同友会メディカルニュース

2015年9月号
地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう

1.はじめに

これまで、度々食習慣についてお伝えしてきました。最近では、2013年8月号では糖質制限食(低炭水化物食)は、目先の減量効果は若干勝る可能性が高いものの健康寿命の延長についてはエビデンスがなく、また炭水化物以外の摂取状況によっては、健康上不利益を被る危険性が高くなる事を、2014年4月号では牛肉や豚肉摂取は腸内細菌を介して健康上不利益となる可能性をお伝えいたしました。そして、食習慣を個々の栄養素や有効成分のみで論じると間違った解釈をしてしまう危険があり、包括的に考えることが肝要である事もお伝えいたしました。

基本的に、食習慣についてはエビデンスが不足しており、まだよくわかっていない部分が多いのですが、地中海食に関しては健康上のメリットが沢山の研究で証明されており、十分なエビデンスがあります。今回は地中海食をもとに健康的な食習慣についてお伝えしようと思います。

2.地中海食とは?

地中海食が注目されるきっかけになったのは、1957年から開始された7か国研究です。図1に示しましたように、脂質摂取量が多いほど虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)が多くなるのですが、クレタ島は例外で、脂質摂取量が多いにも関わらず発症率が低かったのです。同様の事が、死亡率や癌発症率にも当てはまりました。

こうして注目されるようになった地中海食ですが、クレタ島の伝統的な食習慣とはどういうものか、その特徴を表1に示します。当時のクレタ島は社会経済的に決して豊かではなかったため、牛肉や豚肉を食べる機会はほとんどなかったようです。結果的に食材は豊富に収穫できる植物性食品や魚介類が主体となり、食品の加工を最小限にとどめ、特産であるオリーブオイルを用いた調理法になりました。

図1

表1

地中海食(クレタ島の伝統的な食習慣)の特徴

  • 全粒穀物、季節の野菜・果物を豊富に摂る
  • 豆類、ナッツの摂取量が多い
  • 油の摂取量は少なくないが、オリーブオイルが主体 (飽和脂肪酸が少ない)
  • 牛肉や豚肉はあまり取らず、時たまの肉も鶏肉がほとんど
  • 魚介類を習慣的に摂取する
  • 乳製品の摂取量は少ないか適量
    (主に羊のチーズで摂るが、自然の草食のため非常に低脂肪)
  • 卵の摂取量は、週4個未満
  • 加工食品の摂取は最小限
  • 昼食がメイン

3.地中海食の効果

地中海食による有益な効果は様々な項目で期待できます。例えば、死亡率の減少、動脈硬化性疾患の減少、減量効果、糖代謝の改善、癌の減少、認知障害の抑制、老化の防止、そしてこれらの結果とも言えますが健康寿命の延長効果などが報告されています。今回はその中から、2つの臨床研究をご紹介したいと思います。

1つ目は、地中海食の脳保護作用を報告したものです(*1)。地中海食を遵守する事で、脳卒中は29%減少、うつ病は32%減少、認知障害は40%減少したと報告しています。また、認知症の主原因であるアルツハイマー病の発症は57%減少したと報告しています。

2つ目は、地中海食で健康長寿を保つ人の割合を調べた研究です(*2)。この研究では健康長寿の定義として、70歳まで主要な慢性疾患(高血圧や糖尿病など)・認知障害・身体機能障害・メンタル問題が全てない状態で過ごしてきた場合としています。この健康長寿となる可能性が、地中海食を遵守していた方では約1.5倍であったと報告しています。

4.健康的な食事とは?

例えば、米国の臨床研究では、食習慣の質を評価する方法として、地中海食スコア(9項目から点数をつける)やAHEI-2010(健康な食生活指数2010:11項目から点数をつける)を用いることが一般的です。AHEI-2010は地中海食遵守の考え方がベースになっています。米国農務省は2011年に国民がバランスの取れた食生活を実践しやすくするためのガイドラインであるMyPlate(*3、4)を発表していますが、地中海食をベースに現代の米国人向けにアレンジしたものと言えます。

地中海食と違い、和食のエビデンスは不十分ですが、7か国研究で認められたように、伝統的な日本食は比較的健康的な食習慣と思われます。個人的には、図2に示しましたように次の5点に注意すれば、伝統的な日本食は究極の健康食ではないかと推測しています。①ご飯は精製度の低いものに(玄米や五穀米など)、②野菜の積極的な摂取、③塩分制限、④揚げ物は極力少なく、⑤果物は適量まで(日本の果物は糖度が高いため)。

米国のガイドラインであるMyPlateのように、日本の食文化に即したものとして、以前からお伝えしている“3つの皿”を毎食意識して頂き、朝食を欠食することなく、夕食の比重が多くならないように気を付けて頂ければと思います。

図2

参考文献・サイト:

  • *1. Ann Neurol 2013;74:580
  • *2. Ann Intern Med 2013;159:584
  • *3. http://www.nyc.gov/html/doh/downloads/pdf/csi/obesity-plate-planner-13.pdf
  • *4. http://dm-net.co.jp/calendar/2011/011596.php

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