同友会メディカルニュース

2022年4月号
新型コロナの影響でメタボはどうなった?

この原稿を執筆している時点でわが国でもオミクロン株による第6波はようやく沈静化の兆しが見えつつありますが、これまで何度も流行が繰り返されその度に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出される中で、私たちは僅か数年前までの常識とは大きく異なる生活様式を長期間強いられ続けています。屋外活動、あるいは集団行動をとる機会が大きく減って「巣ごもり消費」「コロナ太り」といった言葉も日常的なものとなりましたが、これほどの急激な行動変容は過去に例がないことから、心身両面の健康管理に与える影響は全くの未知数です。

コロナ禍においても私たちの健診機関では年間数十万人の受診者の方にご利用頂いており、健康診断の特徴として毎年受診している方も多いことから経年比較が出来る環境にあります。そこで私たちは新型コロナウイルスによる行動制限が課せられた2020年度の当会健診受診者において、流行前の2019年度と比較して健康状態や生活習慣にどのような変化がみられているか、健診結果から検証し学会で研究成果として発表しました1)。すでに複数のメディアで紹介されておりご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、報道では時間的制約もあるため本稿でもう少し具体的にお話させて頂きます。

調査の対象は2020年度に当会で健康診断を受けた受診者の中で、前年度も受診歴があって経年比較が可能で、かつ検査項目にメタボリックシンドローム(以下メタボ)の診断に必要な項目を全て含む148,210名としました。

メタボ該当者の増加率は例年の2倍以上に

実はメタボの該当者自体は年齢を重ねるごとに自然に増加する傾向にあるので、「例年と比較して当該年度にどれだけ多く増えたか」が重要な視点となります。図1にありますように男女共に年率6~8%前後増加するのが一般的ですが、2019年度から20年度にかけては13~17%増と例年の2倍以上の増加率であることが分かりました。これは単純に東京の人口に当てはめると1年間で例年より10万人以上多くメタボの方が増えたことになります。

〔図1〕 メタボ基準該当者の増加率

メタボ診断基準項目では特に中性脂肪と血圧の悪化が目立つ

メタボリックシンドロームの診断にはまず腹囲が必須項目としてあり、次いで中性脂肪、HDL(善玉)コレステロール、収縮期・拡張期血圧、空腹時血糖値が選択項目として用いられていて、選択項目は3項目の内2項目以上を満たすことが条件になります(表1)。

〔表1〕 メタボリックシンドロームの診断基準

今回メタボ該当者が大幅に増えた背景にはこれらの検査項目の悪化があるはずですが、内訳をみると「コロナ太り」という言葉から連想されやすい腹囲も確かに伸び率は高まっていますが、それ以上に中性脂肪と血圧の悪化が目立つことが分かりました(図2)。空腹時血糖についてはこの1年に限ればむしろ軽減、または改善の方向にある様子が伺えます。

〔図2〕メタボ診断基準項目別の増加率

図2 メタボ診断基準項目別の増加率
画像をクリックすると大きな図が開きます

生活習慣では運動が減少、夜の飲食や睡眠は改善

健康診断では生活習慣に関する問診も行っていますが、コロナ禍においてはやはり運動習慣は男女ともに減っており、特に男性は例年以上に大きく減少していることが分かります(図3)。一方で歩く習慣や間食・飲酒の頻度や量、睡眠においてはこれまでより改善傾向にあることが伺え、このことが空腹時血糖の改善に寄与しているものと思われます。急激な社会変容に伴う影響が心配されているところですが、こと生活習慣においては運動習慣以外は概ね健康に良い方向に順応されている様子が見て取れる結果でした。

〔図3〕コロナ禍における生活習慣の変化

図3 コロナ禍における生活習慣の変化
画像をクリックすると大きな図が開きます

健康診断でコロナによる体の内側からの脅威にも対処を

今回の大規模調査では、朝の空腹時血糖のように夜の飲食習慣の変化から改善を認めているものも一部にはあるものの、運動不足によるカロリーオーバーや環境変化に伴うストレス増加の影響を相殺しきれるものではなく、結果としてメタボ該当者が大幅に増えている状況が明らかになりました。コロナ禍ではウイルス感染という外からの攻撃に意識が偏りがちですが、仮に感染を防いでも実は血圧や脂質といった「サイレントキラー」がしのび寄っている事にも注意を払う必要があります。

自身の健康チェックは決して不要不急の用件ではありません。自分でも気付かずに体内環境が大きく変わっている可能性が高い今だからこそ、健康診断を受けて現状を把握し、運動する機会を意識的に増やすなど必要な対策をとるようにしましょう。

参考文献

  • 第62回日本人間ドック学会学術大会プレナリーセッション演題
    「新型コロナウイルス流行による受診者の生活習慣と健康状態への影響」

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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