同友会メディカルニュース

2024年4月号
夜間頻尿について ―その原因と生活の質に及ぼす影響―

はじめに

水分をとりすぎた時など、夜間睡眠中に尿意を催して目が覚めてしまうことは皆様もご経験があると思います。夜間頻尿とは、夜間睡眠中に排尿のために1回以上起きなければならないという症状を指しますが、その頻度は加齢とともに増加します。60歳代では男性で83.8%、女性で76.6%と大変多くの方に夜間頻尿がみられています。煩わしい症状である一方で、加齢とともに増加し周囲にも同様の症状をもつ方が多いためか患者さんの中では「年齢のせい」として放置されがちな症状であるようにも思われます。
慢性的に夜間頻尿症状がある場合にはどのような原因が考えられ、また身体や精神の状態にはどのような影響がみられるのでしょうか。

夜間頻尿の原因と病態

夜間頻尿の原因としては多くの疾患や病態が考えられますが(表1)、大きく分けると①多尿(24時間の尿量が増加した状態)、②夜間多尿(夜間のみ尿量が増加した状態)、③膀胱畜尿障害(膀胱の機能障害などで1回の排尿量が減少し排尿回数が増加した状態)、④睡眠障害の4つが考えられ、これらが重なって症状を引き起こす場合や薬剤の副作用による場合もあります。

①の多尿(24時間尿量の増加)の原因としては体内の水分が増えることによる水利尿と、塩分や糖分など体内に増加した溶質を排泄するために尿量が増加する浸透圧利尿があります。水利尿は水分摂取過剰と腎臓での水の再吸収障害が原因と考えられ、水分摂取過剰の原因は脳梗塞などの予防のため自発的に水分を過剰に摂取した結果多尿となる場合が比較的多くみられますが、他にも精神疾患(心因性多飲)や薬剤の副作用等による口渇があります。腎臓での水の再吸収障害の原因としては抗利尿ホルモン(腎臓での水分の再吸収を司る役割を持つ体内の伝達物質)の分泌や機能が低下する尿崩症という疾患などがあります。
浸透圧利尿は糖尿病による尿からの糖排出が多尿の原因となることが比較的多くみられますが、糖尿病の治療に用いられるSGLT2阻害薬(尿糖排出を増加させることで血糖値の上昇を抑制する作用をもつ)による場合もあります。

②の夜間多尿の原因としては睡眠前の水分過剰摂取、前述の抗利尿ホルモンの分泌異常(通常は夜間に多く分泌され夜間尿量を減少させるが加齢に伴いその働きが低下する)、心血管疾患のよるもの、薬剤によるものなどが考えられます。
心血管疾患のうちでは特に高血圧症が夜間頻尿や多尿と関連しています。血圧には日内変動があり通常夜間は血圧が低下しますが、高血圧症の患者さんの中には塩分の摂取量が増加すると血圧の上昇の程度が大きくなる方(食塩感受性高血圧)がおり、この場合は血圧の日内変動が障害され夜間の血圧低下がみられなくなります。正常な場合、塩分の排出は日中に促進されますが、食塩感受性高血圧や極端に塩分摂取が過剰な状態になると日中に塩分が排出しきれず夜間にも塩分を排出するために夜間の血圧が上昇するものと考えられ(図1)、その結果として腎血流の増加と浸透圧の上昇によって夜間の尿量が増加するものと考えられます。このような場合食塩制限をすると血圧の日内変動が正常化することが示されています。食塩感受性亢進の原因としては塩分の排出障害(加齢や腎機能障害による)や、腎臓での塩分再吸収亢進(肥満や糖尿病による)が知られています。
薬剤性の夜間頻尿のひとつの例として、高血圧の治療に用いられるカルシウム拮抗薬があります。カルシウム拮抗薬は日本では約1000万人に使用されているものと推定され、高血圧の治療薬として代表的な薬剤ですがその副作用としてむくみ(浮腫)がみられることがあります。浮腫として生じた水分が夜間臥床した際に血管内に戻ってくることとカルシウム拮抗薬の作用として血管を拡張させて腎血流量を増加させる作用があり、この2つが関与して夜間頻尿をきたすものと推察されています。

