季刊誌「お元気ですか」アーカイブ

2024年1月号

歌舞伎役者 松本 幸四郎さん

「私の健康法」

歌舞伎の歴史を繋いできた先人を敬い、
そのうえで自由な発想を取り入れていきたい。

歌舞伎役者
松本 幸四郎さん

――今回は歌舞伎役者の松本幸四郎さんにご登場いただきました。古典から復活狂言、新作歌舞伎まで幅広い演目に取り組まれる一方、劇団☆新感線の舞台やテレビドラマ、映画など様々なご活躍をされ、1月スタートの『鬼平犯科帳』で鬼平役を演じられる松本様に、お正月の過ごし方や日頃から健康に関して気を付けていること、そして歌舞伎に対する思いなどについてお話を伺いました。

喉を守るため意識すること

 舞台に上がるということはすごく消耗しますので、そうなると食べ応えのあるもの、とくに肉が欲しくなりますね。私、ほぼ毎日馬肉を食べてるんです。馬刺しというのは消炎効果があるって聞いたことがあるんです。舞台だと、やはり声を使うものなので、喉のケアが大切です。一日酷使した喉を、次の日までに回復させなければいけませんので。色々なケアの方法はあると思いますが、なかなか続けられないものが多い中、馬刺しはそもそも好きなので、必ず舞台が終わると、まず楽屋で食べるようにしているんです。
 喉を守るということで湿度には注意しています。とくにホテルは乾燥しやすく、これは声に一番影響しますので、とにかく加湿するんです。加湿器を入れてもらったり、それだけじゃ足りないのでお風呂にお湯を張ったりしています。
 あとは実際の劇場の中についてですが、まあおそらく埃だらけだと思いますので、そこにいるだけでも喉によくないって思います。うがいはもちろん、鼻うがいも必ずしますね。なるべく舞台で声を出すこと以外で喉を刺激しないように、乾燥とか埃とかから喉を守るっていうことを意識しています。

正月は貴重な話を伺う機会

 年末年始はゆっくりと過ごされたり、どこかに行かれたりする方が多いと思うんですけど、私の場合、真逆と言ってもいいぐらいに忙しいですね。新型コロナで中断されていた年もあるのですが、元旦に先輩役者さんの家へ挨拶回りをするんです。逆に、父の家へご挨拶に来られる方がいらっしゃるので、そこでも皆さんと挨拶をしたり。それだけでもう元旦は終わってしまいますね。何ていうか、本当に慌ただしい元旦ですが、それでこそお正月を迎えたという実感が湧くんです。
 先輩の役者さんのお宅に伺うというのは、いくら親しくさせていただいていても、そうそうあることではないですよね。そういう年始回りというのがある意味チャンスでもあるし、そういう機会にお芝居のことをちょっと伺ったりするっていうのも、すごく大事な習慣なんです。2日後にはもう楽屋で会うのですが、直接お宅に伺うと、ちょっと違った、そこでしか聞けない話というものもありますので、そういう意味ですごく良い機会なんです。

不安だからこそ毎日舞台に

 舞台に入る前はもちろん緊張しますので、舞台の上でも「大丈夫、大丈夫…」とつぶやいたりしますね。お客様にとっては、舞台の上で「うまくできないかもしれない」とか、不安な表情を見るのが一番辛いことだと思うので、逆に「今日はもうこれしかできません」っていう開き直って舞台に立つというのが大事だと思うんです。後悔は幕が締まった後にすればいいんです。舞台の上では、誰よりもいい男だとか、誰よりも強い男だとか、誰よりも悪い男だとか… 役によってそれぞれですけど、そういう風に自分で暗示をかけるんです。
 落語家の立川談志師匠に生前よく可愛がっていただいたんですけれど、「なぜ毎日舞台に立てるか解るか?」って聞かれたことがあるんです。もちろん「舞台が好き」ということもあるんだと思いましたが、「不安だから立つんだよ」と言うんです。 談志師匠は不安という言葉がない人に見えるんですけど、「今日はうけたかもしれないけれど、明日は分からない。だから明日も立つんだよ」って。自分の中で今日できなかったことを明日できるようにするって、そういうことがあるからこそ、明日も同じ演目を演じることができるんです。「できたって思っちゃったら、その時は俺、やめるよ」とも言っていました。今日、完全に演じることができてしまったら、もう明日演じる必要性がないですからね。それはつまり、常に上へ上へっていう、ちょっと優等生な感じがしますけれど、その想いがあるからこそ次の日も舞台に立てるし、それこそ何十年も同じ役をやり続けられるんだと思います。

先人たちを敬う心が根底に

 私も50になりましたが、やっぱり歌舞伎というものにこだわって生きていきたいと決めているので、そのためには歌舞伎というものがずっと生き続けられるようにしなければいけません。長い歴史の中で、その時代、その時代の人々に感動していただくということで、現在にも繋がっているものですので、先人の方々がこういう風にやってこられたとか、かつてこんなにすごい人がいたとか、そういうことだけをお見せしても、それは感動にはならない。今の時代の人にどう感動していただくかということを、先人たちはその時に考えてやってきたからこそ、今も上演できる作品として残っているんです。
 そこには先人を敬うっていうことが根底にあると思います。オリジナリティとか個性とかっていうものが問われる時代ですけれど、それは人からの評価であって、自分で言うことではありません。それはただの癖です。今まで積み上げてこられた方々への尊敬の念があるからこそ、それに憧れるし、逆にそれに相対して進化させたいという思いが生まれたり、先人を敬うということはやっぱり大事なことだと思います。
 そのうえで、歌舞伎のこれからの可能性というものも考えています。常に色々なものを吸収して、歌舞伎というものに昇華していきたい。それこそ能・狂言を歌舞伎にしたり、三味線を取り入れたり、たくさん早替わりしたり、踊ったり、舞台の上でどれだけお客様を驚かせるか。自由な発想っていうものを探っていきたい。地球がある限り、新しいものが毎日生まれているわけですから、それをどうやって歌舞伎にしようか。昇華していくか。これは絶対面白くなるだろうっていうことを信じて形にしていきたいと思っています。そのためには健康第一です。舞台の上では、全ての表現は自分の体を通してお客様にお見せするので、強い体と心を維持していきたいですね。(談)

松本幸四郎(まつもとこうしろう)さん

<プロフィール>
松本幸四郎(まつもとこうしろう)さん
1973年生まれ。東京出身。
1979年に歌舞伎座『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名して初舞台。1981年10月に歌舞伎座 『仮名手本忠臣蔵』七段目の大星力弥ほかで七代目市川染五郎を襲名、2018年1月2日に歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』にて松本幸四郎を十代目として襲名された。
芸術選奨新人賞、日本芸術院賞など数多くの受賞歴を持つ。

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