季刊誌「お元気ですか」アーカイブ

2023年4月号

増田明美さん

「私の健康法」

仕事でもプライベートでも、
人と会うとその人から元気を貰えるんです。

ロスオリンピック女子マラソン日本代表
スポーツジャーナリスト
増田明美さん

――今回は元女子マラソン選手でスポーツジャーナリストの増田明美さんにご登場をいただきました。学生時代から社会人ランナーの時代にかけて数々の長距離レースで日本記録を塗り替え、1984年ロサンゼルスオリンピック女子マラソンの日本代表として出場。その後もスポーツライターや解説者としてご活躍中の増田さんに、元気の秘訣と走ることへの思いについてお話いただきました。

人に会うことが元気の素

 本当はね、一番好きなスポーツはテニスだったんです。『エースをねらえ』の岡ひろみに憧れて、中学時代は軟式テニス部に入部しました。好きなスポーツはテニスだったのですがヘタッピで良い結果を出せたのは陸上だったんです。助っ人として出場した駅伝で、男性ランナーをごぼう抜きして陸上部に引っ張られました。それで8百mに出場したら千葉県記録を作りましたよ。
 子供の頃から「走ること」は日常でした。家から小学校まで2.5kmあったのですが、忘れ物が多くてしょっちゅう取りに帰っていました。のどかな田園風景、そして蜜柑の花や桃の花の香り……その中を風を切って走るのが気持ち良かったですね。近所へおつかいに行くのにも、歩きではなく走っていました。
 私にとって何が元気の素になっているかというと、人に会うことなんです。お喋りですし、仕事でもプライベートでも、人と会うとその人から元気を貰えるんです。だからコロナ禍の1年目とか、本当に人と会えない時間が多くあって辛かったですね。

「非国民!」と言われて
消えたいと思いました

 私の人生のなかで人と会いたくないと感じたのは一度きり、それがロサンゼルスオリンピックで途中棄権をした時です。時代が時代でしたので、なぜゴールできなかったのか?って。成田空港に着いたら、通りすがりの人にまで指を刺されて「非国民!」と言われて、それが胸に刺さっちゃって。会う人会う人がみんな私のことをそんな目で見ているんじゃないかって思いこんじゃって。今思えば「大丈夫かな」と心配してくれている目だったと思うんですが、当時20歳でガラスの心でしたので、トラウマになってしまったんです。それから3か月くらいは、千葉の会社の寮に引きこもって、もうシャボン玉みたいに消えてしまいたい。どうすれば消えることができるんだろうとか、そんな事ばかり考えていました。心の病気でしたね。

ロス五輪での失敗が
自分を変えるきっかけに

 でも、あの時をきっかけにして、私自身すごく変わりました。偶然は必然だって言われるように、オリンピックで失敗したのは神様から与えられたものだと思うんです。天才少女と言われた時期もありましたが、あの頃の私は本当に勝てばいいっていう事しか考えていなかったんです。だからすごく我が強くて、全てが自分を中心に回っていると思っていました。トレーナーさんが足をマッサージしてくれても、メーカーさんがシューズを何足も送ってくれても、それが当たり前と思っていて、心から「ありがとう」という気持ちがなかったですね。天狗でした。でも、あの失敗で自分を全否定しました。
 そんなどん底の私を助けてくれたのが「人」でした。死にたいと思っていた時に手紙が届いたのです。10枚くらいの便せんにそれまでの自分の人生を綴ってくださった人がいて、最後に「マラソンも長いけど、人生はもっと長いから、元気出して頑張りなさい」って。涙がこぼれました。「明るさ求めて暗さを見ず」と一言書かれた葉書をくださった人もいて。そんな優しい手紙と向き合う中で、私は少しずつ変われたような気がします。これからは、元気のない人を助けられる人間になりたいって。選手の時の私は、そういう心が育っていなかったんです。人は失敗から学ぶものですね。人は人によって助けられるんだと心底思いましたよ。あの時の反動でしょうか、今は本当に人と会うのが好きで、仕事でも何でも、人と会っていれば元気がもらえます。

2本の足は2人の主治医
すごく実感できるんです

 今でも毎日1時間走っています。日常でも買い物や駅へ行くときも走っていますので、一日15kmくらいは走っていると思います。健康のためというよりも「心の贅肉を取る」という感じですね。走る習慣があるお陰で良い自分でいられますし、旅をしている感覚です。自宅を拠点として、いろんな公園を巡ったり、海の方へ行ったりもしますよ。士別などの出張先では美しい景色にワクワクし90分くらい走ります。2本の足にしっかりと筋力がついていれば、良い旅ができますよって友人にもすすめているんです。もちろん歩きでも良いのですが、私には走る方が楽ですね。
 イベントへ参加させていただく時など、よくお医者様にお会いしますが、「2本の脚は2人の主治医です」と言われた先生がいました。2本の脚が丈夫だと、2人の主治医を抱えているくらい健康でいられるっていう事で、私もすごく実感できる言葉です。
 また走ることでストレス解消になりますし、机に向かっている時よりもひらめきがありますね。ソクラテスやプラトンも、歩きながら会議をしたという逍遥学派だったようですね。良い物質が分泌されるのでしょう。
 そしてヘンな話ですが私、3日も走らないと体が痒くなってきちゃうんです。走らないことに対するジンマシンでしょうかね。多分「天寿を全うするまで走りなさい」って、神様から与えられている体なんだと思います。それくらい走ることが日常になっています。
 健康は、心のケアが重要だなと思います。私の母は昨年の10月に脳出血になり、失語症と右半身の麻痺で寝たきり状態になりました。そんな時にコロナになりました。10日間、大きな病院に入院して隔離されていましたが、ごはんが食べられなくなってしまい……。病院からは胃ろうの話も出たのですが、うちの母は胃ろうなんて望まないと思ってお断りをしたんです。もっと長期間入院していてくださいとも言われましたが、それも隔離10日間が終わったらうちに帰しますと断りました。そしてうちに帰ってきたら、パクパク食べるのです。病院は、体をしっかり治療してくださいます。血圧や脈なども完璧にしてくれますが、心が置き去りになっちゃうんですね。やっぱり健康は心が大切だと実感しました。心の状態によって体の健康にも大きな影響を与えるんだって思います。

増田明美さん

<プロフィール>
増田明美(ますだあけみ)さん
1964年生まれ。千葉県出身。
数々の長距離レースで日本新記録を塗り替え、1981年のアジア選手権の3千mで金メダルを獲得。1984年ロサンゼルスオリンピック女子マラソン日本代表に選出される。
現在はスポーツライターとして新聞・雑誌等での執筆や、陸上競技の解説者として活躍中で、2020東京オリンピックでもテレビで解説を務めた。

詳細を見る

過去に発行した季刊誌をPDF形式で閲覧することができます。

掲載されている内容は発行当時のものです。登場されている方の肩書きや、料金表示、キャンペーン内容等について最新の内容とは異なる場合がございます。

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?~NEW
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!
      ~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2024年10月号
  • 私の健康法
    ゴルフトーナメントプロデューサー 戸張 捷さん
  • 鼠径ヘルニアについて
    順天堂大学医学部附属順天堂医院
    大腸・肛門外科 助教 雨宮 浩太
    ドクターによる健康に役立つ医学情報をご紹介いたします。
  • 糖尿病について考えてみませんか?
  • 自宅でできる足の筋力トレーニング
  • 更年期の女性だけじゃない?「更年期障害」
  • 春日クリニック 特別ドック2024年4月1日フロアリニューアル

ページトップ