③の膀胱畜尿障害は膀胱容量自体が低下する場合と、排尿により排泄されずに膀胱内に貯留した残尿により実際に機能する膀胱の容量が低下する場合があります。その原因疾患として代表的なものは過活動膀胱(膀胱が過敏になって急に我慢できない尿意が生じる疾患で通常は昼間頻尿と夜間頻尿を伴う)や前立腺肥大症(前立腺により膀胱出口が閉塞されることで残尿がみられ、機能的膀胱容量が減少する)、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛・圧迫感・不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴う)、骨盤臓器脱(高齢女性にみられ膣から骨盤内臓器の下垂をきたす疾患)が挙げられます。これらの疾患では泌尿器科専門医への受診が推奨されます。

④の睡眠障害については夜間に尿意を感じて中途覚醒する、または夜間に中途覚醒すると尿意を感じるというように相互に関係し悪循環をきたしやすいと考えられています。一般的に高齢になると若年者と比較して深い睡眠の頻度が減り浅い睡眠となるため中途覚醒が多くなります。また中途覚醒は膀胱内圧の上昇を生じ、膀胱の容量低下をきたして尿意が生じる原因となります。また入眠困難や中途覚醒は加齢に伴う睡眠構築の変化のみではなく糖尿病やレストレスレッグス症候群(安静時に脚・下腿部に生じる不快な異常感覚を特徴とする疾患で歩行や脚を動かすことで症状が軽減し高齢者に多い)や睡眠時無呼吸症候群(夜間睡眠中に呼吸が止まるため中途覚醒が増加し日中の眠気を生じる)が原因となる場合もみられます。睡眠時無呼吸症候群では持続陽圧呼吸(CPAP)治療により夜間頻尿が改善することが知られています。

夜間頻尿の生活の質(Quality of life=QOL)への影響

QOLに関しては夜間頻尿の回数と相関して支障がみられ、2回以上の夜間頻尿がQOLの低下につながり、男性では3回、女性では4回以上で支障度が深刻になるとされています。夜間頻尿は夜間覚醒を引き起こすため睡眠障害と関連し精神的状態にも関与するといわれ、日中の眠気を引き起こして活動性を低下させ、うつ病のリスクも高まることが指摘されています。高齢者において夜間覚醒は転倒の原因となり大腿骨頚部骨折のリスクが増加することや、覚醒に伴う交感神経系の活動上昇が心血管系に関連した死亡のリスクを上昇させるという報告もあります。

おわりに

夜間頻尿の原因や病態は多岐にわたりますが、原因に応じて適切な治療を受けることにより症状やQOLも改善する可能性があり、まずは「年齢のせい」と決めないで医師に相談することが重要と考えます。

〔表1〕 夜間頻尿の原因となる病態と疾患
 
病態 疾患
多尿 水利尿
浸透圧利尿
水分過剰摂取・尿崩症・薬剤
電解質利尿・糖尿病などの非電解質利尿・薬剤
夜間多尿 水分過剰摂取・抗利尿ホルモン日内変動異常
心血管性疾患・薬剤
膀胱畜尿障害 過活動膀胱・間質性膀胱炎・膀胱痛症候群
前立腺肥大・骨盤臓器脱
睡眠障害 中途覚醒・早朝覚醒・再入眠困難
レストレスレッグス症候群・睡眠時無呼吸症候群

*Holmesらの原著では、43項目のライフイベントを順位付けしているが、主な15種類のライフイベントを引用した。

シダキュアについて

同量の塩分排泄をするために高血圧患者では正常者と比較してより高い血圧(A→B)が必要。高血圧患者の中でも食塩感受性型は非感受性型と比較して同量の塩分を尿から排泄するのにより高い血圧が必要となる。*文献3より改変

参考文献

  • 夜間頻尿診療ガイドライン 第2版 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会 編
    リッチヒルメディカル株式会社 2020年5月25日
  • 特集 夜間頻尿―診断と最新治療 日本医師会雑誌 第152巻 第9号 2023年12月
  • 高血圧 医療と技術 楽木宏実 第62巻 第3号 2010年

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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