究でも同様内容の報告(参考文献4)がされています。

ビタミンCはかぜ症候群に有効か

ビタミンCとかぜ症候群予防に関しては、よく話題になりますね。メタ解析(複数の医学的論文をまとめた報告)ではビタミンCによるかぜ症候群の予防は否定されています(参考文献4)。しかしながら、小児領域では、ビタミンCはかぜ症候群の発症予防効果を認めなかったものの、かぜ症候群の感染期間を1.6日減少させたという報告があります(参考文献5)。

まとめ

上記かぜ症候群の予防についてお話ししました。かぜ症候群に感染するには、ウイルスの感染力と、感染する方の体のコンディション(睡眠や疲労度や腸内環境やストレス等)のバランスに依存すると考えられます。今回紹介した中で、かぜ症候群予防には、睡眠はやはり重要のようです。その他は効けばラッキーという気持ちで接してみるのはいかがでしょうか。また、かぜ症候群の症状を有する方は、周囲の方にうつさないためにも、場面ごとの状況に応じたマスク着用等の基本的な感染予防策は引き続き重要ではないでしょうか。

参考文献

  • 岡部信彦:子どものかぜ薬 何がホント? ; 総論 かぜって何?~そもそも「かぜ」とは何なのか⋯~. チャイルドヘルス,18:718-720,2015
  • Cohen S et al: Arch Intern Med. 2009 Jan 12;169(1):62-7.
  • Merenstein D et al: Eur J Clin Nutr. 2010 Jul;64(7):669-77.
  • 日山亨、吉原正治:かぜ症候群の予防に関するメタ解析論文のレビュー.総合保健科学, Vol. 34, 2018, 67-74
  • Vorilhon P et al: The Role of Vitamin C as Adjuvant Therapy in COVID-19. Cureus 12(11)

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