同友会メディカルニュース

2015年10月号
慢性膵炎についてご存知ですか?

今回のテーマは、アルコール摂取と関係が深い慢性膵炎です。
まずは膵臓について説明しましょう。

膵臓は、みぞおちを中心に、胃の背中側にあり、左右15cm, 上下3-5cm、厚さ2-3cm、右側が膨らんだ筋子のような臓器です。膵臓には、外分泌と内分泌の2つの働きがあります。炭水化物を消化するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン(膵内ではトリプシノーゲンという活性化していない状態で存在)、脂肪を分解するリパーゼなどの消化液(膵液)を膵腺房細胞が作り、膵管を通って膵臓の中心を通る主膵管に集め、十二指腸に分泌するのが外分泌です。外分泌に関わる細胞の合間にランゲルハンス島という小さな細胞の集まりが点在していて、ここから血糖の調節をするインスリン、グルカゴンや胃酸の分泌を促すガストリンなどのホルモンを血中に分泌するのが内分泌です。

なんらかの原因(アルコール過飲など)で、膵内でトリプシノーゲンが活性化したトリプシンになり、たんぱく質である膵臓自体を消化し始め、膵液が血中に流入し、全身で炎症を起こすのが急性膵炎です。急性膵炎の多くは軽症で治癒しますが、10〜20%を占める壊死性膵炎の死亡率は14〜25%という恐ろしい病気です。

一方慢性膵炎は、膵臓に炎症が持続して、しだいに膵臓の外分泌細胞が破壊脱落、線維化して、内分泌細胞も脱落してゆく病気で、繊維化により膵臓は固くなっていきます。肝臓でいうと肝硬変になるのと同様です。多くは非可逆的な変化と言われています。

2011年に日本で慢性膵炎の医療を受けた人は推定66980人、人口10万人あたり52.4人、慢性膵炎の新規発症は推定17830人でした(厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班による全国調査)。慢性膵炎の有病者数と発症者数は年々増加しています。男女比は4.6:1で男性に多く、有病者の年齢の中央値は63歳、発症年齢中央値は53歳です。慢性膵炎の成因はアルコール性が67.5%で最多、次いで原因不明の特発性が20.0%、胆石性は1.3%で稀でした。また性別の成因では、男性はアルコール性が75.7%、特発性13.4%、女性は特発性が最多で51.0%、アルコール性29.5%でした。ただ女性は男性より少ない飲酒量でも慢性膵炎を発症すると考えられています。慢性膵炎の診断項目の一つには、1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴とあります。これは日本酒(アルコール度数15度)で約3合です。一方で大酒家(日本酒5合/日以上)でもごく一部にしか慢性膵炎は発症しないので、体質(遺伝的素因)の関与も考えられています。つまり慢性膵炎になりやすい体質の方が長年大量飲酒することで慢性膵炎を発症する可能性が有ります。アルコールが主な原因の一つであることは間違いないのですが、まだ正確な原因のわかっていない病気なのです。

慢性膵炎の初期(代償期)には、症状として上腹部痛、腰背部痛、腹部膨満感、全身倦怠感があります。腹痛は約80%の方に見られ、通常鎮痛剤の効きにくい頑固で難治性の痛みです。痛みが強い場合は急性膵炎に準じた治療が必要な場合があります。痛みはアルコール摂取、暴飲暴食、脂っこい食事などをきっかけに食後数時間後から始まります。腹痛のある時には血中、尿中の膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)が上昇することが多いです。この時期に画像検査で診断することは困難な場合も多く、症状と病歴、膵酵素の測定で慢性膵炎を疑います。しかし腹痛が改善するとほとんど日常生活に障害がなく、アルコール摂取などの生活習慣の改善が行われないままで、腹痛が反復します。しかしこの時期に正しく慢性膵炎の診断を行い、節酒、禁酒を厳守、脂肪の多い食事を避け、過食をしないなどの生活習慣の改善を行うことが、これ以上病状を進行させないために非常に重要です。膵臓の炎症が続き腹痛を反復していると、膵臓組織の脱落繊維化が進み移行期になります。画像検査では主膵管の広狭不整や膵石(膵管内の結石)、膵内石灰化が見られるようになり、腹部レントゲンや健診、ドックでも行う腹部超音波、腹部CT、MRCPなどの検査で、腹痛がない状態でも慢性膵炎が疑われるようになります。腹痛はむしろ軽快してくると言われていますが、膵管の狭窄や膵石による難治性、反復性の強い腹痛が起き、鎮痛剤などでコントロールできない場合には、内視鏡的な治療や外科的な治療も考慮されます。さらに膵臓の細胞の脱落により膵外分泌機能が低下し、続いて内分泌機能が低下すると非代償期になります。膵外分泌機能の低下による消化吸収障害、内分泌機能低下による糖尿病(膵性糖尿病)が発症してきます。消化吸収障害は脂質とたんぱく質の消化吸収障害で体重減少や非常に難治性の下痢が続くようになります。消化酵素薬や胃酸分泌抑制の薬の内服が必要になります。膵性糖尿病に対しては、インスリン治療が必要になることが多く、低血糖を起こしやすいため通常の2型糖尿病に比べ、きめ細やかなコントロールが必要になります。非代償期になった慢性膵炎は、その後の生活に大きな障害となる非常に辛い病気です。

また慢性膵炎の患者さんは、一般集団と比較して悪性腫瘍(がん)による死亡率が高く(1.55倍)、特に膵臓がんの合併が多いです。

慢性膵炎は、初期診断が非常に難しく、診断がつかないまま移行期に至り、いったん内分泌、外分泌機能の低下が起こると治癒は難しく、症状のコントロールが治療の主体となります。代償期に正しく診断をすることが非常に重要な病気なのです。アルコール摂取の多い方、時々腹痛や背中のはりなどがあり反復している方は、一度医療機関でご相談されてみてはいかがでしょうか?もちろん暴飲暴食は謹慎んで、アルコールも適量にされることをまずおすすめいたします。

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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